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ぼくらはただそうやって世界を手にした 6

 夜が明けて、乱菊とギンは全ての家を廻った。全ての人が殺されていた。その日のうちに二人は集落の傍に穴を掘り、全員を埋めた。二人とも相当量の霊力を放出して疲れ切っていたうえ、子供の力だけで道具もなく硬い地面を深く掘るのは容易ではなかったが、二人とも黙々と穴を掘った。遺体はかなりひどくやられていて、乱菊は優しかった人達を思いだして涙をこぼしながら切断された体を運んだ。ギンは無表情だったが、いつになく丁寧な手つきで遺体から汚れを取り除き、布に包んでは穴にそうっとおろしていた。その手つきで、乱菊はギンがこの事態を悲しんでいることを感じていた。その感情をギンが自分で理解していないことも、なんとなく気づいていた。
 略奪者達の遺体を埋葬することは感情が拒んだが、それでも埋めることにした。集落の人達の墓から離れた場所に大きな穴を掘り、そこに運んでまとめて埋めた。彼らの遺体に触れるとき乱菊はあの眼を思い出してぞっとしたが、その感触を黙って噛み殺した。ギンはそんな乱菊に男達の遺体に触って欲しくなかったので、全部自分がやると言ったが、乱菊は頑なにそれを拒んだ。ギンに全てをさせたくはなかったからだ。

 全てが終わったのは、宵闇に月が輝く頃だった。二人とも泥に血に塗れ、酷い臭いがしていた。
「もうこの着物あかんな」
 ギンが呟くように言った。
「おばさんの家に着物あったやろ。おばさんには悪いんやけど、もらっていこ。水浴びて着替えんとあかんわ」
「うん」
「そんで荷物まとめて…………疲れとるやろけど場所、移ろ」
「うん」
「……乱菊」
「うん?」
 ギンは俯いていた乱菊の頬に両手を伸ばし、包み込んで顔を上げさせた。乱菊は涙も涸れたのか、ただ疲れ切って、青白くなっている。血や泥がへばりついて、山吹色の髪は薄汚れて唇はかさかさに乾いていた。それでも乱菊はかわいい。こんな時でも柔らかい頬の感触に気持ちが挫けそうになりながらギンは乱菊の眼を覗き込んだ。
「ボク、乱菊が……乱菊と自分が危のうなったら、人潰す……殺すで」
「うん」
「あんな奴らと同じようなことはせぇへんよ。できるだけ殺さんようにはできるて思うんやけど、無理なら、殺す。遠慮なんてせぇへん。殺す」
「うん」
「そんでもボクと一緒行くんでええの?」
「うん」
 乱菊が同じ返事しかしないので、ギンは不安になって首を傾げた。けれど乱菊の眼はしっかりしていて、まっすぐにギンを見つめている。
「一緒でええの?」
「うん」
 戸惑った表情を浮かべたギンに、乱菊は少しだけ微笑んだ。
「……あのね、ギン。あたし、ギンが誰かに殺されそうになったら、多分、あたしはその人を殺すわ」
「は? 何言うてんの。あかんて。殺すんはボクでええて」
「だめ。聞いて」
 乱菊の言葉を慌てて遮ろうとするギンの唇にそっと手を添えて、乱菊は黙らせた。その指の感触にギンは何も言えなくなってしまう。
「全部、半分。ギンひとりで背負い込まないで。だって、あんたは強いから、あんた一人だったら誰も殺さないで逃げられるんだもの。あたしを庇うから、血だらけになるんだもの。あんたが浴びた血の半分はあたしが浴びるのよ。あたしとギンで半分こよ」
 ギンはくらくらして乱菊に倒れ込みたくなった。なんということだろう。目の前のこの子は、自分の犯したことを一緒に引き受けてくれようとしている。きれいなきれいな乱菊が、引き受けてくれようとする。
 この汚れを。
 この血の臭いを。
 どうしよう。どうしよう。ギンは混乱する。
「ボク、別に殺すんなんとも思わんよ。別にええんよ」
「何言ってるのよ。全員殺したあと、あんな顔してた子が何を言ってるの」
 昨夜のギンの疲れ切った表情を思い出して、乱菊は哀しくなった。もしかするとギンは何も気づいていないのではないだろうか。あまりにも哀しくなって、乱菊は自分の両頬に添えられたギンの手にそっと触れると、ギンが戸惑ったようにおずおずと乱菊の額に自分のそれをこつんとぶつけた。その戸惑いが切なくて、乱菊は目を伏せた。
「わかった? ギン? お願いよ」
「うん……」
 ギンは何も言えずに、額をくっつけたまま、ただ乱菊の長い睫を見つめていた。





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