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春・十一番隊

「つーるりん」
「誰がつるりんですか副隊長」
「つるりんはつるりんだよ」
「だから誰がつるりんだっつっとろうがこのドチビ」
 最小の副隊長・草鹿やちるを肩車し、彼女に怒鳴りつつ三席・斑目一角は瀞霊廷の町中を歩いていた。片手でやちるの足を支え、もう片方の手には淡い桜色の紙袋を持っている。
「菓子の買い出しなら弓親が適任じゃねえかよ、ちきしょう」
「だってお仕事で忙しそうだったから仕方ないよ」
 ぼやく斑目の光る頭を、やちるは笑いながら宥めるように撫でた。その行為に斑目の口元が引きつる。
「弓親と阿散井が片づけてる書類仕事は、本来はどなたがするものでしょうねえ副隊長」
「誰?」
「てめえだてめえ! このドチビ!……あとは隊長ですがね」
「剣ちゃんは書類見てると頭痛くなるって言ってたよ」
「あんたはどうなんすか、副隊長」
「痛くなるよ。でもね、剣ちゃんが誉めてくれたよ」
 頭の上の高い声に、斑目は少しの間、黙った。全く漢字を読めなかったやちるが、机上の仕事を苦手とする剣八を手伝うために漢字を覚え、単語を覚え、時間はかかるが懸命に報告書等の事務作業をしている。遊びたい気持ちを(口には出しながらも)押さえて仕事を片づけているやちるを、斑目はよく知っていた。同じように傍で見ている綾瀬川も阿散井も知っている。だからこそ、途中で誰かが交代をかってでて、誰かがやちるを連れ出して休憩することが、彼らの間で暗黙の了解となっていた。
 ただ何故、俺が。斑目はがっくりと項垂れる。どうして、あんな女だらけの行列にやちるを肩車して延々と並ばねばならなかったのか。刺さるような興味本位の視線だけなら我慢したが、愉快そうに笑って肩を叩いていった松本と、珍しいくらいに微笑んだ伊勢に会った、その運の悪さだけは斑目は我慢できなかった。
 黙り込んだ斑目を、覗き込むようにしてやちるが身を乗り出した。
「つるりん? つるりんも頭痛いの?」
「まあなんつうか……何でもないっす。帰ったら、茶ぁして、全員で書類をやっつけちまいましょう」
 振り返るように顔を向けると、やちるは斑目に音の出そうなほどの快活な笑みを向けていた。
「うん。途中で、修練場の剣ちゃんも呼びに寄ろうね」
「全員分の菓子はないんですから、大声で呼んじゃダメっすよ。射場さんと分けたから、マジで執務室にいる人数分くらいなんですから……明日、残り全員の分(といっても争奪戦になるだろうけど)を買いに行くときには、絶対に俺じゃなくて弓親か阿散井と一緒に行って下さいね。いいっすか」
「うん、わかってるよ」
「……そんじゃま、修練場に急ぎますか」
 斑目は紙袋を抱えると、走り出した。やちるが笑い声を上げて、坊主頭にしがみつく。





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