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春・七番隊

「隊長、菓子を貰いましたけぇ、休憩なさらんですか」
 副隊長・射場がそう執務室に入ると、窓辺に立っていた鉄笠の隊長・狛村が振り返る。
「菓子を。誰に」
 鉄笠の奥にある鋭い金色の眼が光ったように思えたが、狛村の声は穏やかだ。狛村は窓辺から離れると、長椅子にその巨体を沈める。射場は背で扉を閉めると、長いすの前の小机に紙包みを置いた。
「十一番隊の草鹿副隊長と斑目三席ですけぇ。道で擦れ違ったおり、多く買ぉてきたとかで、七番隊に分けてくれたんですけぇ」
「ならば今度お礼をせねばならんな。……さて、皆の分はあるだろうか」
「一角は皆で分けてくれと言っとりましたが、さて、どうですけんのう」
 狛村の大きな手が、以外にも器用に動いて紙包みを開く。そこには淡い桜色をした道明寺が五個、並んでいた。
「……どうすりゃ皆で分けられるんじゃ」
 射場が思わず呟くと、珍しく狛村が喉の奥で笑った。
「向こうの皆で食べるとよい。儂はいらん」
「どちらにしても足らんですけぇ。隊長は召し上がって下さらんと」
 そう言って、射場はにやりと笑って立ち上がった。
「ちょうど書類仕事もきりがいいですけぇ、隊長の分を差し引いた残りを、ちょいと修練場で争奪してきますわ。最近、机に齧り付いとって、奴らも体が鈍っとりますけんのう」
 ぽきぽきと指を鳴らす射場を見て、狛村も立ち上がった。
「確かに修練も久しくしておらんな……儂も共に行こう」
 部屋の隅にある木刀を手に取って、狛村はわずかに笑みを含んだ声で言った。
「一汗かいたら、桜の下で茶にしよう。中庭の桜が咲き始めた」
「隊長が見ておられたんは、桜でしたか」
 道明寺を包み直すと、射場も木刀を手に取った。
「夕暮れに花見たぁ、ええですのう」
「うむ。酒は終業の鐘の後だがな」
 二人が出ていった部屋の窓の外には、音もなく桜が一つ、また一つと咲きほころんでいた。





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