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『女性死神協会 会議中05』

『清秋の憂い事』


 十一番隊上等武闘場という看板の上には、べたりと貼られた紙には「女性死神協会本会ぎ場」と書かれていた。
「さて、みなさん!」
 女性死神教会会長であるやちるの声が本会ぎ場に響き渡る。
 堂々たるそのやちるの後ろでは、副会長である七緒が控えていた。
「…………」
「…………」
 沈黙が流れ、振り返ったやちると彼女をじっと見つめていた七緒の眼があった。二人とも同時に薄く笑う。そしてやちるは前に向き直り、七緒もまた視線を前へと戻した。そして同時に口を開く。
「会議を始めます!」
「会議をはじめるよ!」
 同時になされた宣言にお互いを見やることもなく、二人は満足げにふふんと笑う。そして七緒はくくっと眼鏡の位置を直し、黒板に書かれた議題を指し示した。
「さて、本日の議題はこちらになっております。季節は食欲の秋に突入し、女性の皆様から体型の悩みが続々と届いております。その多くに、協会理事の面々はなにゆえ体型を維持できるのか、その体型をどうやって作りだしたのか、などの質問も含まれておりました。確かに私から見てもここ数十年の間、皆様の体型は恐怖を覚えるほどに全く変化ありません……あ、会長は少し身長が伸びましたよ大丈夫です。で、そんな皆様が日々実践され、結果を残した方法は他の方々にも成功をもたらすことでしょう。そこで前回の会議で申し上げたように、自らの体験に基づいたダイエット方法を女性死神の皆様に提案したいと思います」


「では、最初の方!」
「はーい、あたしね」
 七緒の声に乱菊がのんびりと手を挙げる。そして不敵に笑うと、勢いよく計画が書かれた紙を全員に示した。紙には乱菊の流麗かつ大胆な字で『肉体改造三日間計画』と書かれている。
「太ったときこそ好機と捉えよ! これぞ究極の体作り! ナイスバディになる絶好のチャンス到来! ……三日くらいで急激に体重を落とせば胸にだけ肉が残るから、一気に肉体改造できるわよ。なんで、とりあえず食うな、飲むなってことで。三日間だけと思えば我慢できる!」
 七緒は計画書と乱菊の体を見比べた。
「え、乱菊さんもそうしてその豊満な肉体が」
 問われて、乱菊は自分の胸を見下ろす。そして顔を上げるとへらりと笑った。
「ううん、あたしのは勝手に育った」
「最初の話を聞いていましたか! 実体験ではないことを言ってはいけません!」


「では、次の方」
「あ、はい、私です」
 七緒の声に勇音がおずおずと手を挙げる。そして周囲を見渡し、そっと計画が書かれた紙を全員に示した。紙には勇音の丁寧な読みやすい字で『健康第一』と書かれている。
「私自身は特にダイエットを意識してはおりませんが、健康には気遣っています。四番隊副隊長ともあろうものが体をこわすわけにもいきませんからね。そうして結果として、体型を保つことになっています。だいたい、ダイエットは健康のために行うということをきちんと自覚してほしいですね。自分の体の状態を正確に把握するために、まずは年に数回行われている各種検診にきちんと参加して下さい。四番隊からお配りしている冊子に目を通してください。まずはそこからですそこから。健康かどうかを調べないで何がダイエットですか」
 口調は穏やかながら、勇音の声はだんだんと本気の響きを帯びていく。紙を持つ手には力がこもり、紙に皺が寄るほどに握りしめている。七緒はおそるおそる勇音を見上げた。
「あの……い、勇音さん?」
「はい?」
 勇音は曇りのない笑みで答える。七緒は一呼吸置いて、尋ねる。
「そんなに検診の集まりが悪いんでしょうか」
 七緒の問いに勇音は急にへにょりと眉を歪めた。
「……すっごく悪いんです。検診がどれだけ大事なのかって説明しても面倒だって」
「あああ今度からちゃんと隊の方でも言って聞かせますからそんな顔をなさらないで協会の方からもきちんと四番隊で検診をするように言いますから、ね、ね、あああ大丈夫です次こそ全員参加にさせますから大丈夫ですからああネムお茶いれてくれたのねありがとう」


「では、次の方」
「うむ、私だな」
 休憩をはさんで通りが更によくなった七緒の声に砕蜂が鷹揚に頷く。そして無駄のない動きで、計画が書かれた紙を全員に示した。紙には砕蜂の意外と細かくかっちりとした字で『日々実戦』とだけ書かれている。
「実は我が一族は皆このような体型であるうえ、成人してこのかた体型に変化がないため、私自身の実体験として今回の提案をすることはできぬ。そこで参考になりそうな我が副官と共に、私と他の者の比較を行ったところ、遺伝的要素を除いてもやはり刑軍としての生活が皆と根本的に違うのではないか、という結論に至った。確かに、刑軍では生活全てが訓練であり実戦であるゆえ、心身は常に緊張状態にあり、摂取した栄養はきれいにエネルギーとして利用するようになっている。刑軍の部下も、任務で必要となればいくらでも体型を変化させるが、基本的には痩身だ。あれもやはり刑軍での生活ゆえと思われる」
 いったん言葉を切り、砕蜂は周囲を見渡した。そして口元に薄い笑みを浮かべる。
「そこで、だ。刑軍の訓練に特別招待してやるツアーを取りはからう。もちろん、機密に触れぬ程度だから消される心配もなく、協会の会員待遇で格安にしてやるから費用面も安心だ。これで太れない生活を実体験できるぞ」
 砕蜂は堂々と言い切り、満足げに腰に手を当てて頷いた。七緒は眉を寄せて尋ねた。
「……ときどき耳にするのですが、訓練中に入院してから出てこない方がいらっしゃると」
 しょうがないなとでもいうように小さく首を横に振り、砕蜂は実に爽やかな微笑みを七緒に向けた。
「ふっ……そやつらは軟弱であっただけだ。安心しろ、死ぬまではやらせぬ」
「安全性を確かにしてからお願い致します」


「では、次の方」
「はい」
 七緒の声にネムが静かに手を挙げる。そしてどこからともなく計画が書かれた紙を取り出して全員に示した。紙には正確で癖のない字で『飲むだけで痩せる! これぞ究極のダイエット』と書かれている。
「私の場合、皆様と全てが根本的に異なるため、経験に基づく痩身方法というものをご提案できません。そして皆様、マユリ様に改造して頂くことはご遠慮されるとも思われますので、そちらもご提案できません。そこで、肥満と痩身のメカニズムをマユリ様と阿近さんに尋ねたところ、特別な薬品を作って下さいました。過剰な運動も食事制限も必要ありません。一日三回、定刻に飲むだけで一週間で確実に痩せられるという画期的な薬品です。研究所に一週間、お泊まり頂くことになりますが、これで確実に痩せることと思われます」
 ネムは二枚目の紙を示した。そこには阿近の神経質そうな字で細かく丁寧に、薬品の成分と効能が書かれている。白衣を着た研究員らしい人の『ビフォー→アフター』という写真もあった。矢印の先にある写真の方は同一人物とは思えないほど青白く針金のように細くなっていて、その痩せ具合を眉を寄せて見比べた七緒は眼を細めた。
「……安全性は?」
 ネムは淡々と言い切った。
「科学の進歩に犠牲はつきものです」
「だからあんた、人の話聞いてないでしょ! 安全じゃないとだめなんだってば!」


「会長のご提案は」
 七緒がぐったりとした顔でやちるを見ると、やちるはきょとんとして七緒を見上げた。
「うーん、あたし、痩せたいとか思ったことないからよくわかんなかった。それより、卯ノ花さんに聞いてみたらどうかなあって思ったんだけど」
 その言葉を聞いた途端、七緒が顔を青くした。
「七緒ちゃん?」
「い、いえ……」
 言葉をぼかして七緒が目を逸らした。
「あの、今回の議題のため、アドバイザーでおられる卯ノ花隊長にもお尋ねしたんです。したんですが、もうそれはそれは美しい微笑みをされて首を傾げて、特に何にも? とだけ仰ってですね……ええそれはもう完璧な微笑みで」
「卯ノ花隊長も、普通に健康に気遣っていらっしゃると思いますよ」
 勇音がにっこりと笑う。が、七緒の口元は引きつったままだ。
「そりゃそうですよね……きっとそれだけなんですよね……」
 そんな七緒を見上げたまま、やちるは首を傾げる。
「じゃあ、七緒ちゃんは? 何か気にしてるの?」
「私の場合ですか」
 気を取り直すように眼鏡の位置を直して、七緒は口を開く。
「特に気にしているというわけではありませんが、甘い物をたくさん食べた次の日は控えるとか、無闇に食べ過ぎないとか、姿勢に気を配るとかはしております。稽古を欠かさないのは死神として当然ですが、そのため運動不足などはありえませんし。そうしていると自然とそう体型が変わらないようですね」
「七緒はだらだらしないから消費カロリーもかなりあるんじゃない?」
 乱菊が笑って言った。
「そうですね。七緒さんは非常に健康的な生活をされていると思います」
 勇音が両手を合わせて微笑んだ。
「確かに。伊勢の生活なら一般にも適用可能だろうな」
 砕蜂が厳かに頷いた。
「眠る前、こっそり隠れて大胸筋を鍛える運動もされ」
 ネムの言葉は七緒の一睨みで途切れた。
「……それならば」
 鋭い視線を眼鏡の輝きで隠し、七緒は全員を見渡した。
「協会から提案するのは、腹八分目、姿勢を正す、死神としての稽古を熱心に行う……当然なんですけどね、それと健全な生活、などの私の実体験をまとめたものに加え、四番隊への検診を促すというものでよろしいでしょうか」
「もう一つ、七緒ちゃんにはあるじゃん」
 やちるが手を挙げると、全員の視線が集まった。
「京楽さんがいるから、七緒ちゃんはきちんとしてるんでしょ?」
「な……っ」
 絶句する七緒。瞬間的ににやりと笑うネムを除く面々。それらを交互に見て、やちるは不思議そうに眼を瞬かせる。
「違うの?」
 七緒は赤くなりすぎて青くなりながら、慌てふためく。
「ち……っ違っ違います! 私は昔っからこんな生活です!」
「あ、京楽隊長云々は否定しないんだ」
 乱菊が笑いながら言うと、七緒はぎっと乱菊を睨んだ。
「もっもちろん隊長は全くもって全然無関係です! なっなな何で皆さんそんな生暖かい眼で私をっ……ああもう! 違います全く関係ありません! 私は日々をきちんとおくるのが好きなんです怠惰が嫌いなんですっってちょっと皆さん聞いてますか! だから……」
「……お茶、いれましょうか」
 ネムがぽつりと呟いた。








 ……ええと、これを書きながら管理人は心が痛くてしかたありませんでしたYO(←やけくそ)。HAHAHA。……書き散らかしたことは適当なので、気になさらないで下さいね。正しければ管理人が実践しています。
 とりあえず死神の女性陣は数十年くらいは軽く同じ体型で過ごしそうです。ていうか、摂取したエネルギーを霊力として消費しているだろう彼らですから、死神として強ければ強いほど太れないと思います。ソウルソサエティでの最も有効なダイエットは「強くなる」ことでしょうか。
 とりあえず女性陣で最強は卯ノ花隊長だと思っています。どれだけ若さを保っておられるのか。


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Life is but an empty dream