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2003年04月04日(金) 「女性専用車両」を考える(アンケート結果発表)

『女性専用車両』を考える(前編)」で行った無記名アンケートに52名の方がご協力くださいました。
というわけで、結果発表です。

一番左の棒が全体、真ん中が女性、右が男性の回答結果です。
意外な結果でした。全体で見ると、過半数(54%)が女性専用車両に「賛成」している。うん、これは予想通り。
私がへえと声をあげたのはその内訳。賛成率を引き上げているのが女性ではなく、男性だったこと。女性の「賛成」と「反対」が同率(41%)なのに対し、男性は68%が「賛成」でした。
私は女性がこぞって賛成を唱え、男性が不公平感や逆差別的意識から専用車両に疑問を呈するのでは……と推測していたので驚きました。といっても、同じ「専用車両の必要性を認める」でもそれに一票を投じるに至った理由は、女性と男性では少々違っていたのですけどね。
まずは賛成票の5割を占めたこの意見から。こちらは男女共通 (スペースの都合上、一部引用とさせていただいています)。

男性の意識改革や女性側の自衛などは結果が出るまでに時間がかかると思うのです。必要悪とまでは言いませんが、女性専用車両はそれに近い存在ではないでしょうか。 【女性・賛成】

アジア人/ヨーロッパ人留学生の意見ももっともです。しかし、今現在起きている問題に対し早急に手を打つためには、日本人として、男として、情けなくも女性用車両の導入も必要だと思います。 【男性・賛成】


「他に即効性のある策がないのでやむを得ない」という消極的賛成ですね。
「諸手を挙げて賛成しているわけではない」というニュアンスの回答が思ったよりも多かったので、ちょっぴりホッとしている私です。
次は男女別に見てみましょう。
まずは男性の「女性専用車両歓迎!」の声。でも、「女性のために」というわけではないようです。

触る気も無いのに混んでるが故に手が触れてしまい、無用な疑いを掛けられるのは迷惑。 【男性・賛成】

あらぬ誤解を受けぬよう、必ず両手で吊り革をつかんでいる。ただでさえ疲れるのにトラブルに巻きこまれるのはかなわん。それから頼むからピンヒールで通勤するのは止めてくれ。足の甲が骨折したかと思ったぞ。 【男性・賛成】


やっぱり挙がりましたねー、この意見。「その他」の方からも、

意識過剰と思えるほど、触れることに敏感に反応する人もいて、ラッシュ時に触らずに済むはずがなかろうもんと思うことしばしば。 【男性・その他】


なんてボヤキが。
私の友人に「男性に背後に立たれたら必ず向かい合う」というのがいます。彼女が「周囲をキィッと睨みつけて威嚇している」と言うのを聞くと、男性が女性から逃げたくなる気持ちもわかります。
真剣に冤罪を恐れる意見もいくつかありました。

携帯電話を注意した人が痴漢に仕立て上げられて現行犯逮捕され、たまたまその状況を見ていた人によって釈放されたという話をきいたり、わざと痴漢といって慰謝料を取るという話も聞きます。
痴漢の立件が被害者の供述以外の証拠で逮捕起訴されるような状況になってもらいたいです。 【男性・その他】


痴漢冤罪裁判のニュースをときどき耳にしますが、無実を証明するのはとても困難だといいます。たとえ勝訴しても、そのとき彼の手元には仕事もお金も、もしかしたら家族さえ残っていないかもしれない。電車内で「被害者」になる可能性があるのは決して女性だけではないのです。
次は女性の「賛成」の声を。

自分で自分の身を守る。って、言葉で言うより難しいと思う。それができない人もいるし、そうしたことによって反対に恥ずかしい思いをしたり、もっと悔しい思いをすることだってある。
安全な場所へ逃げることは悪いことではないと思う。どうしても必要だと思う人が多いのであれば女性専用車両があってもよいではないか。 【女性・賛成】


私はそれを「『必要ない』とは言えない」という者です。対症療法としてはもっとも有効な手段であることも認めている。でも、「安全な場所へ逃げる」、すなわち専用車両は根本的解決にはまったくなっていないのだということは理解しておくべきだと強く思います。
「黙って触られてなんかいるものか」の意思をアピールするというのは、なにも相手の腕をねじあげろということではないのです。駅員に「何時何分の電車の何号車に痴漢がいました」と通報することもできませんか?
恥ずかしいのはわかります。でも、本当にそれだけ?そこに「もういいや」と看過しようとする気持ちは働いていない?「面倒くさい」という気持ちはこれっぽっちもないと言える?

痴漢をなくすには、常習犯の顔をポスターにして各駅に張っちゃうのが一番だと思います。
旦那に言ったら人権問題で無理だろうといわれたけど、痴漢なんてそもそも人権無視した行為なんだから、それくらいしてもいいと思う。程度の軽いレイプだと私は思っているし。 【女性・その他】


「程度の軽いレイプ」に同感。
前編・後編を通して私が言いたかったのはひとつ。いくら罰則を強化したり車内に監視カメラを取り付けたところで、「それは犯罪。許してはならないものなのだ」という気持ちを女性自身が持たなければ痴漢なんてぜったいになくならないよ、ということです。
根本的解決といえば、「反対」の半数が「それでは問題解決にならないから」を理由に挙げていました。これは「賛成」の中にも見られました。

女性車両を作る前に、痴漢をどうやったら減らせるか(あるいは退治出来るか)を考えるのが先では?本末転倒な気がします。 【男性・反対】

1. 不要な分別。むしろ差別を感じる。絶対反対。
2. 痴漢がいやだから分別とは短絡的。
3. 根源の解決になっていない。
4. 個人的には、女性の香害(香水のにおい)がひどそうで乗る気がおきないという事もあり。 【女性・反対】

よりよい方策が見つかるまでの過渡的方策と割り切って、真剣にもっと良い方法を模索するならば、女性専用車両には賛成。
但し現状の「臭いものには蓋」的な女性専用車両は男女の感情的な亀裂、即ち逆差別を産むだけであると思います。 【男性・賛成】


女性の中にも「専用車両は差別」とおっしゃる方が何人かおられました。男性からそう言われることは予測していましたが、女性にその認識はなさそうだなと思っていたので発見でした。
私は女性専用車両を「現状ではやむを得ない」と思っている者のひとりですが、その運行の仕方には見直しの余地があると感じています。たとえば、阪急電車のような専用車両の終日運行。痴漢対策なら、昼間のガラ空きの時間帯や休日にまで設置する理由はないはずでは。これでは「不公平。ただの女性優遇処置だ」と言われるのも無理はないな、と。

栄えある第一号の京王ユーザーでしたが、ラッシュがひどくなりました。一度車外に押し出されたらその電車に再び乗ることができなくなるくらいに。女性専用車はすいているのですが……。 【男性・その他】


女性からも「一般車両が混んでいるので申し訳ない気持ちになる」といった声をいただきました。
では、たとえばこういうのはどうでしょう。カップルや女性を含むグループ、家族連れは女性専用車両にも乗車できるようにする。そういった人が痴漢を働くとは思えませんから、これなら痴漢防止の目的を果たしながら、多少なりとも一般車両の混雑を緩和できるのではないでしょうか。
また、通り抜けができない男性の乗客のために車両の設置位置の見直しが必要な鉄道もありそうです。



有意義なアンケートになり、喜んでいます。
ふつうに生活していたら、ひとつのテーマについてこれほどさまざまな人から意見を聞ける機会はまずないですから。
「日本の通勤ラッシュを知らない外国人と感覚が違うのはむしろ当然」には一理あると頷いたし、高校時代は何度も被害に遭ったとおっしゃる男性の話に「女の痴漢もやっぱりいるのか」と驚いたり、痴漢に遭いやすいタイプの恋人を持つ男性の苦悩に言葉を失ったりもしました。
どれもこれも個人的にお返事をしたいと思わせてくれるものばかり。本当にありがとうございました。
こんなことでもなければ、「女性専用車両は女性が全面的に支持していて、男性は不愉快に思っている」という図式を内蔵したまま生きていくことになっていたでしょうね(それでもべつに問題はないわけですが)。これからもちょくちょく自分の中の固定観念を破壊するためのこうした試みをしたいと思っていますので、またよろしくお願いします。
とんでもなく長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとう。

【あとがき】
本文では触れませんでしたが、アンケートの中の「専用車両を利用しているか」の質問に、「している」もしくは「したいと思っている」と答えた女性は4割でした。おもしろいことに、「賛成だから利用している」「反対だから利用しない」というわけではありませんでした。
え、私?私はラッシュ時に電車に乗ることがないのでわざわざ乗ったことはないのですけど、もしそういう時間帯に乗るとしても私は改札口に一番近い車両を選びます。
おまけの話。実家の近くで地下鉄に乗っていたときのこと。たまたま女性専用車両に座っていたのですが、ふと見るとシルバーシートにおじいちゃんの姿。ご本人はまったく気がついていない様子。とはいえ、昼下がりの車内はがらがらに空いており、ましてや八十は過ぎているであろう好々爺。乗り込むなり一瞬「おや?」という顔をする乗客は何人かいたけれど、それ以上気に留める乗客はいませんでした。
とそこへ、通りかかった若い車掌さん。彼もステッキを持ったおじいちゃんをわざわざ車両移動させるのは気の毒だと思ったに違いありません。でも他の乗客の手前、見て見ぬふりをするわけにはいかず、おずおずと老人に声をかけました。
「申し訳ありません。ここは女性専用車両となっておりまして……」
すると、近くに座っていた中年の女性が大きな声でひとこと。
「ええやないの、空いてるんやし」
そして、おじいちゃんに向かって「大丈夫!なんかあったら、私が証人になったげるから!」と自信満々の笑み。
車内の注目が集まっていることに気づき、はずかしそうだったおじいちゃんは、そこから三つ目の駅でゆっくりと降りて行きました。
後ろ姿を見送りながら、私はこの話を『読むクスリ』の上前淳一郎さんに教えたくなりました。