G*R menu


絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 2-1

 四十九地区まで進んで、そこでもう限界だった。
 微かにある水の匂いを辿って藪を掻き分けていくと、ふいと空間が現れる。小さな泉がそこにあった。こんこんと水が沸きだし、小さな流れになって流れている。ギンは淵に跪くと、掌で静かに水をすくって口に含んだ。からからに乾いた口腔が潤い、飲み干す。体中が飲み干している。
 しばらく飲んだ後、顔を洗って、ギンは一息ついた。少し離れた木の根本に座り込み、体を幹にあずける。全身がだるく、重い。水を飲んだら疲労感がどっと溢れ出した。しかし、ここで眠るわけにはいかない。ギンはどうにか立ち上がると、太い、枝振りの良い大樹を選んで登り出す。ある程度の高さまで登ると、横に張り出す太い枝に座り、枝と幹に体を縄で固定した。落ちるようなことはないと思うが、さすがに疲れていてわからない。結び目をしっかりと引き絞り、ギンは大きく息を付く。
 空を見上げると、もう白んできていた。
「乱菊どうしてるやろか」
 口にすると、山吹色の髪が朝日を浴びて黄金に輝く様が目の前に立ち現れてしまう。ギンは目を瞑るが、体の奥で何かが捩れるように痛み、音を立てる。もう誰かと一緒に暮らしているだろうか。どこかもっと楽な暮らしのできる場所に移動しただろうか。
 それともまだあの小屋に暮らしていてくれているのだろうか。
 ギンは強く目を瞑る。乱菊に会いたくて会いたくて、仕方なかった。一目その姿を見るだけでよかった。体中が軋んで痛い。ギンは押さえつけるように両腕で自分を抱え込んだ。





  G*R menu novel short story consideration
Life is but an empty dream