せらび c'est la vie |目次|昨日|翌日|
みぃ
自らの愚かさを反省する今日この頃。 先日例の腐れ縁オトコに関してあれやこれやと贔屓目に見た大人の決断をした積りだったのだが、前言撤回。全て撤回。 恥を晒す様で全く不甲斐無いのだが、しかしワタシの精神衛生の為に、これは書かなければならない。ワタシの中で始末を付ける為に、どうしても書かなければならない。 この街へやって来て以来のワタシの人生は、その大半を彼によって振り回されたと言っても良いくらい、ワタシは散々無駄足踏みを踏み、訳も分からず彼を「待って」いた。そうして挙句の果てに、貴重な人生のうちの何年も棒に振ってしまった。愚かな女である。 元々ワタシと彼は同期の同僚であった。 それが同僚の枠を超えて友人となり、あらゆる種類の会話を楽しみ、心置きなく腹を割って話を出来る数少ない友人として、またワタシの言わんとするところを以心伝心とばかり即座に察知する彼をまるで「ソウルメイト」というやつなのではないかしらと思う程、ワタシたちは大変親しかった。 そのうち彼の大学時代の友人らの集まりにも度々呼ばれて、だからその仲間たちはワタシを「彼の好きな人に違いない」と大事に扱ってくれたりしたのだが、その初期の頃の友情をワタシは今でも懐かしく思い、そしてそれが奪われてしまったのを心の底から残念に思う。誠に遺憾である。 そういう周りの扱いを見ながら、ワタシは何やら不思議に思っていたものである。この人々はまるでワタシを彼の「ガアルフレンド」かのように扱うのは何故だろうと。 古くからの友人らには、彼のワタシに対する態度やまたワタシのいないところでの話し振りなどから、彼の恋愛感情は明らかだったのだろう。 ワタシはそういうのに疎い性質なので、そういう周りの反応や、また彼のワタシを時折じっと見詰める視線だの、ワタシに会ったときのまるで仔犬が飼い主を見つけて尻尾を振って喜んでいるような様子だのを見るにつれ、漸くこの人はワタシに友人以上の好意を持っているのだろうかと気付いた次第である。 そのうち彼は、まるで一歩関係を進めたいかのような行動(と一応間接的な表現を使っておく)を取り始めたので、ワタシも彼の事は同僚というより親しい友人であり、友情から恋愛に発展するというパターンを好むワタシの性質もあり、それはもう喜んでという様な具合で、進展を見たかのように見えた。 ところが、ひとたび親密な関係になると、彼はそれまでとは打って変わって、そっけなくなってしまうのである。 釣った魚に餌はやらない、という痛い表現が思い浮かぶ。 暫くして、ワタシは問い質す。 すると彼は、ワタシと出会う前に終えたばかりの十年越しの付き合いの痛手がまだ深く、女性との親密・真剣な付き合いというのに対する心の準備が出来ていないと言う。 確かに彼は、相当早かったし、また驚く程テクニックも無かった。 (こんな事を暴露するのはルール違反なのは百も承知だが、如何せんこれはワタシ個人の日記サイトで、ワタシの言いたい事を好きに言う場なので、致し方無い。) ええ、そうとも、はっきり言っちまいましょう。彼は大変な早漏でしたよ。全く自分勝手なセックスをする男でした。 心理的な問題が相当根深いと見え、ワタシは余り傷口に塩を塗りこむような真似はせずに置こうと思う訳だが、しかし彼は以前程頻繁に連絡も取らなくなり、ワタシをすっかり疑心暗鬼にさせた。 貴方にとってワタシという人間は一体どういう存在なのか。 彼はワタシを好きという気持ちは大変深いし、とても惹かれている、といつも言う。 しかしそこまでである。コミットメントによって前回の例のように自分を見失うのを恐れているのだと言う。 当時の彼は、人生の最も大きな試練のひとつと思われる山場を迎えていたので、それを遣り遂げるまでは、自分には恋愛など考えられないと言っていた。 その頑固な考え方は、自分のある目的の為にそれ以外の全ては「ホールド」状態に置かれなければならない、とするものである。 ではワタシに触れてくれるな、とワタシは言う。友人のままでいるのが互いの為に一番ではないか。今なら未だ間に合う。 しかし彼は自身の(下半身の)都合の為か、または心理的に混乱しているのか、ワタシの傍にいたいと言う。 そうこうしているうち彼の人生の一山は終わったが、しかし彼は依然としてはっきりしなかった。 ワタシたちの関係はそうしてくっ付いたり離れたりというのを何度も繰り返しながら、何年も続いてしまった。 情けない事だが、ワタシはこの男と親密に関わるようになると、途端に依存的な弱い人間と化してしまう。 普段は強く逞しく前向きな人間なのに、この男に惑わされている間には仕事も手に付かずあれやこれやと考えを廻らせ、みるみる業績を落とし、また勿体無い事に、折角言い寄って来る他の男らにも心を開かず、それどころかまるで息をするのがやっとというような大いなる鬱状態を何年も経験し、濃密な心理相談のお世話にもなり、もう少しで自らを自らの手で〆てしまうところであった。 そしてリカバリーの途にあるワタシを、また魔の手が襲う。 その繰り返しであった。 此処数週間の間、またしてもそのパターン化した状況が訪れていた。 尤も今回は、彼は「女の扱いを心得ていない」というワタシの認識に反して、実は今年の初め頃、ワタシたちが何度目かの口を利かない関係になっている間に、偶々友人を介して知り合ったとある「便利な女性」が、この街を出るまでに沢山の男性と肉体関係を持ちたいというのに魅力を感じて、彼女が引っ越すまでの数週間付き合った、という驚くべき新事実が判明してワタシを一寸動揺させた。 しかし基本的な彼の主張は変わらず、彼の前にはいつ何時にも「人生の大きな山場」が幾つも転がっており、だから彼は自分の仕事や人生を軌道に乗せる事で忙しく、ワタシの為に時間を割く余裕が無いどころか、恐らくその意思も無い、という点に付いては、此処数年来全く変わっていなかった。 では、ワタシが他の男性とお付き合いをしようとも、貴方には関係の無い事だから、当然了解する訳ですね、と言うと、それは出来れば聞きたくない話だが、しかし自分は君を縛る事は出来ないのだから、致し方無い、と思わせ振りな事を言う。 では、その「便利な女性」が他に沢山の男と寝ていても、貴方には全く問題無い訳ですよね、と言うと、それは出来れば聞きたくない話だが、しかし自分は彼女を縛る事は出来ないのだから、致し方無い、と繰り返す。 なんだ、じゃあそのあばずれ女もワタシも、一緒くたじゃないの!? そんな失礼な話ってある? すると彼は、でも自分は君と結婚するとかいうような長期的コミットメントに関して約束した覚えは無いし、誰ともそんな事は出来ない、と所謂「コミットメント・フォビア」というこの街の独身男性にありがちな事を言う。 しかしお言葉ながら、ワタシも特に結婚相手を探しているとか、今すぐ長期的なコミットメントをくれというような事は、彼に一度も言った覚えは無いし、また誰にもそんな事を期待してはいない。 何しろとりあえずは付き合ってみなければ、そいつと長期的結婚その他の関係が成り立ちそうかなんて、分かりっこないじゃないの。 寧ろ極「カジュアルな恋愛関係(と言うとこの国では肉体関係を含む事が多いのだが、要するにそれ程真剣でない単に「付き合ってる」状態の事である)」を当初ワタシは求めていた訳である。 というか、そもそもワタシにはその気は無くて、彼の方がアプローチを始めさえしなければ、ワタシたちは今でも良い友人同士でいられたかも知れないのに。 何しろ兎に角、そのあばずれ女とワタシとは恐らく大差無い程度の心の入れ込みようだった筈なのに、何故貴方は彼女との関係にはそれを見出しておきながらワタシとの関係にはそれを見出さず、却って甚だしく真剣に捉えて勝手にビビっているのは、一体どういう訳なのか。ワタシには、貴方のやっている事が全く理解出来ない。 そもそもコミュニケーションを絶ってしまっては、理解の仕様も無いのに、それでどうやって友人関係を維持しろというのか。ワタシはサイキックではないのだから、言ってくれなくては貴方の心は読めない。一体何がしたいのだお前はこの馬鹿たれ。はっきりしやがれ。 というような長い口論の後、彼は再び、ワタシの事は大変好きだと深く深く思っているし親密な関係でもいたいし、また同僚として事情が理解し合える貴重な存在でもあり、そういうワタシとの付き合いは続けて行きたい、と言った。そして自分のコミュニケーション不足についても充分問題意識を持っているので、今後は精一杯努力してもっと頻繁にメールを送るようにするし、君の為にもっと良い友人となるよう努力する、などと言った。 そこでね、ほら、電話でも良い訳なんだけど、でも自分は口が上手くないから書く方が気が楽だとかなんとか言っちゃって、ああそうですか、もう何でもいいわじゃあ、となる訳なんだわ。 彼のアパートでその夜を過ごして、恐らく他の女で練習を積んだ成果であろう彼の改善された行いを見ながら複雑な心境になりつつ、翌日は外へ出てコーヒーなど飲みながらあれやこれやの話をする。 ワタシはあともう一時間潰さなければならないのだけれど、貴方はどうしてももう行かなくちゃならないの? 彼は仕上げなければならない仕事が山積みで(それは確かにそうなのだけれど)、週末のうちのたったもう一時間すらも惜しいようで、結局そのままワタシたちは別れた。 それから二三日もしてから、メールが来る。 その頃にはワタシはすっかり落胆して、もうコイツとは本当にこれまでだと匙を投げていたのだが、よくよく読んでみると、どうやら体調を崩していたらしい。 確かに週末ワタシがいた間にも調子が悪そうだったので、それは間違いないだろうとは思う。 しかし、彼は確かに言葉通り努力はしているのだろうけれども、それはワタシには足りないのである。 だって、ワタシの他の「友人」たちは、もっとワタシを大事にするのだから。 彼はワタシの友人では、もう既に無い。 ワタシの知らないところで他の女と遊んでいようとも、それが必ずしも肉体的な関係で無く精神的と言うか只の茶飲み友達だったとしても、しかしその時間すらをワタシに割かない男を、待っている馬鹿は無いだろう。 ワタシはワタシの人生を、先へ進めなければならない。
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