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2012年04月11日(水) バック・ツー・ベーシックス騒動(その2)

本筋に入る前に、すこし注釈を加えておきます。

ワリー・Pという人は、当時必ずしも評判が良いとは言えませんでした。彼がB2Bという集まりを、AAとは別の団体として動かそうとしており、自分がその創始者の座に納まろうとしている、という批判が寄せられてもいました。彼が本当にそのつもりだったのか分かりません。その後の彼は、B2BをAAから独立させることなく活動し、現在ではB2Bによって回復したAAメンバーは30万人以上に及ぶと主張しています。その数字には多少誇張が含まれているにせよ、北米のAAのなかで大きな影響力を持つ一派となったことは間違いありません。

さて本筋です。

鴨川の集いに反対する人たちの主張は、AA外部の出版物をテキストとしてAAミーティングで使うのは「良くないことだ」という主張でした。

AAには特に「外部の出版物を使っちゃいけない」という合意事項はありません。しかし、AA以外の12ステップグループにはそのような決まりを作っているところもあるとおり、むやみに外部からテキストを持ち込むのは良いことではありません。例えばAAのミーティングに行ってみたら、そこで聖書の勉強会が開かれていたとするなら、新しい人はAAをなんだと思うでしょう。そもそも、12ステップが薄められたという反省から活動しているとすれば、外から何かを持ち込むことは良いこととは思えません。その主張には説得力があります。

ところが、実は鴨川の集いで使われたテキストは、「バック・ツー・ベーシックス」という名ではあるものの、ワリー著のものではなく、マイク&キャシーという夫婦のAAメンバーが書いた別のものでした。あくまでもAAメンバーの書いたものですから、AA外部のものとは言いがたくなります。(実際にはその名の通り、ワリーのB2Bの影響を強く受けたテキストではあるのですが)。

AAメンバーが書いたものであれば「外部のものを持ち込んでいる」とは言えなくなります。

すると今度は、一人のAAメンバーが書いたものが、ちゃんとAAの原理をくみ取っている保証はあるのか? という議論に移りました。

ここで話はわき道に逸れます。

AAには評議会承認出版物というものがあります。例えばビッグブックは承認出版物です。これはその本が、AAの原理(12ステップや伝統)を正しく反映していることを、評議会が保証しているということです。

この一連の雑記の冒頭に述べたように、AAの12のステップは個人がどのように解釈しようと自由です。その解釈が「正しい」とか「間違っている」ことを判定する機関はAAにはありません。だから、ある人が12ステップにまつわる文章を書いたとしても、それは個人の解釈に過ぎず、AAの原理に合致しているという保証は与えようもありません。(この雑記だってそうですよ)。

しかしそれでは困ったことが一つあります。というのも、AAの創始者はすでに故人ですから、新しい本を書いてもらうわけにはいきません。となると、どのメンバーが書いた本にせよ、その内容は「正しいかもしれず、正しくないかもしれず」になってしまいます。それでは、新しいAAの本を出すことはできなくなってしまいます。

そこで、アメリカのAAでは、本を作る過程で手間をかけ、本の中身がAAの原理を正しく反映していることを評議会で検証して承認する仕組みがあります。そして、アメリカの承認出版物を翻訳したものは、そのまま日本でも承認出版物になると了解されています。

こうして承認出版物を使うことで、国の違いや時代の違いを越えて、いつも同じAAの12ステップが運ばれることを確実にしています。

そんなわけで、AAミーティングでは評議会承認出版物だけを使うべきだという主張がありました。鴨川の集いで使うテキストは、AAメンバーが書いたものではあるものの、それは一人か二人のメンバーが書いたものにすぎず、正しくAAプログラムを反映している保証がない。だから、それは良くないという主張でした。

実はAAは承認出版物ばかりを出しているわけじゃありません。AAの出版物には「評議会承認出版物」と「そうではない出版物」の二種類があります。「ではない」ほうは、例えばBOX-916という月刊誌です。これはAAメンバーの投稿によって成り立っている雑誌ですから、個々の投稿の内容について評議会などで「正しくAAプログラムが反映されているか」どうか審査しようがありません。あくまでも、記事の内容は「書き手個人の解釈にすぎない」のです。

また、AAミーティングでよく使われているハンドブックという小冊子があります。実はNYのGSOは、複数の評議会出版物から抜き書きして集めた本は基本的に許可していません。だから、ミーティングハンドブックは承認出版物たり得ないのです。

そんなわけで、あまり評議会出版物にこだわりすぎると、ミーティング・ハンドブックすらAAで使えなくなってしまいまし、BOX-916をミーティング場に持ち込んだだけで白い目を向けられる羽目になってしまいます。調べてみると、アメリカでは自分たちでローカルなパンフレットを作って使っている地域もあり、大局に影響を与えない限りは、そこの人たちがオッケーというならオッケーなのがAAでもあります。

鴨川で使うのが評議会承認出版物でないからダメだという話にも説得力がなくなりましたが、それでも話は収まりません。

(続きます)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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