ケイケイの映画日記
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2012年08月23日(木) 「かぞくのくに」




「ディア・ピョンヤン」が好評だったヤン・ヨンヒ監督の、ドキュメント以外では初の劇場映画。監督自身朝鮮学校・朝鮮大学出身で、母校で教鞭をとっていた時もあり、朝鮮総連幹部の父を持ち、兄たちも北朝鮮で暮らしていることを思えば、命懸けで作った作品だと思います。自らの出自をモチーフにした力作であることは確かですが、映画の出来が良いかと言えば、イマイチ薄味です。感動したとの声が多く聞かれ、韓国系在日である私も嬉しくは思うのですが、その感動は映画と同じく、表層的なものの気がするのです。

1997年東京。25年前北朝鮮への帰国事業で、一人16歳の時日本から旅立ったソンホ(井浦新)。脳腫瘍の治療のため、25年ぶりに日本の地を踏むことができました。父(津嘉山正種)母(宮崎美子)を始め、日本で自由を謳歌している妹のリエ(安藤サクラ)は、温かくソンホを迎えます。期間は三ヶ月。ソンホには監視役として、ヤン(ヤン・イクチュン)が同行しています。医師に見せたところ、三ヶ月では治療は済まないと言われ、父は滞在の延長を願い出ますが・・・。

在日朝鮮人を題材に使い監督も北朝鮮系在日ですが、全くの日本映画です。今回はそれが裏目に出た気が。出演者の演技はとても自然で、これは監督があれこれ注文をつけずに、俳優たちに任せたのかと思いました。演技的には、何も問題ありませんでした。しかし、同窓生や叔父(諏訪太郎)に至るまで、誰一人在日に見えません。実は俳優の一人が在日かな?と思っていたのですが、この人も全然見えません。これは痛恨でした。在日が舞台の作品は、「夜を賭けて」や「パッチギ!」など数々ありますが、樹木希林やキムラ緑子など、絶品の在日ぶりだった事を思えば、物足らなさが残ります。

これは俳優が悪いのではなく、演出のせいでしょう。最初から最後まで、映画は粛々と静寂に包まれます。これが私にはバリバリに違和感が。良くも悪くも在日は楽天的でバイタリティがあり、喧騒に包まれた日常を送っている人が多いです。これは南北共通。あれでは日常がまるでお通夜+αくらいの様子です。ソンホが監視付きだからと言うなら尚、その前後に賑やかな日常を描かないと、その静寂の意味が掴めません。

家族の前でヤンが一人煙草を吸っていましたが、ソンホの父や叔父を前に、若輩者が煙草を吸うなど、韓国人社会では御法度です。北朝鮮はもっと厳しいはず。これははっきり本国>在日の階級を表していたはずですが、セリフにないので、日本の人にはわからないはず。コーヒーに砂糖三杯も同じ。向こうのコーヒーはまずいので、こちらでも砂糖をたくさん入れると言う意味かな?と思いましたが、これは不確かです。

在日朝鮮人の25年ぶりの帰国と言う、映画的には美味しい設定なのですが、親なら妹ならと言う普通の家庭愛以上の描写が少ないです。せっかくの設定が勿体ない。北朝鮮の恐怖政治や特異性は、残念ながらマスコミが報道する以上の、目新しい事実は描写されませんでした。なのでソンホがリエに、おずおず工作員を頼む様子、「あなた(ヤン)も国も大嫌い!」と、監督が命懸けで描写した場面も、普通の感慨で胸を掻き毟るような慟哭はありません。特に「大嫌い!」と言えるまで、監督は40年かかったとか。その時間の重さが、あの場面からは希薄なのです。

私が期待したのは、日本に住む北朝鮮系の人は、これだけ本国の実態がわかっているのに、何故いつまでも属しているのか?です。父は幹部としてのメンツもあり、息子を送り出したのでしょう。その悔恨は感じますが、それ=答えではありません。本国への不信感も感じる描写が多々有っただけに残念です。

私が一番心を動かされたのは、ソンホの歌う「白いブランコ」でした。これは彼の思い出の曲です。北であれ南であれ、在日の故郷は日本なのだと、今更ながらに痛感しました。しかし両方の国は、私たちの存在など眼中にはありません。北はお金を送ってくれるだけの存在だろうし、韓国は今回の大統領の竹島訪問などが良い例です。国交が危うくなれば、例え永住権があるにしろ、私たちの暮らしにも影響が出てくるはず。そんな事はお構いなしなのです。そういう脆さを支えてきたのが、自分たちのルーツです。近くて遠い存在の北朝鮮系の在日を、とても身近に感じた一瞬でした。

苦言をいっぱい書きましたが、力作であるのは間違いありません。制約の多い中、監督にはこれが精一杯だったのかも知れません。この作品でひとつの壁を破ったと思うので、今後の更なる躍進を期待しています。頑張って!


2012年08月21日(火) 「アベンジャーズ」(3D字幕)




面白いと言うより、楽しい作品。日本で言うなら、ウルトラマンに仮面ライダーに戦隊モノが大集合!みたいな感じでしょうか?それを豪華キャストでお金をかけて作っています。中身は当然(?)スカスカなのもお約束通り。お祭り映画と思えばまずまずですが、これでキャッチコピーの「日本よ、これが映画だ」は片腹痛いわと思います。監督はジョス・ウェドン。

国際平和維持組織シールドで研究中だった四次元キューブが、邪悪な神ロキ(トム・ヒドルストン)に奪われ、長官であるフューリー(サミュエル・L・ジャクソン)は、地球最大の危機を救うため、アイアンマン(ロバート・ダウニー・JR)、キャプテン・アメリカ(クリス・エバンス)、ハルク(マーク・ラファロ)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)、そしてロキの兄ソー(クリス・ヘムズワース)を集結させ、彼らに「アベンジャーズ計画」の協力を求めるのでした。

えーと、観てから一週間近く経つと、書く事が思いつかないと言う、誠に正しい大味な大作。多分ね、マーベルのアメコミ大好きな人とか、アメリカ人が見ると、相当面白いんだよ。でも私はこの中で映画で観たのは、アイアンマンだけ。ハルクは高校生だったっけ?テレビドラマで観てます。なので、他のキャラにはあんまり愛着ないんだなぁ。でも見ていない人にも、それぞれのキャラがわかるように、前半割としっかり描いてくれるので、何がなんだか・・・と言うのはありません。これはポイント高し。各々時間を割いて、全てのキャラに見せ場を作ったのも正解だったと思います。

アクション場面はお金かけてしっかり作っているので、それも見応えはありました。桁ハズレのパワーを持つ者同士が、「自分が大将」とばかり、いがみ合ってテンでバラバラだったのが、地球に危機に集結するのもお約束。そこで2トップで指揮をするのが、アイアンマンとキャプテン・アメリカ。まっ、このメンツならそうだわな。私にはアメリカ=地球に描いているように思えて仕方ないんだけど、私だけなか?それとロキ一人(いや一神?)にあんなに手こずるのも、よーわからん。

力量に格差あるのに、本当の超人と優秀なスパイとの差があんまり感じられず、同じ土俵で戦っているのも、ちと謎でした。それとユーモアパートがアイアンマンと言うか、ロバートの「中年のゴージャスな男の子」にだけ頼っているのも、物足りません。もうちょっと笑いが起こる脚本には、如何様にも出来たと思います。中身がなくても、小ネタでもっと笑いがあって、この壮大なアクションを見せられたら、もっと満足できた事でしょう。結論としては「悪くはないけど、長すぎてちょっと退屈」でした。日本のウルトラマンや仮面ライダー好きが撮ったなら、もっと深く掘り下げた作品が観られるような気がします。


2012年08月15日(水) 「桐島、部活やめるってよ」




男女共学の高校の数日を描いた群像劇。いや面白かったです。ほんの端役のキャラまで活き活き描いて、今も昔も、悩める子は悩み、空っぽの子はそれなりにと、私の高校時代と大差ないんだなと、懐かしく思い出しました。私は中学から短大まで女子校だったので、それがとっても残念に思えた作品。監督は吉田大八。

とある高校の金曜日の放課後。いつものように宏樹(東出昌広)は、友人の帰宅部生徒、竜汰と知弘と共に親友の桐島を待っていました。桐島はイケメンで成績優秀、バレーボール部のキャプテン。その桐島が部活を辞めると言う噂が広がります。宏樹たちや、彼女で校内一の美女梨沙(山本美月)にも知らされていなく、梨沙のグループの女子、紗奈(松岡茉優)実果(清水くるみ)かすみ(橋本愛)たちにも衝撃を与えます。一方彼らとは関係ない映画部部長の前田(神木龍之介)や、宏樹に片思いしている吹奏楽部部長の沢島(大後寿々花)たちにも、波紋を広げていきます。

金曜日から始まり数日間が、各々の視線から描かれます。だから客観的ではなく、全部主観。華やかな子や地味な子ちゃらい子、みんな自分の青春の主役は、自分だもんね。でもそれは私の青春が過ぎ去りし日々であるからわかるのであって、イケメンでも美女でもなく、体育会系部活でもない善良な子達が、控えめな日常を送っている姿が切ないです。

上記以外にもたくさん生徒が出てきますが、これが少しの登場時間で、見事にこの子が何を感じて何を悩んで何を迷っているか、ちゃんと描けている。みんなみんな普通の生徒です。これが一番感心しました。一言に青春と言っても、爽やかさ瑞々しさだけじゃない。計算高さやドロドロした女心まで、全部を「若々しく」描けているところも、本当に感心します。

私は女子校だったので、梨沙たち四人組の気持ちがすごくわかりました。一年生の時からの仲良しグループだったのでしょうね。それが二年生になってクラスも変わり、梨沙&紗奈と実果&かすみに、微妙に離れています。この頃の一年間って、女の子には大きいもの。実果はバトミントンで伸び悩み、男とお洒落以外は眼中になさそうな梨沙&紗奈を見下しながら、コンプレックスも感じています。真面目に人生を考えていそうな子です。私は出てきた子の中で、この子が一番好きです。その実果に心の拠り所にされながら、全部を彼女に打ち明けないかすみ。落ち着いた美少女ながら、得たいの知れなさ加減が、女の怖さを感じます。梨沙と紗奈は似ているようで違います。

梨沙はプライド高く自分の美しさを充分理解しているし、立場も知っている。でも独りじゃ「勝ち組」としてまずいので、他の子と一緒にいるのでしょう。女のいやらしさの権化のような子が紗奈。女王様の梨沙の親友、イケメンの宏樹の彼女と言うのは、彼女の見栄をマックス満足させるものなのでしょうね。大事な人を選ぶ基準が見栄なのです。だから親友に見えないし(梨沙も思ってない)し、宏樹もキスしようが腕組んで歩こうが、一向に彼氏に見えない。紗奈もはしゃいでいますが、宏樹が好きなんじゃなくて、宏樹の彼女、梨沙の親友の自分が好きなんでしょうね。こういう子は、若い娘にはいっぱいいると思うぞ。

だから観客は健気な沢島さんに感情移入するのでしょう。紗奈ちゃんは逆引き立てかな?でも監督は残酷なのよね。チラッと沢島さんを見るだけで、一度も宏樹は彼女と話しません。席が前と後ろなのに。なので宏樹が窓の外を観ていると、沢島さんも窓に目を映すシーンが、後々になっても心に残るのでしょう。

前田君のキャラは、小説ではキネ旬を愛読し、岩井俊二のファンなのだとか。それが映画では映画秘宝を愛読し、ロメロのファンで大のゾンビ好きに変更になっています。これは大当りです。映画なんだから、絶対こっちでしょう!彼が出てくる度に、何を言ってくれるのか、ニヤニヤワクワクしました。屋上での、おずおずとした「謝れ」にも、いつもいつも下手に出ていた彼だったので、よく言った!と胸がすく思いでした。あれが言えるか言えないか、大げさに言えば前田君の人生を左右する出来事だったと思います。一大スペクタクルの屋上のゾンビシーンも、オタクの想像力の逞しさに、すんごくカタルシスを覚えました。

ラストの宏樹の涙には意表を突かれました。思えば彼は野球部を休部中、帰宅部のちゃらい連中とつるむも、最初から最後まで軽薄感のない子でした。野球バカのキャプテン(高橋周平)の存在も大きいのかも。「キャプテン、今度は・・・」と言いかけた時、今度の試合は出ますと、宏樹は言いたかったのだと思います。しかし純粋で鈍感、そして度量も大きいだろうキャプテンは、「応援でもいいから来いよ」と笑顔を向けます。宏樹が成りたかったのは、もしかしたらキャプテンじゃなかったのかなぁ。イケメンで優秀でスポーツ万能。だけど桐島を越えられない自分。何も考えず一心に野球に打ち込めるキャプテンが、眩しかったのかと思いました。

若い時は傷つき悩み葛藤すればいいんですよ。その先には、必ず喜びも楽しさもあります。人生は思い通りに行かないから面白い。私が息子たちにそう言えるのは、年を取った証拠です。でも私は言わずにはいられない。人生はね、思い通りに行かないから面白いのよ。思い通りの人生なんて、ちっとも楽しくないよと。登場した全ての子達に贈りたいです。


2012年08月12日(日) 「トガニ 幼き瞳の告発」

打ちのめされました。目を覆いたくなる内容は、現実に起こった実話です。韓国の人気作家コン・ジヨン(女性)が、偶然新聞で見つけた小さな記事。内容がよくわからず、彼女が調べ始めた事がきっかけで、このおぞましい事件は小説となり、こうして映画化されます。映画を観た国民たちは、腐敗した警察や教育者を糾弾します。この作品がきっかけで再び警察は捜査を再会し、ほとんど「お咎めなし」の状態だった容疑者たちや学校に罪を償わせ、廃校にまで追い込んだそうです。作品としての完成度は決して高くないと思います。しかし社会を動かした、その力強さの前には、そんな事はどうでも良くなりました。監督はファン・ドンヒョク。

韓国の片田舎ムジン。イノ(コン・ユ)は、そこにある聴覚障害者の学校の美術教師として、赴任します。妻は亡くなり、幼い娘は母と共にソウルの残しています。学校には不穏な空気が流れ、子供らしい溌溂さの欠ける子供たちに疑問を感じるイノ。その上双子の校長や行政室長は、公然と教職に付くための賄賂を要求します。ある日自分の生徒ヨンドゥ(キム・ヒョンス)が、寮の寮長にすさまじい暴行を受けているのを助け、ムジンで知り合った人権センターに勤めるユジン(チャン・ユミ)に連絡を取ります。ヨンドゥと話したユジンは、男女数人の生徒が、校長を含む教職員から性的暴行を受けていると、イノに連絡してきます。

「闇の子供たち」を見た時と同じ憤りを感じました。教師たちの毒牙にかかった子達は、自身も聴覚障害者なら、親も知的障害や精神障害を負っていたり、孤児である子です。底辺の弱者と言う共通項があります。そういう子を選んでいるのです。私は成人した大人がどんな変態的な性癖を持っていようが、犯罪でなければ個人の自由だと思っていますが、小児性愛だけは断じて許せません。目の前に描かれる「現実」は本当に居た堪れません。作り手がこの子たちが感じた恐ろしさや辛さ、それを観客に体感して欲しい、その思いがこれらのシーンを生んだように思います。

イノは長く失職しており、この職場も恩師の紹介でやっと入職出来た職場です。大黒柱として働かなくてはならない身。告発すれば学校には居られません。見て見ぬふりを決め込む「大人の倫理」と、本来の彼が持つ正義感との葛藤も描かれ、私なら?と観客の自問自答を促しています。

作品は、はっきりイノの行動を支持します。一見口喧しいイノの母の存在で、それを表します。ズケズケ息子に物を言うこの母は、夭折した嫁が息子に尽くしてくれた事を今でも感謝し、校長に渡す賄賂のため、家まで売ります。教え子の窮地に奔走する息子に、「賄賂を要求する校長が良い人だと思うはずがない。しかし世の中とはそういうもの。お前が一番に考えるのは、教え子ではなく自分の子供だ」と言います。全くその通り。しかしそれは「賢い」生き方ではあるけれど、「正しい」生き方ではないのです。

どちらを選択するか?裁判で命懸けで証言する子を見て、「世の中には悪い大人もいるものだ」とだけ言い、子供たちにお菓子を渡す母。あれは私たち観客なのでしょう。息子を理解し支えると決めたのです。賢い生き方を選択すれば、安定した道は開かれるでしょうが、いつもいつも後暗い心を引きずるはず。何故なら人としての尊厳が失われたままだからです。

公開された韓国映画を観ていると、残念ながら、まだまだ権力者の圧力が蔓延り、富める者貧しき者の格差は歴然です。この作品でも即物的に金銭を受け取る被害者の親族が出てきます。無念ですが、その気持ちはわかるのです。警察や司法、財力者の腐敗は、日本よりずっと大きく、そしてそれを社会はまだ容認しているのでしょう。

ですが、韓国の映像作家たちは、国だけではなく自国民の民度の低さも許していません。他の作品からもそう感じるのです。主演のコン・ユは、この作品の原作を兵役の時の昇進時、上司からプレゼントしてもらい、映画化を熱望したのだとか。国民の義務ではありますが、入りたくもない軍隊に入り、彼は自分に取って国家とは?国家にとっての自分とは?との思いを抱いたはずです。国を愛するからこその、映画化への熱望だったのだと思います。「絵ばかり描いている」(母親談)イノは、現実を見ず青臭い理想に走っていたはずです。その理想を具現化して真の大人になるのか?彼は試されているのです。この学校は彼を待っていたのでしょう。コン・ユが兵役中に原作と巡り会ったのも同じ。俳優としての社会的意義を果たすべき、とコン・ユも捉えたのでしょう。

子供たちの熱演には目を見張りました。監督は子供たちのトラウマにならないように細心の注意を払ったそうですが、正直心配になるほど。この作品に出演した事を、誇りに思って欲しいです。

前半、容疑者たちが逮捕されるまではスピーディな展開で良かったですが、逮捕された後の学園は混乱したはず。その様子は描かれていません。そして告発したのは三人の生徒だけですが、その他の生徒の聴き取りの様子もないし、過去を遡っての調査の様子もありません。証言台に立つのは守衛だけで、イノの同僚教師たちにはなし。その他も説明不足ではないのですが、描き足りない部分が感じられたのが、少々残念でした。これがあれば、掛け値なしに傑作だったと思います。

しかし観るべき志の高い作品であるのは、間違いありません。この映画のラストは、微かな希望を抱かせるものでしたが、その希望は観客の手によって現実となりました。韓国人は民度の低さに甘んじているわけではなさそうです。


2012年08月10日(金) 「ダークナイト・ライジング」


何と8月初めての映画。しかし約10日ぶりの作品はイマイチでした。これ一応カテゴリー:ヒーローもん、ですよね?私はヒーローもんには、荒唐無稽で良いので、明るく陽気なもんを期待しておるわけ。それでも前作の「ダークナイト」はめちゃ楽しんだはずなのに、今作はどうも気持ちが乗らん。取りあえず観ましたが、やっぱり女の勘は当たるのだよ。辛気臭いだけで、退屈でした。監督はクリストファー・ノーラン。

ツゥーフェイス=デントの罪を被り、バットマンがゴッサム・シティから消えて8年。ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)もまた、人々の前から姿を消しています。デント法によって守られていた町に、テロリストのベイン(トム・ハーディ)が表れ、警察の秩序は乱され街は無法地帯と化します。その様子に、ついにブルースはバットマンとして立ち上がります。

冒頭ベインが核兵器のスペシャリストの研究者を奪還します。トラップでわざと捕まるのですが、おもむろにピストルを出すのに「へっ?」。自家用飛行機の中なんですが、まずはボディチェックするだろ?こんな手の込んだ事しなくても、奪還出来そうなんですが、まぁアクションはそれなりに見せるし、まぁいいかと思っていました。しかし以降、これが一番上手く出来たアクションシーンときたもんだ。

心にも体にも傷つき、引きこもりのブルース。叱咤激励する執事のアルフレッド(マイケル・ケイン)。前二作では、忠実な執事ながら愛のこもった説教に、ブルースを思う心が、主従関係以上の真心を感じさせたアルフレッドですが、今回謎の辞職。色々セリフで説明しますが、ブルースをぼっちにする理由なんか、見当たらないのね。

ある出来事のために、ブルースは会社をミランダに一任しますが、会ったのって一回切りだよ?何故そんな簡単に信じられる?苦楽を共にしてきた人たちが、他にいっぱいいるでしょう?ベインは求心力のある男ですが、冷血で怪力な不気味な男に描いているだけなので、手下の死も恐れぬ忠誠ぶりも謎。ゴードン(ゲイリー・オールドマン)の葛藤も薄いです。フォーリー(マシュー・モディーン)の風見鶏ぶりが、ただのバカに見えるのに代表されるように、登場人物の描き方の底が浅すぎ。それはブルースについても言えます。引きこもりから再スタートの一大決心ぶりが、伝わってこない。

それでもアクションシーンが面白ければ、大味な大作だと諦めもつきますが、これが全然。一番盛り上がるはずの、警察VS無法者たちの格闘シーンもバカみたいに人が多いだけで、ほとんど素手の戦いには唖然。こういう時は辻褄が合わんでもいいから、いっぱい武器使って派手にやってくれよ。バットマンVSベインのタイマンも、重量感と言うより動きが重いだけ。ヘビー級の下手くそなボクサーの試合みたいなのです。観ていて面白いのは、素手ならやっぱり「ボーン」シリーズ風のスピーディーな動きだと思いました。アタクシ、ボクシングも軽量級が好きなのよね。

アン・ハサウェイとマリオン・コティヤールと言う美女が二人出ながら、二人共が美しくない。前二作のヒロイン、ケイティ・ホームズやマギー・ギレンホールのような「微妙な美女」とは違い、この二人は正真正銘の美女。それがこの程度の映りなのは、如何なものか?もっと華やかに撮らないと。筋の方も、とにかく結果を見せて、こじつけの後付けで収める展開が続出です。なのでドンデン返し風の影の悪役にも、これはトンデモか?が頭をよぎりました。それと核兵器の扱いが、あれでは駄目でしょう?普通の爆弾とは違うでしょう?

唯一良かったのは、孤児院出身の警官ブレイク(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)の造形。彼も生かしきってはいませんが、「ブルース・ウェインは『億万長者の孤児』として、僕たちの中では神話だった」と言う風な台詞が、この長く暗く辛気臭い作品の中で、とても印象に残りました。嫉妬ではなく、憧れのこもった言葉でした。そこを深淵にもっと描き込んだら良かったのにと思います。

あぁなんかボロクソだわ。ベールが好きなので腹は立っていません。脱力は大きいですが。期待値下げてこれとは残念です。巷では好評みたいなので、アップしたらどこが良かったのか勉強してきます。


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