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『女性死神協会 会議中06』

『新春の初会議』


 十一番隊上等武闘場という看板の上には、べたりと貼られた紙には「女性死神協会本会ぎ場」と書かれていた。
「さて、みなさん!」
 女性死神教会会長であるやちるの声が本会ぎ場に響き渡る。
 堂々たるそのやちるの後ろでは、副会長である七緒が控えていた。
「あけましておめでとっ」
「……うございます」
 振り返ったやちると彼女をじっと見つめていた七緒の眼があい、二人とも同時に微笑んだ。そしてやちるは前に向き直り、一年最初の宣言をする。
「会議をはじめるよ!」
 そして七緒はくくっと眼鏡の位置を直し、黒板に書かれた議題を指し示した。
「さて、本日の議題はこちらになっております……って、協会に相談するようなことでもないような気が致しますが、まあ私もちょっと興味がございますので取り上げました。ちょっとですよ、ちょっと。ええと、議題は『正月に余った餅をどうやって食するか』です。やはり皆様、お正月ともなると気合いを入れて餅をついてしまうようでして、食べても食べても餅が余るようでございます。巨大鏡餅を制作してもまだ余る方もおられるとか。豪勢ですね。そこで、皆様からお餅の美味しい、かつ飽きない食べ方を提案して頂きたいと思います」


「では、最初の方!」
「はーい、あたしね」
 七緒の声に乱菊がのんびりと手を挙げる。そしておもむろに紙袋から角切りにした餅とベーコン、しょうゆ、フライパンを取り出した。すかさずネムが卓上焜炉(コンロ)を乱菊の前に置く。
「最近入ってきた洋食の食材って美味しいのよ。それでオススメはこれ! お餅にベーコンを巻いてフライパンっていう平たい鍋っぽいやつで両面を焼くの。お餅をとろとろにしたかったら蓋をして。それでよく焼けたらしょうゆをかけて食べる! カレーにしてみると美味さ倍増!」
 周囲には肉の焼けるいい匂いが漂う。全員が見つめる前で乱菊は人数分のベーコン巻き餅を皿に取り分け、黄金色に輝くカレーを全員の皿によそう。全員が餅にカレーをからめて、口に運んだ。
「……おお! これは美味い!」
「ベーコンの脂とカレーが餅にからんで、なんという……!」
 次々とあがる驚嘆の声に、乱菊は満足げに微笑んだ。七緒が乱菊を振り仰ぐ。
「乱菊さん、これ、本当に美味しいです」
「そうでしょ。でもこれ、めちゃめちゃ太るから」
 七緒の動きが止まった。
「いやむしろ肥える、と言った方が正しいわね……でも飽きないの! 飽きないのよ! 食べても食べても美味しくてつい食べ過ぎてしまうのよ!」
 箸を握りしめて力説している乱菊を見上げていたやちるが、七緒の方に振り返った。
「あ、七緒ちゃんが葛藤してる」
「そっとしておいてやれ。確かにこれは悩むだろう」


「で、では、次の方」
「あ、はい、私です」
 七緒の声に勇音がおずおずと手を挙げる。そしておもむろに紙袋から角切りにした餅とチーズ、ピザソースを取り出した。すかさずネムが電熱式天火炉(オーブントースター)を勇音の前に置く。
「ええと、まあ、お餅でピザを作ると思ってくださればいいです。焼く時間は好みですけど、やっぱりお餅もチーズもとろりとなった方が美味しいんじゃないかなと思います」
 勇音は手際よく餅にソースを塗り、チーズをのせて炉の中に入れていく。そして時間を設定すると七緒を振り向いて優しく微笑んだ。
「これも太ります」
「ああ、やっぱりそうですか……」
 項垂れる七緒に、勇音は優しく語りかける。
「けれど、それを恐れていてはお餅は食べられません。美味しいものを食べ、そうしたら体を動かす。それこそ健康的な生活ではないでしょうか。体を動かすのが億劫になるこの時期、その原動力として美味しいものを食べることはとても良いことだと私は思います」
 そこでチン、と炉が音を立てて焼き上がりを知らせた。勇音は素早く餅ピザを皿にのせ、「熱いので気を付けてくださいね」と言いながら全員に配る。全員がいっせいにそれを口に運び、満足げな溜息を漏らした。
「美味い……やはりどうしても美味い」
「餅もチーズもとろけて混ざり合ってなんてこれはもう」
 七緒が緩む口元と悩める眉間という難しい顔をして食べているのを眺め、乱菊は勇音をちらりと見た。
「勇音。色々言っていたけど、単に美味しいものをみんなで食べたいだけでしょ」
「……だって、旅は道連れじゃないですか。こんなに美味しいのに」


「……では、次の方」
「うむ、私だな」
 七緒の声に砕蜂が頷く。そして紙袋から適当な大きさに切った餅と、どう入れていたのか巨大なボウルを取り出した。つんした香りが漂う。すかさずネムが七輪を取り出し、餅を焼いていく。
「最近はこれを食う者も減ったと聞いたので大前田に準備させた。からみ餅だ。さっぱり美味しく餅を食せるのはこれだと思うぞ……まあ、私はきなこでもあんこでも磯辺焼きでもお汁粉でも雑煮でも鍋に入れても何でも飽きないのだが。というか餅が余るというのが理解できん」
 砕蜂は腕を組み、鷹揚に首を横に振る。その横でネムが手際よく焼き上がりふくれた餅に大根おろしをからめていく。それを皿にのせていくと、全員に配った。全員が口に運び、驚いた顔をする。
「おいしーい!」
「これはさっぱりと頂けますね。何個でも食べてしまいそうです!」
 驚きと喜びの声に砕蜂はわずかに口元を綻ばせた。
「うむ。つきたてならば格段に美味いのだが、まあ仕方なかろう。好みはわかれるだろうが、私はつきたてではなくとも美味いと思っている」
「はい、本当に美味しいです」
 笑顔でそう言う七緒に、砕蜂は真顔で言った。
「京楽はこういうのは好きだろう。食わせてやれば喜ぶぞ」
「……! ……っ……っ」
 勢いよく咳き込む七緒に勇音とネムが駆け寄って、背中をさすり出した。


「ででででは、次の方」
「はい」
 七緒の声にネムが静かに手を挙げる。そして紙袋から焦げ茶に輝く四角い菓子を取り出した。
「凍餅です。しみもち、すんもち、とも呼ばれます。お餅そのものも保存のきく食物ではありますが、その保存性を更に高めた、昔ながらの保存食です。寒冷地で作られるこちらは、地域によりますが基本的には餅を凍らせて乾燥させています。お菓子のように食べることも多いようなので、今回はそちらをご用意しました。揚げた後に砂糖醤油をからめてあります」
 皿に盛られた凍餅に全員が手を伸ばした。それを囓るさくさくという音がする。
「あ、なにこれ、すっごく美味しいんだけど!」
「なんかサクサクしてるのに、もちもちした餅の食感もある感じがします」
 皿の凍餅は瞬く間になくなってしまう。やちるが残念そうに最後の餅を飲み込んだ。
「のし餅を作られた時点で、作りすぎたと思われたら十二番隊にお持ち頂ければ作成致します。余分をどうするかという問題への提案ではありませんが、余分を作らないことになりますので、結果的にはよろしいかと思います」
「え、でもどうやって作ったの? 寒冷地まで持っていったの?」
 七緒が首を傾げると、ネムは無表情のまま、
「いえ、巨大冷凍庫を利用しました」
と言った。全員が微妙な顔になる。それに気付いたのか、ネムは全員を見渡すと、わずかに首を傾げた。
「通常、何に利用している冷凍庫かはお尋ねにならない方がよろしいかと思います」
「それを言うからだめなんでしょうが! それを言うから!」


「か、会長のご提案は」
 七緒がうんざりとした顔でやちるを見ると、やちるは困ったように笑う。
「あのね、あたし、きなことあんことお汁粉で飽きたことがないから、よくわかんなかった。ごめんね」
「そうですよね。私もそう飽きはしないんですけど、ねえ」
 つられたように七緒も困った顔をする。それを見ていた乱菊がきょとんとした。
「え、でも京楽隊長ったら、作りすぎたからって餅を配りに来たわよ。さっき」
「えええっ、本当ですかっ」
 慌てる七緒に、乱菊は頷く。
「うん。だから八番隊も少しは楽になるんじゃないの?」
「あ、そうですよ。四番隊にもいらっしゃいました。卯ノ花隊長が喜ばれて、揚げ餅を作ろうとされていました」
 勇音が嬉しそうに笑うと、隣で砕蜂が首を縦に振る。
「二番隊にも来たぞ。それゆえ夕食は雑煮と言ってあるが、餅ピザもいいかもしれぬ」
「十二番隊にもいらっしゃいました。マユリ様は磯辺焼きで延々と召し上がっています」
 ネムが淡々と言い、やちるがへらりと笑った。
「あ、うちもうちも。磯辺焼きっておいしいよねえ。そっか、マユリンも好きなんだあ」
「あれ、ってことはこれって七緒の提案?」
 乱菊が七緒を振り返ると七緒は真っ赤な頬を両手で押さえて俯いていた。
「い、いえ……おそらく、隊の女性隊員です……他の隊でも悩むところでしょうから協会で提案してみましょうよって言ってきた人がいましたから……」
「そうか、良い提案だったな。これで餅の可能性は更に広がった」
「そうですよね。お餅ってやっぱり美味しいですから、色々な食べ方をしたいですよね」
「あたし、今夜いろいろ作ってもらおうっと」
「そうよそうよ、後から仕事しまくれば痩せるんだもの。お餅があるうちに食べちゃわないと」
 全員、勝手に喋りながら七輪に電熱式天火炉(オーブントースター)にフライパンに餅をのせて焼き始める。いい匂いの漂う中、七緒は赤い顔のまま「……隊長ぅぅ……っ」と呟いていた。ネムは近寄ると、焼き上がった磯辺焼きを七緒にそっと差し出してぽんぽんと肩を叩いた。







 はい、勢いで見直さずに書いているので色々なことを許して頂ければ幸いです。いやだってもう、冬休みが終わってしまうので書けなくなってしまいます。勢いで。こういう事は勢いで。
 我が家では主に、ベーコンを巻いて食べています。食べ過ぎるのではっきりいって余りません。


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