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春・四番隊

 四番隊の隊舎は混乱を極めていた。
 先日、現世に多くの虚が出現した際に出動したのは十一番隊。死人は出なかったが多くの隊員が怪我を負い、四番隊へ運び込まれた。
 そして十一番隊と四番隊は一方的に仲が悪い。
 十一番隊の席官達は決して四番隊を軽んじたりはしていない。己の強靱さを信頼するあまりに治療から逃げ出したりはしたが、むしろ特殊能力集団である四番隊には敬意を払っている。しかし、下位になるにつれ、十一番隊は戦闘を行わない四番隊を軽んじ、馬鹿にした。
 そんな彼らが多数入院する隊舎の混乱は想像に難くない。
 清掃作業から戻ってきた第七席・山田花太郎は、隊舎に入るなり騒動に巻き込まれた。
 目の前で、厳つい顔と体をした十一番隊の隊員三人と、四番隊の隊員が言い争っている。
「だからもう治ったって言ってるだろうがよ!」
「いいからここから出せよ。暴れちゃうよ?」
「そんなこと言われましても、まだ治療中です……ああ! 七席! 七席からも言ってやってください!」
「……はい?」
 箒を手にして呆然と立ち竦む山田を一瞥して、十一番隊の死神は口元をゆがめて笑った。
「七席? これが七席かよ。おいおい笑わせるぜ」
「君! 上官に対してなんて言い草だ!」
「だってこんな弱っちろいの、どうしろっていうのよ」
 珍しく十一番隊に負けずに四番隊が言い返している。それに対して十一番隊の隊員は巨体で彼を押しつぶさんばかりに見下ろしている。
「あ、あの……」
 山田はようやく口を挟むことが出来た。
「あんだよ!」
「と、とりあえずですね、まだ治療中ですから、部屋にお戻り頂けませんでしょうか……治りきらないうちに無茶すると、もっとひどくなりますから……」
「うるせーよ。もう問題ねえんだよ」
「お前を治療中にしてやろうか?」
 三人の巨体が山田に向かってきたときに、キンと空気が冷えた。
「桜がきれいに咲いていますね」
 十一番隊の三人の動きが止まる。山田がおそるおそる覗き込むと、彼らの背後に、いつのまにか卯ノ花が立っていた。窓の外を眺めて、微笑んでいる。
「美しい桜ですね。ご存じですか。桜が美しいのは、その下に死体が埋まっているからだそうですよ。それにしても四番隊の桜は見事に咲きましたね」
 卯ノ花が音もなく彼らの前に回り込む。
「さて、静かに部屋にお戻りになってはいかがでしょうか? 桜がよく見えますよ」
 三人が真っ青な顔で首がちぎれんばかりに頷いた。卯ノ花の後ろに控えていた虎徹勇音は微かに頬を染め、尊敬に溢れた眼で卯ノ花を見ている。三人と言い争っていた四番隊隊員も同様だ。
 山田は小さく溜息をついた。昇格しても、自分はこうはなれないように思う。
「皆さん、ご苦労様です。勇音にお菓子を買っておいてもらいましたので、各自休憩時間にお食べなさい。あなたもよくやりました。山田七席、あなたもです。お茶になさい」
 卯ノ花が春の陽射しを思わせる微笑みで、周りを見渡した。





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