ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2006年07月28日(金) ゼロからの出発 朝9時に仕事に行って、夜9時まで会社にいます。別に会社が好きなわけでも、仕事が好きなわけでもありません。どちらかといえば嫌いであります。嫌いだからいろんなことを先延ばしにするのです。そうして月末になると、帳尻あわせのために必死にならざるをえないのであります。まさに自家製の問題と言おうか、管理ができていないと言おうか。
毎月一回はAAの仲間と泊まりに行っていた時期がありました。3年近く続けたでしょうか。毎回夜2時3時までコーヒーとタバコで話し込んでいました。雑談も多かったですが、AAのこともいろいろ教えてもらいました。伝統のこと、アノニミティのこと、メッセージ活動のこと、広報について、3つのレガシー、帽子、仲間がミーティングに来なくなったらどうすればいいか、まだ話していない人がいるのに時間が足りなくなったらどうするか、などなど。
「一からの出発」という言葉があります。潔くていい言葉だと思います。
そんなことを話題にしていた時に、ある人が「一からの出発には、まだ一があるだけいいんだ。大変なのはゼロからの出発なんだよ」と教えてくれました。
家族もない、仕事もない、住む場所もない、もちろんお金もない。持っているものといったら自分の体と着ている服だけ。靴はAAの仲間からもらった。幸い住む場所は福祉があてがってくれたけれど、アパートにテレビもなければ、冷蔵庫もない。こたつもなければ照明を買う金もない。AAミーティングから帰っても部屋が真っ暗だから、布団に直行して寝るしかない。
そのうち少し余裕ができて照明を買う。世の中が明るくなったような気がする。寒いからこたつを買う。世の中が暖かく感じられる。ひとつ手に入れるたびに喜びと感謝を感じる。ところが着る服が良くなるぐらいになると、何もかも当たり前にしか思えない。ようやく人並みという生活をしばらくして、また酒を飲む。
またもやゼロからのやり直し。前のようにやればうまくいくはずなのだが、うまくいかない。病気が進行しているから。
そんな話をしてくれた人は、身なりもよく健康そうで、とてもそんな経験がありそうには見えませんでした。
そこまで行かないと分からない人間が、そこまで行っても生きていられた奇跡。そう聞いて、そういう奇跡は自分には起らないかも知れないし、そこまで行く前に死んでしまいそうな気がしたので、自分はせいぜい一からの出発にしておきたいと思いました。
自分にとって幸運だったのは、そうしたいろんな人に会って話を聞く機会を与えられたことでしょう。今になって「月に一回はAAでお泊まりに行きたい」などと言い出したら、妻には「いい加減にしろこのタコスケ」と言われ、子供には「自分だけ遊びに行ってずるい」と言われてしまうでしょう。
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