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『女性死神協会 会議中07』
『最高の会議室はどこだ』
十一番隊上等武闘場という看板の上には、べたりと貼られた紙には「女性死神協会本会ぎ場」と書かれていた。 「さて、みなさん!」 女性死神教会会長であるやちるの声が本会ぎ場に響き渡る。 堂々たるそのやちるの後ろでは、副会長である七緒が控えていた。 「なんだかすっごくひさしぶり」 「……それを口にされてはいけません」 ぼそりと呟いたやちるに、七緒が囁く。やちるは傾げた首を元に戻して笑った。 「まあいっか。会議をはじめよ!」 その言葉を合図に七緒はくくっと眼鏡の位置を直し、黒板に書かれた議題を指し示した。 「さて、本日の議題はこちらになっております……十一番隊の皆々様と更木隊長より提出されました。こちらは会長より提供されておりますが、こうも頻繁にかつ長時間の会議により、十一番隊隊員の稽古時間が減り、更木隊長の苛立ちは増し、つられて斑目三席の眉間の皺が深くなる、という」 「単に暴れられなくて苛々してるだけなんじゃないの?」 乱菊が笑ってそう言うと、全員が頷いた。七緒もふっと笑みを浮かべるが、すぐに真面目な顔をする。 「まあそんなところではないかと思いますが、私共もいつまでも会長に甘えているわけに参りません。 そこで、会議のための最適な部屋を探し、借りられるようにしたいと思います。前回の会議で皆様に、部屋の候補をご一考下さるようお願いしておりました。順に発表して頂きます」
「では、最初の方!」 「はーい、あたしね」 七緒の声に乱菊がのんびりと手を挙げる。そして足下から数枚の写真パネルを取り出した。青い空、白い雲、そして陽光を鈍く反射する瓦屋根が見える。 「……すみません、乱菊さん」 「なぁに」 「どう見てもこれは屋根に見えるのですが」 低い声で尋ねる七緒に向かって、乱菊は柔らかに微笑んだ。 「屋根だけど?」 「屋根の上でどうやって会議するおつもりなんですかっ!」 「えー、ひなたぼっこしながら?」 あっけらかんと笑って小首を傾げてみせる乱菊の前で、七緒は小刻みに震えている。その顔を覗き込み、乱菊は、あららー、とまた笑った。 「だって、これまでだって別に黒板とかなくたって困らなかったと思うわよー。あ、でもね、雨の日とか夏の暑い日とか冬の寒い日は辛いかなってことくらいは考えてるわよ。だからそんな日はここで」 乱菊はおもむろにもう一枚を表に出した。 「乱菊さんご贔屓の居酒屋じゃないですかっっ! だめですっ! 一応これでも仕事なんですよ仕事! それにここでは会議の度にお金がかかってしょうがないじゃないですか!」
「では、次の方」 「あ、はい、私です」 七緒の声に勇音がおずおずと手を挙げる。そして背後から数枚の写真パネルを取り出した。鯉の泳ぐ池には小さな庵が映っている。 「……すみませんが、勇音さん」 「は、はい」 「これ、雨乾堂に見えてしかたないのですが」 何かを押し殺した声で尋ねる七緒に、勇音は困ったように微笑んだ。 「はい、雨乾堂です」 勇音がもう一枚のパネルを出す。そこには布団から半身を起こした浮竹が、口の片側から吐血しつつ爽やかに笑って親指を立ててポーズを決めていた。七緒ががっくりと項垂れる。 「浮竹隊長が常にお休みになっておられるじゃないですかっ! と申しますか病人の寝ているところで騒がしくできるわけないですし、女性死神協会の会議なのですから浮竹隊長にお聞かせするわけには」 「あ、それについては浮竹隊長曰く、『華やかな女性陣に囲まれるのも、まあいいんじゃないかな。元気を分けてもらおうか。ははは』とのことでした。それとですね」 すでに疲れた表情の七緒に勇音は優しく微笑む。 「浮竹隊長にお聞かせできない会議のときには、卯ノ花隊長が浮竹隊長を診察するため四番隊にお連れするとのことでしたので」 「何あなた方職権乱用してるんですかーっっ! だめですだめですっ! どこがご病気なのかイマイチ分かりづらくとも病人なんですよ浮竹隊長は!」 (「でも浮竹隊長、喜んで四番隊に向かうわよね」という囁きあり。七緒の一睨みでぴたりと止む。)
「では、次の方」 「うむ、私だな」 七緒の声に砕蜂が鷹揚に頷く。そして懐から数枚の写真パネルを取り出した。青い畳の、広々とした、しかし殺風景な和室が写っている。 「……すみません、砕蜂隊長」 「どうした」 「こちらは……どちらでしょうか」 おそるおそる尋ねる七緒に向かうと、砕蜂は微かに口の端を上げた。 「刑軍の一施設にある部屋だが」 「ちょ、ちょっとお待ち下さい…………刑軍の施設は一般の死神は立ち入り禁止では」 七緒の言葉に、砕蜂は小さく笑う。 「何を言う。貴様らが一般の死神ではないことくらい、私はよく分かっているぞ……まあ、確かに貴様らにも見せられぬものはあるので、所々では目隠しをしてもらわねばならないが」 「目隠しをすれば入れるんですか!」 七緒は驚いて眼を瞬かせる。周囲も一様に驚きの表情をする。それを見渡し、砕蜂は厳かに頷いた。 「うむ、見さえしなければ問題はない。まあ、耳を塞ぐ必要は生じないだろう。会議のときには部下に申しつけておくゆえ、音の届く範囲で行われることはない。嗅覚、触覚については閉ざす必要はないし、味覚は無関係だ。とにかく、目隠しだけだ。これを外されると私もなかなかに厳しい選択をせざるをえな」 「すみませんご遠慮させてください本当に申し訳ありませんがちょっとそれだけはなかったことに!」
「…………では、次の方」 「はい」 七緒の声にネムが静かに手を挙げる。そしてどこからともなく数枚の写真パネルを取り出した。そこには真っ白な壁に囲まれた、窓のない無機質な部屋が写っている。 「却下」 「まだご説明しておりませんが」 首を傾げて七緒に尋ねるネムから顔を逸らし、パネルを見ないように七緒は眼を閉じた。 「あー……だめなのかしら。聞かないとだめなのかしら」 「聞いて頂くために準備して参りましたが」 「……だって、それ、どうせ研究所の一室か十二番隊の一室でしょ」 細く目を開けてのぞき見る七緒に、ネムは頷いた。 「はい、研究所の一室です。マユリ様が特別にお貸し下さるとのことでした」 「その時点でお断りしたいんだけど、一応尋ねておきましょう。条件は?」 「簡単なものだけでした。この一室を使用する際、いろいろとデータを採取するための機器を接続させて頂きます。皆様にはそれ以上、煩わしいことはございません。ただ少々、部屋の空気が薄くなるなどの様々な負荷をかけてみたり精神的な攻撃をしかけてみたり等の」 「等の、じゃないでしょうが! 十二分に煩わしいでしょっっ! 絶対にお断りします……とお伝えして!」
両方のこめかみをぐりぐりと押さえ、七緒は大きく溜息をついた。 「……一応、隊長からお許しを頂いているので八番隊の一室をお貸しすることもできるのですが、隊長が隊長なものですからどうも皆様をお連れするのに一抹の不安がありまして」 七緒は足下で笑っているやちるに目を向ける。 「会長はどう思われますか」 七緒の問いかけにやちるは顔を上げ、んー、と首を傾げて見せた。 「あのね、考えてたんだけど、びゃっくんの家なんてだめかなあ」 「……は?」 「だって、広くて使ってない部屋がたくさんあったよ」 やちるはそう言うと無邪気に笑う。全員が、ああ、と頷いた。 「朽木隊長の家か、なるほど。確かに広そうよね。豪邸だもの」 乱菊が唇に指をあてて記憶を掘り起こして言う。 「そうですね。伺ったことがありますが、人の気配のない部屋がたくさんありました」 勇音が両頬を手で押さえて、ゆっくりと言った。 「確かにな。奴は豪邸を最大限に活用しているとは思えぬ」 砕蜂が腕を組んで断言した。 「…………具体的には、二階南東角部屋の奥にあります隠し部屋などがよろしいかと」 ネムがいつのまにか間取り図を広げて指し示す。 「ちょ、ちょっと待ってください皆様。どうやって朽木隊長からお借りするつもりなんですか」 七緒が慌てて全員を見渡した。そしてきょとんとした眼で見つめ返される。 「……無断で?」 「……勝算は?」 やちるがにっこりと笑った。 「家で一番強いのは家老のおじいさんだって、ルキアちゃんが言ってたよ」 「分かりました」 七緒がおもむろに咳払いをする。 「それでは次回の会議までに、会議室無断拝借の作戦を立案してきてください。具体的に、よろしくお願い致します」
はい、お久しぶりの女性死神協会です。先日、おそろしく久々にVジャンプを読むことが出来まして、そのときのお話から考えました。そちらをお読みになっていた方にはバレバレのオチですね。
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