読書記録

2021年08月27日(金) 臨床の砦 / 夏川 草介



 主人公は40代の消化器内科医、敷島寛治。
彼が勤務している長野県の信濃山病院は「コロナ診療の最前線」。
呼吸器の専門医はおらず、専門外の内科医と外科医が集まった混成チームで対応に当たっている。重症患者を搬送できる医療機関は、一か所しかない。

一般診療を継続しながらの診察は熾烈を極める。発熱外来に並ぶ車に防護服を着た看護師がiPadを渡し、医師とオンラインでやり取りする。端末をうまく操作できない人ももちろんいて、病状把握は忍耐の連続だ。感染症病床を六倍に増やし、クラスターが発生した介護施設の高齢者を受け入れ、ぎりぎりの上にぎりぎりの状況が重なっていく。日々必死に理性を保ち、最善を尽くすチーム。彼らの前にもたらされたのは、院内感染が発生したという、無情の事実だった。

今、日本に突きつけられている現実。




2021年08月13日(金) これでおしまい / 篠田 桃紅




 桃紅さんの 「ことば篇」と 編集部がまとめた 「人生篇」と。



着物と洋服、人の体を包むということでは同じ。非常に違うのは着物は包むのよ。洋服は入れるのよ。かたちの決まったものの中に生身の人間が入っていくのよ。それは大変な違い。

物と人との間柄の違いね。着物は人間に対して非常に謙虚。洋服は人間を規制している。私の中に入りなさい。
わたしはこれ以上大きくも小さくもなりません。着物はどんなに太っても痩せても、同じ一枚で包むじゃない。

なにしろ老いるということは初めての経験だから、これはやっぱり一生のなかで非常に大事な人間の経験なんだと思いますね。


 2021年3月1日、老衰で死去。107歳。

              ― 合掌 ―











2021年08月07日(土) 風待ちのひと / 伊吹 有喜



 “心の風邪”で休職中の39歳のエリートサラリーマン・哲司は、亡くなった母が最後に住んでいた美しい港町、美鷲を訪れる。 哲司はそこで偶然知り合った喜美子に、母親の遺品の整理を手伝ってもらうことに。 疲れ果てていた哲司は、彼女の優しさや町の人たちの温かさに触れるにつれ、徐々に心を癒していく。 喜美子は哲司と同い年で、かつて息子と夫を相次いで亡くしていた。 癒えぬ悲しみを抱えたまま、明るく振舞う喜美子だったが、哲司と接することで、次第に自分の思いや諦めていたことに気づいていく。 少しずつ距離を縮め、次第にふたりはひかれ合うが、哲司には東京に残してきた妻子がいた――。 
人生の休息の季節と再生へのみちのりを鮮やかに描いた、伊吹有喜デビュー作。

                      ポプラ社



 喜美子ような人になりたいと思わせる読後感。


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