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『女性死神協会 会議中01・前半』

『01・紹介文を書こう(前半)』

 十一番隊上等武闘場という看板の上には、べたりと貼られた紙には「女性死神協会本会ぎ場」と書かれていた。
「さて、みなさん! こんばんは!」
 女性死神教会会長であるやちるの声が本会ぎ場に響き渡る。
 堂々たるそのやちるの後ろでは、副会長である七緒が控えていた。
「…………」
 やちるがきりりと凛々しい顔で口を開ける。
「副会長! 本日の議題を!」
「えっ!? 挨拶はそれだけですか!?」
 ぎゅるんとやちるが背を反り返して顔を七緒に向ける。七緒がぎょっとした顔をして慌てて黒板に向かった。
「は、はいっ、ただいま! ……いつもと始まりが違ったのに」
 最後の方は小さく呟きつつ、七緒はかかかっと白墨で黒板に文字を書き連ねていく。
『女性死神が求めている、隊長の写真集販売のためのアンケートについて』
 書き終えて、七緒は理事の面目を振り返り、眼鏡をくくっと持ち上げた。
「本日の議題はこちらです。具体的には、アンケート内容を決めて参りたいと思います。まず、理事の皆様にはそれぞれの男性隊長の紹介文をお願いしておりました。隊長と直接関わることの少ない方々にも情報をお伝えする、非常に大事なものであることを前回の会議でご理解頂いていると信じております」
 七緒は「大事なもの」という部分を強調するように言うと、全体を見渡す。
「紹介文の担当は、前回の最後にくじで決定した通りです。それでは」



「一番隊からお願い致します」
「はあい」
 乱菊は座ったまま、手元の紙を左手に持って良く通る低めの声で朗読する。
「一番隊、山本元柳斎重國総隊長。長くて白い髭はまるで現世で有名なさんたさんのよう! 髭をまとめているひもは毎朝毎朝副隊長さんが整えているからキマッテるよね! おしゃれさんな山本総隊長らしくてとってもステキ! 髪の毛はちょっとなくなっちゃったけど、髪があったころなんてもはや浮竹隊長ですら知らないんだってさ! でも髪があって髭がない山本総隊長なんて、総隊長じゃないって思っちゃう。 それくらい今のお姿が定着してる山本総隊長だけど、脱いだら実はすごいんだって! 総隊長の始解を見ちゃうとその魅力にもうくらくら! 炎の向こうに揺らめく総隊長は妖しい魅力全開! 盛り上がる筋肉には無数の傷痕が走っていて、壮絶な過去を想像してどきどきしちゃうぞ! その傷だらけの背筋を見たらもうあなたは」
「ストップ!」
 七緒が肩を震わせながらも右手をがっと前に突き出して朗読を遮った。乱菊が顔を上げてきょとんとする。
「……紹介文は非っ常ーに大事なものだとご理解頂けたと思っておりましたが」
「うん。だから浮竹隊長とか京楽隊長とかに色々尋ねたし、一番隊まで行ってこっそり副隊長にまで聞いたのよ?」
 乱菊は真面目に言うが、七緒は片眉をぴくりと上げる。
「ならどうしてそんなはっちゃけた文章になっているのでしょうか」
「だって総隊長って一般の死神と接する事ってなかなかないから、親しみやすくした方がいいかなって思って」
 そこで乱菊は華やいだ笑みをみせた。
「京楽隊長と相談してこんな感じに」
「相談相手が確実に大きく間違っております。全文書き直して下さい……お一人で!」



「次の方! 三番隊をお願い致します」
「は、はい」
 勇音は肩を緊張させたまま、おずおずと朗読を始める。
「三番隊、市丸ギン隊長。日光に溶けてしまいそうな淡い髪はさらさらストレート。実はとても柔らかい髪質で、だから撫でるとまるで猫のようです。細い眼は真意を掴みにくいと言われるけれど、その奥には暖かいお人柄が隠れていることが見えるはずです。常に笑顔を絶やさない市丸隊長は、その微笑みで隊の雰囲気を和らげます。勤務時間中もよく出歩いているお姿を見かけるかもしれませんが、それは市丸隊長自ら、隊の様子を見回っているということ。屋根や木の上や影から、自分の部下達の仕事ぶりを見ているのです。吉良副隊長がよく書類を振り回して隊長を捜していますが、あれもまた副隊長と打ち合わせ済みのこと。ああして副隊長もまた、自然な形で隊員の働きぶりを知ることができるのです。市丸隊長はそうやって細やかな心遣いで」
「待った!」
 七緒が顔を引きつらせて朗読を遮った。勇音が顔を上げて困ったような顔をする。
「紹介文にしては事実無根のことばかりと感じるのですが」
「いえ、でも、あの、これは全て市丸隊長ご本人から……」
 七緒が訝しげな顔をする。
「隊長ご本人がどうして?」
「あの、情報元は教えて頂けなかったんですけど、市丸隊長は前回の会議の内容を何故かご存じで、先日、私の元へいらっしゃって」
 そこで勇音は周囲をきょろきょろと見渡して、上目遣いで七緒を見た。
「……こうしぃひんと、みんなイヅルの味方しよるから、って……お茶菓子を持って」
「権力と誘惑に屈してはいけません。事実を曲げずにお書き下さい」



「次の方! 五番隊をお願い致します」
「うむ」
 砕蜂が胸を張って朗読する。
「五番隊、藍染惣右介隊長。藍染隊長の魅力といえば他でもない、あの優しげな微笑みだろう。微笑みの貴公子とも呼ばれるその笑みは、見る者に安心を与え、ときにはときめきすら与えてしまう。そして笑みを浮かべた口からは低い響きの柔らかい声。その声が語るのは誠実な言葉。そして隊長としてのあの安定感。たとえ宿命に翻弄されようと、彼はあなたのポラリスとして輝いている。藍染隊長とマフラーを巻いて初雪を共に」
「お待ち下さい!」
 額を抑えて七緒が朗読を遮った。砕蜂が不満げに口を曲げる。
「どうした。まだまだあるぞ」
「……どこか現世の方で聞いたことのあるフレーズがここかしこにあるのですが」
「ああ、まあそうだろう。あのドラマもその後の騒ぎもなかなか愉快だった」
 砕蜂が満足げに大きく頷いた。
「貴様も藍染の冬の装いを見たことくらいあるだろう。あれはどうみてもそのままだ。私だけではなく他の者もそう思っているに違いない。どうせ印象はそう変わらん。奴も意識しているんじゃないか? 意外にミーハーだからな。先日、マフラーを似たような巻き方にして歩いていたぞ」
 七緒が拳を震わせている。
「それにしましても文章が決まり切った文句だらけなのですが」
「現世の週刊誌を参考にしたが」
「参考じゃなくて全文ほぼ丸写しじゃないですか! 面倒がらずに自分の文章できちんと書いて下さい!」



「次の方! 六番隊をお願い致します」
「……はい」
 ネムが静かな声で朗読を始める。
「六番隊、朽木白哉隊長。知らない人はいない朽木家の当主である朽木隊長は、実は非常に重度の妹コンプ」
「ストップストップ待ってそれまずいからああもう待ちなさいっ!!」
 七緒の慌てた制止に、ネムが顔を上げて首を傾げてみせた。七緒は息も荒くつかつかと硬い足音で歩み寄ると、ネムの手から紹介文の文章が書かれた紙を取り上げ、ざっと読む。そして頭を抱え込んだ。
「七緒ちゃん?」
 やちるが一跳びで七緒の背後に飛びつくが、七緒は一瞬速くその紙を懐にしまい込む。
「だめです!」
「ちぇー」
 やちるは頬を膨らませて、くるりと宙返りして元の位置に戻る。その反動で七緒は少し揺らぎ、そしてずれた眼鏡をくくっと直してネムを見つめた。
「どこでこれ聞いたの?」
「マユリ様に」
「……どうしてあの人は自分の興味の範囲外のことは適当で……・いや、まあいいです。それは今はまあいいことにしましょう。それより」
 七緒は力強くネムの両肩に手を置いた。細い指がネムの死覇装を握りしめている。
「このことについては絶対に絶対に口外しないこと。この件については隊長クラスしか知らないから! 副隊長だって知っている人は少ないから! 朽木家の権力とか隊長の権力を甘く見てはだめよ!」
「……先程、権力に屈してはいけないって」
「それはそれ! これはこれ! 書き直してらっしゃい!」



「か、会長はそういえば七番隊を担当しておられたと思いますが、どうなりましたか?」
 疲れ切った表情で七緒がやちるを振り返ると、やちるは音が出ると思うくらいに明るい笑みを返した。
「もうばっちり完璧だよ! えっとね。
 七番隊、狗村左陣隊長。いつもお面をすっぽりかぶってるから顔がわからないけど、声は低いからなんだかおじさんっぽいです。背が一番おっきくて、剣ちゃんより縦も横も大きいです。難しいことばっかり言ってるしよく怒られるけど、怒った後にはお菓子をくれて頭を撫でてくれるからホントは優しいみたいです。なんでいつもお面をかぶってるの、って聞いたら、その方が他の人とうまくやっていけるからだって言ってました。その意味はよく分からないけど、本人が気にしてるならしょうがないよね。実は気にしやさんみたいです。まとめると、狛村隊長は大きくて優しくていい人です。以上」
 読み終えたやちるが顔を上げると、七緒がしきりに頷きながら拍手をしていた。
「えへへー。よくできてた?」
「完璧です! 完璧ですよ会長!」
 ひとしきり拍手をして、七緒は残りの人達を振り返る。
「こういう文章でいいんです! 素朴でまともで自分の文章で書かれていてしかも好印象を与えるような! 八番隊の前に休憩をいれますが、先程のような文章でしたらそれも書き直して頂きますよ! いいですか!」
「えー、頑張って書いてきたのに」
 乱菊が声を上げるが、七緒は振り向きもしない。
「はい、では休憩に致します。お茶とお菓子の担当は、本日はどなたでしたでしょうか」
「あ、はい、私です。焼き菓子を作ってきました」
 勇音が手を挙げて椅子の下から紙袋を取り出した。その隣で砕蜂が大きくのびをしている。ネムは立ち上がり、茶の準備を始めた。やちるが嬉しそうにそれを眺めている。
 つかの間の休息が(主に七緒に)訪れた。







 あとがきを後回しにすると、書いていた当時のことを忘れていて書くことに困りますね。次からきちんと書いていこうと思います。
 さて。これを書くにあたって、一番調べたのは藍染様です。ヨン様について、良く知らなかったので調べた調べた。そして笑いを取りにくそうだったので狛村さんは真面目に。まだあのお姿を皆は知らないという状況のつもりです。砕蜂さんは同じ隊長格なので知っていたという感じで。


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