心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年06月02日(水) アディクションの基礎概念

アディクション(依存症)には、いろいろな種類があります。アルコール、ギャンブル、覚醒剤・・・。それぞれに12ステップのグループがあり、共依存や感情の問題の12ステップグループもあります。

ここではまず、いろんな依存症に共通する概念を考えてみます。

アルコールを例に取ると、飲んでいる状態では「渇望現象」が起きます。強迫性とか、飲酒欲求と呼ばれるもので、もっと飲みたい、飲み続けたいという気持ちです。これによってコントロール喪失が起こり、酒のせいでいろいろなトラブルが起きます。

AAでは渇望現象を「身体のアレルギー」と呼びます。アレルギーとは何らかの物質が身体に入った時に起きる異常反応です。アルコールが身体に入ったとき、アルコール依存症者の身体には「渇望現象」という異常なアレルギー反応が起きる、と考えるわけです。花粉症を意志の力で克服できないように、この渇望を意志の力で乗り越えることはできません。体質によって花粉症になる人ならない人がいるように、依存症になるのも体質の問題です。

(花粉症は免疫系、渇望現象は脳内の報酬系の異常なので、科学的に正確な例えではありませんが、観察される現象は同じです)。

花粉症には抗ヒスタミン剤が有効です。ひょっとすると将来「渇望現象」を抑えて飲酒のコントロールを可能にする科学の進歩があるかもしれませんが、「今はまだできてはいない」わけです。

酒をやめるためには、まずこの渇望を乗り越えて酒を断たねばなりません。渇望が強烈な場合には断酒はなかなか難しくなりますが、最悪でも精神病院の保護室に拘禁して酒から隔離してしまえばいいので、解決可能な問題です。アメリカではアルコールの解毒(デトックス)を専門にやってくれる短期入所施設が増えているのだそうです。

この「渇望現象」は酒をやめ続けていれば消失していきます(ゼロにはならないかも)。飲酒欲求が消えれば問題は解決したと思う人が多いのですが、もしそうならデトックス施設さえあればアルコール依存症の治療は完璧ということになります。

現実には解毒だけでは依存の問題は解決しません。依存症者は渇望現象(飲酒欲求)が消えた後も再飲酒してしまうからです。人はストーブに触って火傷すれば、二度と熱いストーブに触ろうとはしなくなります。僕自身の経験を挙げると、一度古い生ガキにあたったらカキの匂いをかぐだけでも吐き気がするようになりました。これが人の正常な反応です。

ところが、アルコール依存症の人は、あれだけ酒で痛い目にあったのに、また酒に手を出してしまいます。心のどこかで「今度こそ大丈夫だきっと」と思って酒を飲む行為は、今度こそ火傷しないと思ってストーブに触るのと同じです。

これは明らかに自己防衛の本能が損なわれている状態で、何らかの精神の不健康(つまり狂気)が存在しています。「狂気」でなければ、何ヶ月、何年も酒をやめて渇望がなくなった人がまた飲んでしまうことが説明できません。AAではこれに「(精神的)とらわれ」という言葉を与えています。

この狂気を取り除き、精神的な健康を取り戻してくれるのが12のステップです。

つまり依存症には二つの相があります。一つは「渇望現象」に支配された身体的病気の相。AAはこれを治せません。節酒できるようにはしてくれません。もう一つは酒をやめている時期で、精神的とらわれがある精神的病気の相です。AA(あるいは12ステップ)はこちらを治すためのものです。

「酒をやめる」というのは、前者の問題だけでなく、後者の問題が解決されている状態を言うのでしょう。

(もちろんそのための手段が12ステップしかない、と言うつもりはありません)

では、このアディクション概念をアルコール以外の依存症に広げてみましょう。(続く)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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