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CM-Soul Candy [2]

『001雑談・十番隊』

 宣伝は賑やかに続いている。さすがに製品全てを誰かの義骸に入れてみせるわけではないらしい。司会進行役の女性死神が甲高い声で、製品の表を示してその特性を説明している。
 それを日番谷はぼんやりと眺めていた。どう冷静に考えても自分はこれら新商品を使いそうにはない。新製品が出来たということを嬉しげに話していた雛森を思い出し、女の好みって分からねえな、と乱菊には聞こえないように呟く。
「何か仰いました?」
 耳敏く、乱菊は振り向いた。日番谷は首をすくめる。
「何も言ってねえ……それにしてもどうやって会長殿は更木に了解を得たんだ?」
「お願いしただけだよ?って小首を傾げて笑ってましたね」
 廊下ですれ違ったときに成果を話してくれたやちるを思い浮かべて乱菊は答える。実際には丸々三日間、やちるは一時も離れることなく剣八の背中からお願いし続け、しかもソウルキャンディの説明を全くしないまま(誤魔化したとも言う)ごり押しで了解を得たらしい。乱菊はそんなことを日番谷に説明したりはしないが、ただにっこりと微笑んで見せた。
「……怖ぇな、あいつ」
 日番谷はぼそりと言った。






『002雑談・二番隊』

 ソファで煎餅をかじりながら大前田は一息ついた。目の前の伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)では世にも恐ろしい映像が流されている。前々から思ってはいたが、女性死神協会には絶対に関わり合いにならないようにしようと大前田は心の中で改めて誓う。
 その隣では砕蜂が静かに茶を飲んでいる。ときどき、「うむ、よく出来ている」と頷くのが恐ろしい。何がどうよく出来ているんだと大前田は思うが、巻き込まれたくもないので黙っている。
「それにしても」
 頷いているばかりだった砕蜂が呟く。
「よく三番隊の奴らが……いや、市丸はともかく、吉良が了解したものだな」
「吉良が事前に知らされているわけないじゃないっすか」
 どう考えても話しかけられているらしく、仕方なく砕蜂の言葉に大前田は答える。実際、大前田は数日前、市丸とやちるが楽しげに話している姿を三番隊の隊舎前で見かけている。あれは絶対にこれの密談だ、と大前田はこの宣伝を見て確信していた。
「なるほど、確かに市丸ならこれくらいの謀略はわけないだろうな」
 砕蜂は納得したようにしきりに頷く。そして映像に目をやると、溜息をついた。
「吉良はケロケロ脳天気に言うのが意外で良いな。やはりギンノスケかチャッピーを選べば良かった」
「…………何の話っすか」
 嫌な予感に大前田は横目で砕蜂の表情を窺う。大前田から見て下の方にある砕蜂の表情は前髪でよく見えないが、笑みすらないひどく真面目な口元に大前田の顔は引きつった。
「いや、会議の出席者はそれぞれキャンディを幾つか選んで宣伝の準備に当たったのだが」
 砕蜂が大前田を振り仰いだ。
「私が選んだパンダの『グリンゴ』は貴様と違和感がなかったので宣伝には使用しないことになったのだ。まっ」
「待った! いや、待ってください隊長!」
 砕蜂の言葉を遮り、大前田が体ごと砕蜂に振り向いて大声を出す。
「……何て言ったんすか、今」
 大前田は両手をソファについておそるおそる尋ねる。見上げるような格好で砕蜂を見ると、砕蜂は真面目な顔で淡々と言った。
「貴様、人の話はきちんと聞け。だから、パンダの『グリンゴ』を貴様の義骸に入れてみたが全く違和感を感じなかったので強烈な印象が残せないということで宣伝に使用しなかったのだ。全くつまらぬ」
「何恐ろしいことをさらっと淀みなく言ってるんすか隊長! っつうか入れたんすか! 俺の義骸にパンダを入れたんすかパンダを!」
 思わず立ち上がった大前田を砕蜂が呆れたように見ている。
「だからそう言っているだろう。全く、パンダを入れれば愛らしくもなるかと思ったが、ただのそのそとしているだけだった。ニャアとかピョンなど言うようなキャンディにすれば良かった」
「のそのそってのが俺と違和感ないっつうことっすか! ……そ、そう思ってたんすか……」
「いや、貴様は良く働いているぞ、大前田。だが、それとこれとは全く別の話だ」
 ピョンとかニャアとかケロケロよりはずっと良い。良いと思う。思うがだがしかし。大前田はどっと疲れを感じてソファに座り込んだ。その衝撃で反対側に座っている砕蜂の体が浮き上がり、ソファの上で跳ねた。


※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。





『0.5密談・数日前の三番隊隊舎前』

「ギンちゃん」
 上からの声に呼ばれ、ギンは顔を上げた。隊舎入口の前に植わっている松の木の枝に桃色の髪が揺れている。
「やちるちゃん、どうしはったん」
 答えると、やちるは低い枝まで飛び降りてきた。そうするとギンと目線がほぼ合う高さになる。やちるは朗らかに笑った。
「お願いがあるんだ」
「何やろなあ」
 首を傾げてみせるギンに、やちるはどことなく嬉しそうに声をひそめる。
「ギンちゃんの義骸を貸してほしいんだ」
「……何に使うんやろ」
「新しい義魂丸を宣伝するのに、実際に使っている様子を見せたいなって思って」
 やちるは新商品が出来た経緯を説明する。ギンはそれを聞きながら、どうにも微妙そうなそれを想像する。
「それならボクの使うより他の人の見たいなあ。イヅルの、貸すわ。面白うなる思うよ」
「ううん、ギンちゃんがいいの」
「イヅルやって有名やから宣伝になるんやないの」
「ううん、この『ギンノスケ』って、乱ちゃんが考えたやつだから」
 ギンは一瞬で薄いうすい笑みを顔に貼り付けた。細い紅い目でやちるの、屈託のない笑みを窺い、ギンはぐるぐると考えを巡らせる。何故、誰から、いや、ばれるはずはないのに……どうする? 気付いたこの少女をどうする?
 目の前ですっと気配を消したギンを見て、やちるは少しだけ困ったように笑った。そしてあやすような柔らかい声で言う。
「ギンちゃん、あたし、剣ちゃんにだって話してないし、何も知らないよ?」
「……何のお話やろなあ」
「だって、ギンちゃん、あたしと同じでしょう?」
 違うの? と首を傾げるやちるの顔を見て、思わずギンはふっと顔を緩めた。薄い笑みが消え、ギンは普段よりわずかに静かな笑みを浮かべる。
「十一番隊隊長さんにも、話してないんやね」
「当たり前だよ」
 やちるは密やかな声で答える。
「こういうことは人には話さないものなんだよ」
 ギンは可笑しそうに下を向いて、笑った。
「……やちるちゃんは大人やねえ……かなわんなあ」
 足下に揺れる白い羽織を見て、ギンは眉を寄せた。これを羽織るまでになっても、奥底にいる幼い自分はあの荒れ果てた場所に立ち竦んだままだ。
「……ボクの義骸、使うてええよ」
 そして上目遣いにやちるを見て、ギンはにやりと笑ってみせる。
「その代わり、イヅルの義骸も使うてな」
「うん! ありがと!」
 やちるは光を放ちそうな笑顔をして、そして小さな手でギンの頭を軽く撫でた。






『003雑談・八番隊』

 畳に寝そべって伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)を眺めていた京楽は、背後の七緒を振り返っては宣伝の感想を述べていた。その度に七緒は眼鏡の位置を片手で直しながら、それぞれの詳細な説明を京楽に話して聞かせる。
「八番隊の義骸は貸し出さなかったのかい」
「他の皆様が話を付けて準備なさっていたので」
「僕のを使ってくれて良かったのに」
 京楽の言葉に七緒は片眉を上げた。京楽は背を向けたまま、忍び笑いをして絡繰箱を眺めている。
「……隊長のお姿をお借りするわけには参りません」
「えー、僕は構わないんだよ、そういうのは」
 ごろりと転がって仰向けになる格好で京楽は七緒に顔を向けた。そして七緒のしかめた眉を見上げて、ふふと笑う。
「僕の姿でピョンとかケロケロとか、いいじゃない」
「よくありません」
「隊長くらいの人が使用してみせた方が、他の人も使いやすいというものだしね」
「でも」
 七緒の目の前では床に転がった京楽が相変わらず軽い微笑みを浮かべている。その姿でピョンと言っている姿がふと脳裏に浮かび、七緒は力一杯頭を振った。
「七緒ちゃん?」
「やはり、よくありません。ええ、本当に……私がいやなんです」
 ぽろりと七緒の口から言葉が零れた。
 次の瞬間、何を言ったんだという表情で七緒の動きが止まり、そして頬が朱色に染まった。
 頬は紅潮しているというのに七緒の眉間の皺は普段よりも深く険しく刻まれている。あららら、と京楽は思い、体を起こすと胡座をかいて七緒の顔をのぞき込んで笑った。
「なーなおちゃん、もう一回その言葉を聞きたいな」
「二度と言いません!」
 顔を背けて勢いよく七緒は立ち上がる。
「お茶、いれてきます!」
「はいはーい、お願いね」
 慌てて部屋を出ていくその背を見送って、京楽は静かに微笑む。


※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。





『0000製作者の感想』

「……で、ネムさんは何を発案したんですか」
 阿近が問いかけると、寝台に腰掛けて伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)を眺めていたネムが振り返った。綺麗な顔には相変わらず表情が浮かばない。しかし目の奥を見て、阿近は、ネムが楽しんで宣伝を観ていたことを理解する。
「骸骨の『アルフレッド』を」
「誰かの義骸に入れようとはしなかったんですか」
 ネムの肩の傷を縫い合わせながら阿近は再び訊いてみる。ネムを挟んで反対側で指の治療をしていた局員の少女も興味深そうな目をしてネムを見上げた。ネムはわずかに首を傾げ、また真っ直ぐにする。
「マユリ様に」
「えっ」
「げっ」
 阿近と少女の声が重なる。
「このような企画を行っていると報告しましたら、ご自分の義骸を貸しても良いと仰って下さったのですが」
「……うーわー、局長ってば太っ腹」
「ていうかあの人の思考回路に何があったんだ」
「マユリ様の普段のご様子とあまり差がなかったので、お借りしないことになりました」
「っつうかいつ局長の義骸に入れたんですか」
「それをお話しした夜に、マユリ様がご自分で試みて下さいました」
「うわー、見たかったなあ」
「その時にやちるさんが、宣伝にならないと仰って」
「死ぬ気かよ」
「マユリ様もその意見に納得されたようでした」
「納得してる局長も見たかったなあ」
「そして義魂丸の出来にとても満足されていました」
 傷を縫い合わせる手を止めて、阿近は盛大に溜息をついた。ネムと少女が阿近を振り返り、そろって首を傾げる。
「いやな、どうしてこのはっちゃけた義魂丸をさあ……いや、いい。お前らに何か言おうとした俺が間違っていた」
 阿近は億劫そうに、もう一度、大きく息を吐いた。ネムと少女は顔を見合わせ、また首を傾げた。


※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。







 どうにもこうにも、あとがきを後回しにしていると書くことを忘れてしまいますよ困っていますよでも書きましょう。えーと、やちるとギンはこうして仲良くなっていきます。やちるは、色々なことに気付くことのできる子だと思います。そしてそれを胸の中にしまっておけるくらいに大人だと。自分が自分となった、そんな世界を持っている子は、そんな感じじゃないかと思うのです。

  G*R menu novel short story consideration
Life is but an empty dream