振り返る10
2019年3月から4月。
妹は携帯電話を使っていた。
妹の電話番号を知ってたのは、父と息子だけだった。
ケータイはロックがかかっていて、開けられなかった。
妹が誰と親しかったかわからない。
父は家族以外誰にも妹の死を知らせたがらなかった。

最初は父と継母ちゃんの2人。
私に連絡して、私の夫が知り、私が息子に電話して5人。
息子が父親に話して6人、そして元姑が知り、7人。
元姑がたまたま道で会った私の叔母にお悔やみを言い8人。

秘密は秘密のままにできないものだ。

妹と関係の薄い人には広がっていく。
だけど、彼女の友人や知人には知らせようがなかった。
ケータイの連絡先以外に、手書きのメモも手帳もなかった。

実家にはインターネット回線がない。
継母ちゃんはスマホを使うが、小さい画面でゆっくりしか入力できないから
何かを調べたくてもすぐに調べられない。
私はケータイとスマホの2台持ちだったけど、制限ありのプランだし
スマホ嫌いで入力は継母ちゃんの10倍遅かった。

クレカの退会は自動音声案内のみで、10回挑戦した。
パスワードがわからない。

妹が救急車で運ばれた遠くの病院から治療費の請求が来た。
治療費って、死亡確認しただけを治療費と呼ぶのかと。
そして、ファックスで返事を送れと書いてあった。
ファックスなんかない。
いまどき、ファックスを持ってる家庭は少ないんじゃないの?
保険証をコピーして添付しろと言われても、パソコンもプリンターもない。
保険証を探し出し、継母ちゃんとコンビニに行った。
コンビニのプリンターの前で少々悩む。
継母ちゃんはドキドキしながら見ていた。

クレカを使っているかどうか調べるのに、明細を探し出し、引き落とし日を確認し
銀行残高を調べようとして、継母ちゃんとコンビニに行った。
暗証番号がわからない。
3回失敗するとアウト?
ドキドキしながら、2人ともこそこそヒソヒソ不審者丸出しだった。

遺族3人が思いつく限り頭をフル回転させたが埒が開かず
いや、父は茫然自失で、継母ちゃんは疲れ果てていて
ネットを使えない苛立ちと妹に対する怒りで、私はできる限り
書類を整理し、自動音声と戦い惨敗した。

ケータイ電話は解約できた。
継母ちゃんと2人でdocomoに行った。
中のデータや連絡先はそのまま手付かずで
妹のケータイは、ショップの人によって機械に押しつぶされた。
ケータイが使用不可能になっていく様を二人でぼーっと眺めた。









2021年06月10日(木)

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