2019年10月11日(金) |
海を抱いて月に眠る / 深沢 潮 |
やたら韓国の風習にこだわり、家族に対して不機嫌で怒ってばかりだった在日韓国人一世だった父親。亡き母親は、そんな父親に対していつも愚痴、不平ばかりだった。 そんな父が亡くなって通夜の席で、人目もはばからずに棺にすがりつく老人、そして泣きはらした美しい女性、家族の見知らぬ人々が父の死を悼んでいた。 彼らは一体、父親とどんな関係があったのか。
長女である文梨愛(ムン・イネ)は、彼らと父親の関係を知りたいと動き出すが、彼らから聞かされる父親の話はとても受け入れ難いものだった。その梨愛にショックを与えたのは、兄の鐘明から渡された、父親が書き遺していたという数冊のノート。 父親が16歳の時、朝鮮半島から日本へと数人の仲間と小船で海を渡り、偽の身分証を手に入れ「文徳允」という偽名のまま日本で生きて来たこと、望郷の念を抱きつつも果たせず、母国民主化のための運動に身を投じて来た半生が明かされていく。
この物語は、日本海を泳いで渡って来たという著者のお父さんのエピソードを元に書かれた。 幼い頃から著者は、何故戸籍と実際の父親の年齢が違うのか等々、不思議に思っていたとか。
ノートを読み進めていくと何と辛く、苦しい半生を送って来たのか、と心を揺さぶられていく。 在日朝鮮人に対する差別も問題だが、故郷、そして母親の元に戻れず、本当の自分ではない身上で生きていかなければならないという事実、そしてそれを家族にも打ち明けられなかったこと。 同胞のため母国民主化のための運動に熱心になればなるほど、家族との溝が広がるばかり。もちろん、そこには不器用で怒りぽかった父親自身の問題もあるにはあっただろうが、その苦しい胸の内を思うと一概に非難はできない。
読むほどに読み応えのある素晴らしい作品だった。
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