G*R menu


CM-Soul Candy [3]

『-0.5 ちなみに会議はこんなんでした』


 十一番隊上等武闘場という看板の上には、べたりと貼られた紙には「女性死神協会本会ぎ場」と書かれていた。
「さて、みなさん!」
 女性死神教会会長であるやちるの声が本会ぎ場に響き渡る。
 堂々たるそのやちるの後ろでは、副会長である七緒が控えていた。
「副会長! 本日の議題を!」
「えっ!? い、いつものことですが挨拶は無しですか!?」
 ぎゅるんとやちるが背を反り返して顔を七緒に向ける。七緒がぎょっとした顔をして慌てて黒板に向かった。
「は、はいっ、ただいま!」
 七緒はかかかっと白墨で黒板に文字を書き連ねていく。
『女性死神の為のソウルキャンディについて』
 書き終えて、七緒は理事の面目を振り返り、眼鏡をくくっと持ち上げた。
「本日の議題はこちらです。理事の皆様には前回の会議のときに”全ての女性死神に利用されるソウルキャンディを”という御題で、各自アイディアを一つ以上考案して頂くように御願いしておりました。それでは順次、発表して頂きたいと思います」



 七緒の言葉に、端に座っていた乱菊が説明図を自分の前に掲げて説明を始めた。
「はーい、一つ目は女の子に受けること間違いない『猫』がいいかなって思って」
 説明図にはふてぶてしそうな細めの白猫の絵が描かれている。
「名称は『ギンノスケ』かなあ。特徴は跳躍力と敏捷性に優れていて、めんどくさがりやでさぼり癖と放浪癖があるけど戻っては来るから大丈夫。語尾に「にゃあ」とか「にゃ」とか「にい」とかつければ、もう女の子はめろめろでしょ」
「あ、愛らしいのではないでしょうか」
 まともなアイディアに、七緒も眼鏡を片手でくくっと持ち上げる。
「でしょ! でもこれだけだと万人受けすぎてつまらないから、二つ目」
 乱菊がもう一枚の説明図を取り出した。
「『しもべ』の『セバスチャン』! 特徴は従属。仕事をかわりに終わらせてくれるし、言うことなんでも聞いてくれるし、口癖は『はい、お嬢様』で」
「ソウルキャンディに用いるということをお忘れ無く。それに誰がお嬢様なんですか。ご自分の年齢を考えてください」



「はい、次の方!」
 七緒の言葉に、乱菊の隣に座っていた勇音がおずおずと説明図を前に出した。
「あの、やっぱりかわいい動物をモチーフにしたらいいと考えまして、パンダやオットセイを使ってみました。まだ名前は考えていないんですが……」
「あ、イラストがとても可愛らしいですね。名前は後で考えましょう」
 七緒が微笑んで褒めると、勇音は照れたように説明図の紙で顔を半分隠す。
「ありがとうございます。それで、もう一つ考えてみたんですけど」
 勇音はもう一枚の紙を前に出した。
「『キリン』の『のっぽさん』です。特徴として首が伸びるので、遠くまで見渡せてよいかと……」
「何度も申し上げますがソウルキャンディですので、肉体に入れることをお忘れ無く。だいたい、首だけ伸びたらろくろ首じゃないですか」



「はい、次の方!」
「うむ」
 七緒の言葉に、勇音の隣に座っていた砕蜂が堂々と説明図を机の上に立てた。
「どこの誰をモデルにしたとは言えないが、『狗』の『パプルス』。名前の由来についても聞かぬがよいだろう。性格は忠実・熱血。自分の主人にはぱたぱたと尻尾を振るがごとくの忠誠心にはどんな女子でも使わずにはいられぬ」
「とてもいいアイディアなのですが……どこのどなたをモデルに」
「それはお前のためにも聞いてはならぬ」
 七緒の言葉をばっさりとはねのけて、砕蜂は新たに一枚の説明図を前に出した。
「そしてこちらが、『黒猫』の『夜一様』。どこのどなたをモデルにしたとは言えないが、特徴は俊敏かつ最強で美しく、当然だが我らが使うのではなく夜一様が我らをお使いになられてだな」
「個人を特定できるようなものを作れるわけないでしょーが! ていうか使用者が使われてどうするんですか!!」



「はい、次の方!」
 七緒の言葉に、ネムはそっと説明図を胸の前に出した。
 その途端、反射的に七緒が前に飛び出してその説明図を取り上げて机に伏せる。
「あんた、なんてもの考えてんのっ!!」
「……」
 ネムが説明しようと口を開けると、七緒がその口を押さえる。
「いい! 説明しなくていいから! 他のアイディアもあるんでしょ! それ説明して!」
 最初の一枚を手の中で丁寧に折り畳むと懐にしまいこみ、眉をひそめたまま七緒は定位置に戻る。ネムは首を傾げていたが、改めて伏せられていた次の説明図を持ち上げた。
「……『人体模型』の『もっくん』です」
 全員、何の反応も示さない。七緒がぴくりと片眉を上げた。
「特徴は」
「もうそれもいいから、次」
 促されて、ネムはまた小首を傾げて、仕方なさそうに「骸骨」「アルフレッド」と書かれた紙を取り出した。



「……よ、ようやく十個のアイディアが…………」
 数時間の討議終了後、七緒はぐったりと机に上体を伏せた。
「じゃあ、あとこれを足して十一個だね! これで決定!」
 やちるが意気揚々と出した紙には「うさぎ」「チャッピー」とあり、達者なうさぎのイラストが描かれている。それを見上げて、七緒はがっくりと項垂れた。
「どうして最初にそれを出してくれないんですか、会長……」
 そしたら九個考えればよかっただけだったのに、と疲れ切った声で七緒が呟く。やちるは七緒を振り返ると、へらっと笑った。その笑みを見て、同じく疲れ切ってだらしなく頬杖をついていた乱菊が苦笑した。
「やちる、あんた、どうしてもそれを通すつもりで、最後までとっておいたんでしょう」
「策士だな」
 砕蜂が感心したように頷いた。勇音とネムは無言でぼんやりとしている。
 やちるは皆の前で一人だけ元気に笑っている。
「ほら、次はこれの宣伝を考えなきゃだよー」
 その言葉に、全員が首を横に振った。七緒が何も言わずに、黒板に『次回までの宿題』と書き始める。







 はい、後回しにしすぎて、書いたときの苦労をすっかり忘れていますよ。これが『女性死神協会』シリーズに繋がっていくキッカケでした。書いていて楽しかったのですが、理事の面々が考えるアイディアについては難しかったです。キャンディー全てを書くことは無理だったので、これくらいになりました。

  G*R menu novel short story consideration
Life is but an empty dream