振り返る8
2019年3月、妹は自殺した。

妹の部屋の片付けは何日もかかった。
父は早く部屋を空にして2度と来なくて済むようになりたいと
頑張ったが、結局最後は業者に頼んだ。

胃がんの手術、心臓の手術、白内障の手術と
80歳を超えた父は、何度も入院した。
妹の生活費を捻出するため、退院するとすぐに職場に戻った。

父は職場で死にたいと言っていた。
開業して50年以上、人生の大半をそこで過ごした。
妹がいなくなり、仕事をする張り合いがなくなり、父はついに
廃業届を出した。

飛び降り自殺した部屋は事故物件だ。
なのに管理会社もオーナーも何も言ってこなかった。
部屋で死んだわけじゃないが事故物件には違いない。
飛び降りて亡くなった場所は、マンション前の歩道だ。
誰も歩いてなくてよかった。
妹のせいで、歩行者に怪我を負わせなくてよかった。

私たちは毎日、その現場の上を歩いてマンションに
入らなければならなかった。
父は自分のせいで妹を亡くしたと責めながら、その上を
歩かねばならなかった。






2021年06月09日(水)

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