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これを逃したら後は無い、という悲壮な決意で朝一番の中距離バスに乗る。乗客は5人ぐらい。バスは発着所を出て、メインストリートの一本裏道を抜けていく。昨日は、私達がホテルを出て発着場に向かっていた頃、ちょうどホテルの裏手を反対方向に走っていたのだろう。途中から乗ってくる人もいるので途中で降りることも可能のようだ。帰りは少しラクかもしれない。バスは裏通りを抜けて、やがて海岸沿いの道に出る。出たところでちょうど高く上りかけの太陽と出会う。穏やかな海面上を、帯状の光がまっすぐこちらに向かって差している。晴天。バスはやがて空港の脇を抜けて山間部へ。このあたりの沿岸は、海面が上がって島や湾になっているので、あっというまに高地に入る。いくつかの村や町を通って、1時間ほどで終点ヴァンス(Vence)に到着。 一見がらんとした何もないところだが、ここは街の入口なのでとりあえず歩くことにする。まずは昨日マチス美術館で模型等を見た、ロザリオ礼拝堂に向かう。道端の案内にそってテクテクと街外れまで歩く。模型を見た時点で、こんな斬新なデザインが本当にあったら大変なことになる、と思っていたのだが、本当にあった。不思議と違和感がない。屋根の上に立つ大きな針金細工のような十字架も、巨大な海草が張り付いたような屋根も、すっきりと晴れ渡った青空に、神々しく映えている。 早速中に入ろうとすると、門が閉まっている。11月1日〜12月15日とある。工事用のやぐらも組まれており、どうもクリスマス前のこの時期は例年2〜3週間休むらしい。日曜日は礼拝があって中に入れないかもしれない、といっていたのだが「結局昨日来ても見られなかったんだな」と夫が自己弁護的に言う。 坂の下から写真をとったりその辺をうろうろと歩き回り、市街地へ戻ることにする。村はこの地方独特の「鷲の巣村」と呼ばれる形態で、一種の城塞都市になっている。外部からの敵の侵入を防ぐとともに内部でも敵を惑わす迷路になっていて、案の定、袋小路に迷い込む。おとなしくもと来た道を戻り村の中心部に。日曜日なのに商店が開いている。パン屋、シーフードのサンドイッチも売る魚屋、店先で鳥の丸焼きがぐるぐる回っている肉屋。バス停を通り抜けて、青空市場を通り抜け、カテドラルへ向かう。ここにはシャガールのモザイクがあるというが、カテドラルのあまりの小ささに本当にここでいいのか半信半疑。入口のジプシーをやり過ごし、薄暗い中に入ると、洗礼槽の脇の壁にあるのを発見。新しい誕生への喜びが伝わってくるような生き生きとした幸福感にあれた作品である。門前のお土産やさんで絵葉書やお土産をいくつか買う。こみいった買い物をしようとすると、語学力の無さで奈落の底へ落ちる。 ニースへ戻るバスにのって同じく「鷲の巣村」のサンポール(St-Paul)へ。ここは5分ほどでついてしまう。ここでの目当ては村の散策とマーグ財団美術館。バス停の前にのレストランのテラスで軽く昼食。名物のお焼きのようなものを食べる。こちらのフランス語とあちらの英語でなんとか用が足せるが、ときどき奈落の底へ。 昼食後、サンポールの村を散策する。ここも城壁に囲まれた小さい村だが、芸術家が多く住むそうでアトリエなどが多い。何よりも城壁から見る下界の風景がすばらしい。一方には海が見え、反対側からは白い雪をいただいた山々が見える。温暖な南仏という言葉の響きと地中海性気候に惑わされていたが、ここはイタリア国境近く、れっきとしたアルプス山脈の裾野なのである。石ころがたくさん乗った(ユダヤ人の慣習らしい)シャガールの墓を見学し、こんなところに眠れたらいいねぇと話す。 カフェで一服して、マーグ財団美術館へ。箱根彫刻の森美術館はここのパクリだろか?バス停から徒歩十分と書いてあったが、相当歩いて敷地内へ。チケット売り場で中で写真をとるなら追加料金といわれるが、撮らないと答える。中では片っ端から展示物の写真をとっている人がいて、元を取ろうとしているのだろうか?と考える。ここもミロやシャガールの作品、しかも大作が多い。ミロの大胆なタッチを見ていると、これは量産できるのも道理だとも思う。帰りのバスは1時間おきだが、見ているうちに1時間過ぎてしまった。これでは間に合わないのでもう少しのんびりすることにする。日没が迫ってきて、西の方が淡いピンク色に染まっていき、あたりが薄いもやに包まれてくる。バス停付近まで戻ってきてもう少し下って、散策してみると息を呑むような美しい風景が眼下に広がっていた。サンポールの教会のてっぺんに大きな星のイルミネーションが灯る。夕闇が濃くなる頃、ニース行きのバスに乗る。日が落ちるとあたりは見る見る暗くなり、どんどん遠ざかっていくサンポールの灯りだけが浮かび上がっていった。 帰りはニースに入ってからやや渋滞。やはり途中の停留所で降りる人たちがいるのでホテルの近くで降車ブザーを鳴らし、最寄のバス停で降りる。ラクチン。 夜は、赤を基調としたちょっと雰囲気のいいモダンなレストランへ。味はまあまあだが、ついた給仕が最悪。あからさまに人種差別をするのか、私達の後に来た西洋人の二人組には、決して上手いとはいえない英語を駆使して、本日のお勧めの紹介から、自分の名前まで名乗るサービス振り。これは私達がフランス語が下手なせいではないな。彼らと相前後して入ってきた別の西洋人の若いカップルは、なぜか席をけって出て行ってしまった。席についた後、注文もご機嫌伺いもされずに放っておかれたのに業を煮やしたらしい。他の店員にどうしたのか問いただされると、両手を広げて「俺は知らない」というそぶりをしている。テーブルセッティングの時に面白くないいたずらをし、こちらがしらけているとわざわざ「I'm joking」といってきた。No kidding!最後にチェックを頼んでも全然とりにこないので、他の感じのよい店員で済ませる。店を出る私達に向かって「アリガト」といってきたが無視。そしらぬ顔をして、『アリガト』より『モウクルナ』の方が洗練されているよ、などと嘘の日本語を教えてやればよかった。 参考サイト: フランス観光局 http://www.franceinformation.or.jp/france_clip/vence/vence_01.html コートダジュール http://vacance.jal.co.jp/europe/france/cote_dazur/marc_chagall/
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