2019年08月01日(木) |
あちらにいる鬼 / 井上 荒野 |
小説なので登場人物の名前は違う。
長内みはるは瀬戸内晴美(瀬戸内寂聴・文中では長内寂光) 白木篤郎は井上光晴 白木の妻は笙子 みはると、白木の妻の二人が、交互にその時を語るような形式で進んでいく。 それぞれの白木篤郎への想い、みはるの笙子への想い、笙子のみはるへの想いなどが、その時々のいろいろなエピソードを通して語られていく。
実際、著者は瀬戸内寂聴さんにじかに会って話を聞き、父や寂聴さんが書いたもの、語ったと思われる多くの作品をよんでん、そして母をも思い出しながら文章を紡いでいった。
ご両親は亡くなられているが、寂聴さんはまだご存命で書きにくかったのではないかと思う。 でも寂聴さんは自分がモデルの作品を読み、傑作だと感動されたそうだ。 おこがましいが私も素晴らしい作品だと思う。 お母様と愛人であった寂聴さんとのそれぞれの想いや葛藤がすばらしい言葉になって表現されている。
それにしても白木篤郎という人は、妻からも愛人である寂聴さんからも深く愛されて何ともうらやましい御仁だ。 ある意味、白木と縁を切るために出家するのだが、そして明日が剃髪という夜に、白木に髪を洗ってもらうシーンなんて生々しい。 そして私がいちばん知りたいのは、白木の妻笙子の本当の気持ち。 いろんなウソを吐かれ、それでもみはるにとどまらず複数の女の匂いがついた夫をそれでも心底愛していたのか。
父とみはるの不倫が始まったのは荒野が5歳の時。 それがこうして小説になるのだから面白い。
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