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百  一つの季節がすぎるくらい一緒に

「どうしてこうなったんやろ」
「なぁにー、何か言ったー?」
 思わず呟いたギンに、樹の下でギンの落とす果物を受け取っていた乱菊が問い返す。
「何でもあらへんよ」
「ならさっさと採っておりてらっしゃいよ」
 はあ、と気の抜けた返事をして、ギンは手近の干からびた果実を採った。そして下を見て、乱菊に向けて放る。両手を上に上げていた乱菊はそれを受け取って足下の籠に入れた。
「もう殆ど採ったみたいや」
 上まで見渡してギンが大声で告げる。すっかり葉が落ちて骨格のような枝が露わになっていた。そのところどころ細い枝の先の方に干からびた果実が残っている。それらは鳥の食料だ。ギンが採れる範囲は全てもいだ。
「ならお終いね。ご苦労様」
 下から乱菊が大声でねぎらう。ギンは幹に抱きつくと器用に足を引っかけて降りた。地面に足が着くと、枯れ葉が厚く堆積したそれは柔らかくギンの足を受けとめる。
 乱菊は乾いた場所に座り込み、果物から汚れを払い落としていた。ギンはその横に座る。振り向いた乱菊が呆れた顔をした。
「ギン、ここ、どうしたの」
 乱菊が自分の頬骨の辺りを指さす。ギンは手をやり、ああと頷いた。
「登るときに小枝に引っかけてん。まあ舐めといたら治るわ」
「眼に入ったらたいへんよ。気を付けてね」
 ギンはにぃと笑った。
「ボクん眼ぇ細いから入らへんよ」
「それはそうね」
「うわ、ひど」
「自分で言ったんじゃないの」
「自分で言うのは冗談やないの。ちゃあんと、でも気を付けなあかんえ、とか言うもんやで、普通」
 抗議するギンに、乱菊はひらひらと手を振って答えた。
「はいはい、気を付けなきゃだめよ」
「うわ、おざなり」
 ふて腐れるギンを無視して乱菊は作業を進めている。それを横目で見て、ギンはわざとらしく大きく息を付いた。
「最初はなあ、おとなしゅうて可愛らしゅうて、お人形さんみたいやったんに、どうしてこう元気でおきゃんなお人になったんやろ」
「元からよ。お人形さんみたいじゃなくって残念でした」
 最後の汚れを払い、乱菊は抱えていた籠を脇に置いた。そしてひょいとギンを振り向くと、顔を寄せて傷を舐めた。
 ギンが全ての動作を止めた。
「舐めときゃ治るんでしょ。ほら、ふて腐れてないで、帰ろう」
 乱菊はそう言って、立ち上がると着物に付いた枯葉を払う。ギンが一拍遅れて立ち上がった。
「どうしたの」
「……いつもはお願いしてもしてくれへんのに」
「あんたがふて腐れているからよ。言っとくけど、後でちゃんと洗うのよ」
 ギンを振り向いてそう言った乱菊の顔はわずかに赤く、それを隠すように乱菊は不機嫌な顔をしていた。ギンは思わずにぃと口角を上げて笑みを浮かべる。
「かわええなあ、乱菊」
「あら、それは昔の話じゃなかったのかしら」
「今は更にかわええわ、怒らんといて」
 乱菊の手から籠をとり、ギンは乱菊の肩に顔を寄せた。猫みたい、と乱菊は笑い出した。





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