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CM-Soul Candy [1]

『00依頼』

「……本当に、これなんですか」
 阿近は念を押すように繰り返す。やちるは大きく頷いた。その満面の笑顔と自分の手の中にある依頼書を見比べ、そして阿近は大きく溜息をついた。依頼書には局長の印もある。そして自分達は面白いモノが作れればそれで構わない。構わないのだが、これはどうなのだろうかと阿近は思う。
 寄せられたままの阿近の眉を見て、やちるは明るい声で言う。
「大丈夫だよ。ちゃんと中央四十六室の許可のある義魂を使うんだもん。性格だって学者が決めたそのまんまじゃん」
「そうなんすけどね」
「ただちょっと親しみやすくするだけだよー」
 やちるの言葉に、阿近はようやく頷いた。
「了解しました。それでは、この依頼、お受け致します」
「女性死神協会会長、草鹿やちる、お願いしました!」
 晴れやかな顔で笑みを浮かべ、やちるはからくり人形のように頭を下げた。






『01うさぎの「チャッピー」』

『女性死神協会より、義魂丸改めソウルキャンディーのニュータイプが登場しました』
 執務室に置かれた伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)から流れてきた声に、一角と弓親は顔を上げた。
「あー、ややこしい名前にしやがって」
 書類仕事に苛々していることもあるのか、一角は睨むように絡繰箱を見やった。対照的に弓親は涼しげな顔だ。
「まあいいんじゃないの。意味は変わらないんだし」
「片仮名にすりゃあいいってもんでもねえだろ」
「片仮名というか、英語だね。少しは現世のことも勉強したら?」
 一角が片眉をぴくりと上げた。そして何か言おうと口を開けるが、その前に扉の開けられる音に遮られる。
 やちるが意気揚々と飛び込んできた。
「あ、宣伝やってるやってる」
「おかえりなさいませ。副隊長」
 弓親が立ち上がり、はしゃぐやちるをソファに座らせる。そして菓子箱を取り出した。
「最初のはあたしが考えたんだよ」
 やちるが弓親と一角を振り返り、誇らしげに指さす。箱の中では女性死神が新商品の説明を始めるのか幾つかのケースを出してきていた。
「どれどれ、拝見しましょうか」
 弓親がやちるの傍に座る。一角も机で頬杖をついて顔を向けた。
『こちらが会長一押しの商品です。うさぎの「チャッピー」』
 女性死神が手に取ったのは兎の頭部がケースについているものだった。
『このように丸薬が飛び出してきます。そして今回は会長にご協力頂いて「チャッピー」をご紹介したいと思います。どうぞ!』
『ぴょーん!!!』
 弓親と一角は僅かに目を見開いた。
 箱の中ではやちるの姿をした「チャッピー」が跳ねている。
『どうぞよろしくお願いしますピョン!』
『「チャッピー」は礼儀正しく明るく楽しい性格です。また力は強く、動きは素早い設定になっています』
 画面の中でやちるの姿をした「チャッピー」は、飛んだり跳ねたりしてみせている。
「なんか……違和感ねえな」
「そうだね。女の子にはいいんじゃないの」
 そのとき、やちるが音が出るほどにっこりと微笑んだ。
「そう言われるかなって思ったから、きちんと考えたんだよ」
 何を、と訪ねようと弓親がやちるに振り向いたとき。
『更に今回は、男性の死神皆様にも抵抗なくご使用頂けるよう、この方の義骸にもモデルとしてご協力頂きました! どうぞ!』
 一角が変な声を、喩えるなら蛙が潰れたようなときの声を出した。
『多くの人に使ってほしいですピョン!』
 弓親は絡繰箱の画面に振り返り、そして硬直した。
 狭い画面の中で、我らが十一番隊隊長更木剣八の姿をした人が、やちるの姿をした人とともに飛び跳ねている。見たこともない笑顔でポーズまで決めていた。
「剣ちゃんがねー、いいって言ってくれたんだ。うん、やっぱ可愛いじゃん」
 やちるは嬉しそうに何度も頷いている。
 離れた部屋から絶叫がかすかに聞こえた。しかし弓親も一角も一言も発せず微動だに出来ず、ただ呆然と映像を眼に映していた。



※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。






『02あひるの「ユキ」・狗の「パプルス」』

 四番隊執務室では、卯ノ花がくつくつと口元を押さえて笑っていた。伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)に映し出される映像は、まだソウルキャンディーの新商品を紹介している。
「よく、更木隊長がお許しになりましたね」
 笑みを含んだ声で卯ノ花が言うと、勇音は微苦笑した。
「きっと、やちるさんが頼みこんだのだと思います」
「それなら断れないですね」
 絡繰箱からは続けて、あひるの「ユキ」という商品が紹介されはじめた。
『こちらは動きはそう速くはありませんが、耐久力と忍耐力に優れています。また泳ぎが得意ですので水辺での任務にはお奨めです』
『どうぞよろしくお願い致しますガー』
 画面の中で深々と礼をしたのは、四番隊第七席(第十四上級救護班班長)山田花太郎の姿だった。普段の彼よりも少しばかり堂々としたその姿は、紹介役の女性死神の質問に笑顔で答えている。時折、『ガ?』と小首を傾げる仕草は愛らしい。
 卯ノ花は微笑んだままそれを眺め、その表情のまま勇音を振り返った。
「彼の義骸を?」
「はい」
 勇音もまた微笑んで頷く。
「伊江村三席には断られてしまいまして……そのままどんどん続けて断られ続け、ようやく花太郎がいいですよって言ってくれたんです」
「まあ……彼なら似合うのでいいでしょうけれどねえ」
 画面の中では花太郎の姿をした「ユキ」の隣に新たな姿が現れた。卯ノ花が微笑みを凍らせる。
『こちらが三番目にご紹介する、狗の「パプルス」です。熱血・忠実が売りで、動きも力強いのが特徴です!』
『どうぞよろしくお願い致しますワン! 一生懸命頑張りますワン!』
「あー……やっぱり、似合わなかったですねえ」
 勇音が苦笑してしみじみと呟く。卯ノ花は何も答えずに、微笑んだまま画面を眺めていた。そこには、第八席荻堂春信の姿をした「パプルス」が快活な表情で動き回っていた。



※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。






『03カエルの「カネシロ」・猫の「ギンノスケ」』

 吉良は三番隊執務室で呆然と伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)を眺めていた。先日、蕎麦屋でやちるが剣八に何かを頼み込んでいたようだと隣のテーブルで天ぷら蕎麦を注文しながら聴いていたが、これだったのかと理解する。吉良は安堵の息を吐いた。大きく吐いた。女性死神協会の人間がこの隊にいなくて良かったと心の底から安堵して息を吐いた。
 そんな吉良の様子を、珍しく執務室にいるギンが笑って見ている。
「えらい楽しい宣伝してはるなあ、女性死神協会さんは」
 吉良は顔を上げると、爽やかに微笑んだ。
「でもまあ、いい宣伝ですよね。使用例を出した方が分かりやすいですから」
「そうやねえ。やちるちゃんもよう考えはったわ」
 画面では宣伝が続いている。
 ギンはそれをにやにやと眺めて、さらりと言った。
「あ、イヅルや」
『「カネシロ」ですケロ。よろしくですケロ』
 ギンの言葉と同時に画面から流れてきた自分の声に、吉良は硬直した。確かに画面の中では自分が説明に合わせて動き回り、ケロケロ言っている。
「え、ええ…………ええ? 何で? 何で何でこんな」
「ああ、やちるちゃんに頼まれてボクが許可出したんや」
 慌てふためき涙目にすらなっている吉良に対し、ギンは爽やかに微笑んだ。
「自分の隊員でもいいんやけど、出来ればみんなに知られている人の方が宣伝になる言うてなあ。そら確かに、て思うたから、ええよー、て」
「僕は何も聞いていませんよっ!」
「そら、断るやないの。言うたら」
 吉良はぱくぱくと口を開けては閉じた。言葉が出てこない。その間も画面では吉良(の姿をした「カネシロ」)がケロケロケロケロと説明している。ギンはへらへらと笑っている。
「可愛いやないの。普段もそう言うてみたらええやん。ほら、次はボクやねん。そない落ち込まんといてえや」
『「ギンノスケ」ニャ。どうぞよろしくお願いしますニャア』
 画面中の吉良(の姿をした「カネシロ」)の横にギンの姿が並ぶ。表情は本物のギンとそう変わりはなく、ただ言葉が訛ってはおらずに語尾に「ニャ」がついているくらいだ。ギンは笑みを深める。このキャラクター案を出した人を聞いたから、ギンはより乗り気になったのだから。
「あんまりボクと変わらんなあ」
 ギンは嬉しそうに言う。それに何も答えず、吉良はがっくりと机に突っ伏した。



※伝令映像絡繰箱(仮・現世で言うテレビジョンのような機械)とは管理人が勝手に考えてそれらしい名前を勝手につけたものです。原作にはありませんのでご注意下さい。






『000感想』

「市丸はあまり落差が無くて面白くねえな」
 日番谷はソファに寄りかかり、そう呟くとお茶を飲み干した。乱菊もまたその向かいの椅子に座って宣伝を眺めていたが、そうですねと頷いた。そして口の中で呟く。そりゃそうだろうと。
「やっぱ、更木が破壊力では一番だったな」
「キャラクターが「チャッピー」ということも大きかったかもしれませんね。隊長、もう一杯いかがですか」
 乱菊は立ち上がり、お盆を手に取ると日番谷の湯飲みをそれに載せた。宣伝はまだ続いている。休憩時間にはもってこいの番組だった。日番谷はくつろいだ格好で、相変わらずのしかめ面で宣伝を見ている。
「四番隊の二人はまあ悪くないな」
「山田は可愛いですけど、荻堂の方はちょっと不気味ですね」
「吉良はなかなかいいんじゃないか」
「それ、本人に言ったらだめですよ。泣きますよ、吉良」
 今度は紅茶にして、乱菊は茶托と新しい湯飲みを日番谷の前に置いた。そして自分は椅子に座る。日番谷は手を伸ばし、熱っと呟いて手を引っ込めた。そして、少し考えるようにその手を口元に持っていくと、眉間のしわを深くして乱菊を見る。
「松本」
「何でしょう」
「俺を使ってねえだろうな」
 乱菊は艶やかに微笑んだ。
「まさか。雛森のお願いだってお断りになったじゃないですか」
 日番谷の眉間のしわが更に深く刻まれる。
「大丈夫ですよ。無断で使われたのは吉良くらいじゃないですか」
『続いての新商品は………』
 宣伝はまだまだ続いている。







 かなり後回しにしていたあとがきですが、これは書いていて楽しかったことを覚えています。本誌でのはっちゃけたチャッピーを見て、慌てて書き上げました。これは書かねば、と思ったのですね。ネタ以外の何者でもねえ、という勢いでした。

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