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基本的に二人で旅行に出ると、どこに行くかと言うのは 2日目は、夫の計画によるとバスで1時間ほど離れたヴァンス(Vence)という街に行き、戻りがてらサンポール(St-Paul)という街に寄り、さらになにやらという街に行く予定だという。 前日にそう聞いたので、一日に3箇所も行くのは無理ではないか?結局、いけるのは2つがせいぜい、場合によっては一つになるかもしれない、と言うが、夫は3つの街はバスの同じ路線だし、とても近いから大丈夫だという。そしてバスで行くならバスの時間を調べないと、という私の言葉を受け流し、たまに街を走っているヴァンス行きのバスを見かけては、うん、30分おきぐらいに出ているな、なら大丈夫だ、と根拠のないことを言っている。 ならばバス停はどこにあるのだというと、そのちょっと先に中長距離バスターミナルがあるからそこから乗るという。といっても週末はダイヤも違うだろうから、バスターミナルに言って確認したらどうか、せめてホテルのフロントで聞くように、と折に触れ言ったのだが、結局なしくずしにその日は寝てしまったのである。 夫は人に物を尋ねるのがとても苦手であるのを私は勿論知っている。そうして、夫任せにしておくと、私一人では考えられないような事態が起きることも知っている。私は偶発的な出来事を喜ぶ傾向にあるが、一方、段取りが狂うのを異常に嫌うという面もある。 さて、当日の朝。根拠のないまま早めに支度をしてホテルを出る。バス停は思っていたよりずっと近く、これなら昨日ちょっと寄れたのに、と思いつつ発着場まで行って時刻表を見ると、果たしてバスは5分前に出たばかりだった。そして次のバスまで1時間。ほら言わんこっちゃない。3箇所どころか1つもいけないではないか!まさに怒り心頭に発す。「まあ、仕方ない」という夫の言葉が余計に火に油を注ぐ。結果としてはどうにもしようがないが、過程をしてはどうにでも出来たはず。しゃーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかける。別に私はサンポールというトイレの洗剤のような名前の街に行きたいわけではない、あらかじめ回避できた状況に巻き添えを喰って陥るのが許しがたいのだ。もしその様子を私が他人として見ていたら「だったら奥さん、自分で調べておけば」といって仲裁にはいるだろうが、そういう問題ではないのだった。 じゃあ、今日はマチス美術館に行こう、ということになるが、まだ9時前。開館まで1時間以上ある。時間があるから歩いていくという。私はバスに乗りたい、というがバス停を探すのが面倒な夫は、坂道を登ると景色がいいから歩こう、とこれまた根拠のないことを言う。ふてくされて後をついていく。家々に囲まれて別に景色がいいわけではない坂道を果てしなく歩いて登る。途中で飴を舐めさせて貰ったり、なんとか気分を変えようとするが、疲れとともにふつふつと怒りがぶり返してくる。やっとのことで美術館まで来た頃にはさすがに機嫌も直っていた。歩き始めて1時間10分の時が経過。 美術館はローマ時代の街の丘の上にあり、遺跡の脇にある赤壁とだまし絵に装飾された美しいイタリア風の建物である。マチスの個人コレクション、愛用の調度品などとともにマチスの創作活動を年代順に見ることができる。特に後半、彼を復活させた切り抜き絵の作品群は感動的ですらある。ヴァンスの街にあるロザリオ教会の設計図や模型、ステンドグラスの下絵などを興味深く見学し、明日のヴァンス行きへの期待を膨らませる。例によってミュージアムショップで絵葉書を買い、最後にもう一度「花と果実」の大作をしばらく眺めてから美術館を後にした。 帰りはさすがにバスに乗ることを主張し、バス停へ。近・現代美術館を通るバスがあるので、それを待つことにする。路線図を見てまあなんとかなるだろうと思っていると、夫が「どこで降りるか僕は全然分かっていない」と不安がる。そういえば夫はバス停の名前が明示されない外国のバスも苦手なのだ。行き先の近・現代美術館は来るときに目の前を歩いてきたので、別に適当なところで降りればいいと思うのだが、乗り過ごすとどこかとんでもないところに連れて行かれると思っているらしい。昔何か嫌な思い出でもあったのか、あつものに懲りて膾を吹く男である。 ここは私の出番かと思い、傍らの老婦人に「まだ〜む、しるぶぷれ〜?」と話し掛けてみる。「近・現代美術館に行きたい」というと路線図を詳細に見始め、よそのご婦人も色々とアドバイスをしてくれる(フランス語なので意味わからず)。彼女が場所を把握できたところで「英語話せる?」と英語で私に聞いてきた。反射的に「はい」と答えると、「えーと、2つ。2つね。ダウン、ダウン、ダウン…で、2つ。美術館。OK?」と、手振りを交えて説明してくれた。…つまり(バスは)坂をずっと下って、下りきったら二つ目の停留所で降りると美術館ということらしい。フランス語でお礼を言ってバスに乗る。「Madame」とさっきのおばちゃんがバッグに気をつけろ、と目で教えてくれる。Oui。 バスはさっき1時間10分かけて登ってきた道を5分で下り、あっという間に美術館前に出てきた。すぐにも降りたがる夫をいなして近・現代美術館前の停留所まで行き、無事に降りる。まだバスに乗っていたおばちゃんに手を振る。 美術館に入る前に食事。昨日見た活気ある店がおいしそうだったので、そこに入って、生牡蠣とか、貝とか海老とか海の幸の盛り合わせ。レモンほぼ一個分とマヨネーズが添えられている。こんなに天気がいいのに、街中のこんな四角い空をみていてもなぁ、という気もするがこれも旅のオプションである。道端の大きな犬を眺めたり。フランス人の喫煙率の高さにあらためて驚いたり。ルフトハンザの日本発着便に乗ると、毎食和洋問わず魚の形の醤油がついてくるのだが、これが外国人には大受けするので、いつも使わないのを取っておく。昨日魚介類に醤油かけたらおいしいかもね、と話していたので夫は今日ポケットに忍ばせてきたらしく、醤油使う?取り出してきた。えらいぞ、アンタ。さっそく貝にちょちょっとかけてみる。うまーーー。牡蛎のカラの殻を小皿代わりにして醤油を入れて使う。魚介類の旨味を引き出すというか、味にぐぐっと奥行きを与えるというか、なんでこんなにすばらしい調味料なのだ。 …醤油マジックも量の多さには負けて文字通り雑魚は残す。 近・現代美術館に行く前に、裏通りの商店街をぶらぶら歩いて、南仏らしいお土産を2〜3つと、さらに普通のスーパーに入ってクリスマス用の袋菓子を配布用として買う。さて、近・現代美術館。入る前からコンテンポラリーでアートな美術館である。やっぱりフランス人センスいいね。中に入るとニキ・ド・サンファル(Niki De Saint Phalle)の展示が多く目に付く。彼女が大量に作品を寄付したらしい。作者が写っている写真もいくつか出ているが、すごい美人である。他の展示物も数は相当でそれなりに見るが、どうも悪趣味で露悪的な感じがするものもあり、あまり心がうれしがっていないような気がする。屋上で360度の展望を眺めて、美術館のカフェでお茶を飲んで、一旦ホテルに帰る。途中でギャラリーラファイエット百貨店があったので、中に入る。子供服、かわいいー。でも高ーい。心の鏡がにっこりポーズをとる姪を映し出すのを振り切り、あきらめてクリスマスの装飾品の値段も嵩も張らないものを購入。 夜はホテルの裏通りの商店街あたりに行くことにする。ざっと見回してとても混込んでいるピザ屋に入る。熱気むんむん。幸いすぐ席につくことができて、マルセイユ風ピザというのとモッツァレラチーズとトマトのサラダを*フランス語で*頼む。しかしこっちの人はよく食べることである。テーブル一つおいた隣の熟年夫妻は、一人一枚ずつピザをフォークとナイフで食べている。こちらもフォークとナイフを使って、1枚のピザを半分ずつ食べる。サラダのモッツァレラチーズは、いかにも水牛、という感じ。一ひねりしたまま大皿の中央にどんと置いてあるが、これがまた、おいしいこと。やわらかくもちもちっと歯ごたえがあってジューシーで香りがよい、あんなにおいしいモッツァレラチーズを食べたのは初めてでびっくり。食後にデザートはどうか?と聞かれて、カプチーノを2つ、と頼むと、向こうは私のフランス語を理解しなかったらしく、デザート用のメニューが出てきた。一応儀式的にメニューを開いて閉じ、オーダーを取りに来た時に"Non"という。代わりにコーヒーはどうか?と聞かれ、待ってましたとばかりにカプチーノを2つ頼む。一つおいて隣の熟年夫妻は、食後酒、さらにクレーム・ブリュレ風のデザートを前に舌なめずりをしている。 はー満足満足。部屋に帰り、今夜も満腹のまま酔いも手伝ってすぐ寝る。牛への道まっしぐら。
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