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2007年11月08日(木) 「食事中にお茶」か、「食後にお茶」か

先日、友人とランチをしたときのこと。彼女が突然「あ」と言ったので、皿の中に髪の毛でも発見したのかと思ったら。
「……もよおした」
バッグを掴んであたふたとトイレに向かう彼女の背中に「行儀悪いナー」とつぶやいた瞬間、あることを思い出した。

少し前、ときどき覗きに行くネットの掲示板で、
「ごはんを食べながらお茶を飲んでいたら、一緒にいた人に『食事中にお茶を飲むなんてはしたない』と注意された。そんなことをいままで言われたことがなく、とても驚いた。いったいなにが悪いのか」
という書き込みを読んだ。
そのとき私は投稿主同様、「はしたない」の意味がまったくわからなかった。お茶を食事のときに飲まずにいつ飲むというんだ?
そのため、その投稿についていた、
「私も同じ経験があります。料亭で懐石料理をいただいたとき、お茶がなかなか出てこないので仲居さんに頼んだところ、『いまはお茶をいただく時間ではございませんので』と言われ、結局食事の後までもらえなかった」
というレスは多少気になったものの、私は「不思議なことを言う人がいるもんだな」の一言で片づけてしまった。
しかし友人を待っている間に、そういえば夫の実家では食事の最中は飲み物はなく、全員が食べ終わってから熱いお茶が配られることを思い出した。初めてそのことに気づいたときどうしてなんだろうと思ったのだが、義母に尋ねたことはなかった。家庭が違えば習慣も違うものだ、と深く考えなかったのだ。
ふうむ。まあ、偶然の一致だとは思うけど……。
私はごく軽い気持ちで戻ってきた友人に「ごはんのとき、お茶飲むよね?」と訊いてみた。

そうしたら。
「私はお茶がないと食べられへん人やけど、本来はお茶は食後、やろうなあ」
と返ってきたものだから、私はイスから転げ落ちそうになった。
「本来はって、じゃあそれが正しいお茶の飲み方ってこと?」
「たぶん。うちの実家は最初からお茶出てくるけど、おばあちゃんの家ではご法度でいつも我慢させられてたよ。お茶欲しいって言ったら、そんなみっともないことしたらいかんって怒られたもん」
本当に驚いた。「食事中にお茶?飲むに決まってるやん」という答えしか予想していなかったから。
……しかし、である。
食事をしながらお茶を飲むことをダメと言われる理由がいくら考えても思い浮かばない。食事中にジュースを飲むな、ならわかるのだが、お茶である。いったいなにが問題だというのだ。だってお茶がなかったら喉が詰まるじゃないか。口の中をリセットできないというのも気にかかる。
そう言ったら、友人は祖母にこう言われたという。
「お茶や水があるとよく噛まずに流し込むような食べ方をしてしまいがちだし、おなかもすぐに膨れてしまう。口直しに必要な水分は吸い物からとりなさい。そのために和食には必ずお椀物がついているんだから」
うーん。すまし汁ならともかく味噌汁で口の中の味を消せるだろうか。それに余計に喉が渇きそうである。

が、百歩譲って「和食の一汁はそのためにある」に納得したとしよう。それでも合点がいかないのは、食事をしながらお茶を飲むという行為を「無作法」と言われることだ。
マナーとは一緒にいる人が気持ちよく過ごせるようにするための気遣いである。咀嚼中にお茶を口に入れたりガブ飲みをしたりする姿は美しくないから「はしたない」と言われるのはわかるのだけれど、食事の合間に適量を飲む分にも人を不快にさせるような難があるとは思えない。なのにどうして?
友人もわからないと言う。祖母からは食事中に飲んではいけない理由は聞かされたが、それと行儀との関係については説明されなかったらしい。

* * * * *

お茶は本来食後に飲むものだったとは……。三十五年生きてきて初めて知った。和式トイレのレバーは手で押すものだと聞いたときと同じくらいのショックである。
もし夫の実家で「あ、お茶がないですね。淹れますね〜」なんてやっていたら、マナー知らずの嫁になっていたのだ。

とはいうものの、心のどこかにまだ「なにかの間違いでは」という思いがあったので、家に帰ってネットで調べたところ。「なぜはしたないか」は誰も教えてくれなかったが、蕎麦屋で働いている女性の「食事中のお客さんにお茶をくれと言われても、作法に厳しい女将さんに注ぎに行かせてもらえない」という証言を発見した。もう疑う余地はないようだ。
そして、ある小児歯科クリニックのサイトでこんな内容の記述を見つけた。
「お茶に頼らないと噛む回数が自然と増え、唾液の分泌が促されるため、虫歯になりにくくなり消化がよくなる。また胃液が薄まることがないので殺菌作用が高まり、食中毒や感染症を防ぐ効果も期待できる。幼児期から飲みながら食べないよう指導することは口腔内だけでなく全身の健康管理に繋がっていく。『お茶は食後』というのは実に理に適った習慣なのだ」
言われてみればなるほどである。親たちはもしかしたら、唾液がどうの消化がこうのと言っても子どもにはむずかしいから「行儀が悪いからダメ」ということにして躾けたのかもしれない。

その後、私は「お茶は食後」を何度か試みている。
……のだが、これがけっこう苦痛なのだ。ここにお茶があったらもっとおいしく食べられるだろうに、とつい思ってしまう。
あれからトイレのレバーは手で押すようになったが、お茶の飲み方は変えられそうにない。
さて、みなさんの家ではどうですか?

(次回、記念本プレゼントクイズの正解と集計結果の発表です。ご参加くださった方、お楽しみに)

【あとがき】
でもうちの夫は食事中にお茶を飲む人。不思議に思って訊いてみたら、「エ、うち、ごはんのときお茶出てこないっけ?」とまぬけな答え。子どもの頃のことはとうに忘れ去り、現在は帰省すると自分は必ず晩酌をするので気がついていなかったらしい。
消化のことなんかを考えると飲まないにこしたことはないようだけど、何度もおかわりをするようなガブ飲みさえしなければまぁいいんじゃないかと思うんですけどね……(でも子どものうちに「お茶は食後」を自然に躾けられたらいいでしょうね)。