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春・二番隊

 砕蜂は、執務室の机上にある菓子に目をとめた。見慣れない桜色のその菓子は、黒塗りの漆の皿に置かれ、隣には湯気を立てる茶がある。
「大前田」
「はい」
 隣の机で煎餅を囓りながら、くぐもった声で答える副隊長を、砕蜂はきつい眼差しで見やった。
「これは何だ」
「おやつです。休憩されてはどうかと……五席が持ってきたんスよ」
「そんな生ぬるいことを言ってどうする? これからまだ特務があるぞ」
「だからじゃないスか。甘い物でも食べて、疲れを取ってくださいっつう考えですよ。うまいっスよ、それ」
「……」
「俺が買ってきて食ったので、間違いないッスよ」
「お前が買ってきたのか」
 可愛らしい桜色の菓子と大前田。腹の膨れなさそうな小降りの菓子と大前田。そのギャップに驚いて目を見張る砕蜂に、相変わらず煎餅を口に入れたままで大前田は話す。
「だって、隊長、煎餅は食わないじゃないッスか。なんか食った方が疲れとれるッスよって言ってるのに。それならいいでしょ。隊長、こういう見目のもの好きッスよね」
「知っていたのか!」
「そりゃ、仕えているんスから、当たり前でしょうよ」
 砕蜂は赤くなって、慌てて窓の外に顔を向ける。外には、中庭に植わる桜。
 そういえば桜が咲いていたのか。砕蜂はやっと春爛漫であることに気づいた。
 大前田は、事も無げに話を続けた。
「俺も、他のやつらも、隊長を尊敬してるッスけど、心配もしてるッスよ。どこまでもついていきますから、倒れる前に食ってくださいよ。食わないと」
 桜からはらはらと花びらが散っていく。大前田の言葉に、昔の自分が甦る。砕蜂は目を伏せた。大前田に初めて感謝したかもしれない、と思う。
 思ったが。
「身長伸びませんよ」
「余計なお世話だ! もう伸びぬわ!」
 弾ける霊圧に、桜が大量に散った。





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