ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
もくじ|過去へ|未来へ
2006年07月13日(木) 横浜1990 まあ10年前にすでに「思い出話」として聞いた話なので、正確性の担保できる話ではありません。しかし当時横浜にいた経験のある複数の人から聞いた話ですから、それなりの真実は含まれているでしょう。まあ、僕の記憶が曖昧なぶんもあるので、差し引いてください。
アル中さんに生活保護の支給が決定したとします。すると一月分の保護費が渡されるわけですが、先のことを考えないアル中さんですから、数日のうちに全部酒に変えて飲んでしまうわけです。生活費に困ったアル中さんは、福祉事務所を訪れて「金がねぇ」と訴えます。もし仮に、ここで再度金を渡しても、同じことが繰り返されるだけです。
口を酸っぱくして「きちんと管理して金を使え」と言ってみたところで始まりません。それができないほど重症になっているのですから。
そこで福祉事務所のほうも一計を案じるわけです。現金を渡すからいけない。現物支給をするのであります。お米はお米券、銭湯は入浴券(そんなのあるの?)、たばこは一日一箱を現物で。必要なぶんだけ渡すのであります。まるで小学生並み、いや小学生だってもっと自己管理能力があるかも。これを金に換えて飲んじゃう人は、ずっと現物支給から逃れられません。
治療としてはAAとか断酒会に行ってもらいます。往復の交通費は移送費から支給。でも、これで飲まれても困るので、きちんと出席してはんこをついてもらってくる必要があります。
しばらく真面目にやっていて、はんこの数が貯まってくると、お小遣いとして数千円が現金で支給されます。その金で飲んじゃう人は最初からやり直し。
さらに真面目にやっていると、ついに全額現金支給という夢を実現することができるのです。喜びのあまりに祝杯を挙げる人が多数です。
AAの側からみていると、とても真面目に通ってきた人が、現金をもらえるようになった頃に全員来なくなってしまうのです。そして、しばらくすると現物支給に戻ってまた現れます。ああ、この人たちは酒を止めたいのではなく、福祉から現金をもらうために来ているのだと思えるのですね。
そんな繰り返しの中からぽつりぽつりと回復する人が出て来る。そんな話だったと記憶しています。
今でもそんなことをやっているかは知りません。たぶん、ほとんどの人が、現金でもらえるものは現金でもらっているのではないかと思います。それだけ軽症化が進んでいるのかもしれません。
逆に言うと、そこまでの重症にたどり着けるのは、体も精神も丈夫な一握りのエリートアル中さんに限られていて、僕を含めた多くのアル中さんたちは、そこに至る前に体か精神がダメになるのではないかと思っています。
アルコール依存症の中間施設で、生活保護費の取り扱いが不適切だったとニュースにありました。本人には毎月数千円しか渡っていないという話を読んで、昔の横浜での話を思い出したのであります。
家族への連絡や外出を制限するってたって、そりゃ普通だし。再就職の機会ってても、早く働くことが回復じゃないし。まあ、どんな人が入所していたのかはニュースから分かりませんから、どんな処遇が適切かも、野次馬にはわかりません。
でも、福祉事務所側の無理解が大きそうですね。
もくじ|過去へ|未来へ![]()
![]()