ケイケイの映画日記
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2012年04月18日(水) 「ドライブ」




まずいなぁ、観てから一週間経っちゃった。観る前はスタイリッシュな犯罪ものと予想していましたが、実際はちょっと古風で、寡黙で不器用な訳ありの男の純情物語でした。それに犯罪や暴力の場面などが上手くマッチ、懐かしくもカッコイイ作品です。監督はデンマークのニコラス・ウィンディング・レフン。

映画のスタントをしているドライバー(ライアン・ゴズリング)。映画の仕事がない時は、町の自動車修理工場で仕事をしています。実はそれは表の仕事で、裏では犯罪者を抜群の運転テクニックで逃亡に成功させる逃がし屋もしています。アパートの隣人アイリーン(キャリー・マリガン)と幼い息子と親しくなる彼。仄かにお互い恋心を感じますが、アイリーンの夫が刑務所から出所。思いを断ち切るはずが、また犯罪組織に誘われるアイリーンの夫の窮地を知ります。アイリーン親子の幸せを願うドライバーは、これ一回限りで夫に足を洗わせる約束を組織と交わし、逃がし屋を請け負ったのですが・・・。

得たいの知れない俳優と言えば、ライアン・ゴズリング。ある時は一心に恋人を思う男性(「君に読む物語」)、ある時はラブドールに恋する純朴な青年(「ラース、とその彼女」)、またある時は人として成長著しい恋女房に捨てられる情けない夫(「ブルーバレンタイン」)、そしてたまにはイケメンのプレイボーイも演じなくっちゃ(「ラブ・アゲイン」)と、本当に多種多様。そのどれもが印象に残る演技です。彼がどんな役柄でも何故こなせるかと言うと、突出した個性が見当たらないからだと、私は思うのだけど。ハンサムと言えばそうだし、普通にも見える。優しげな目元は温厚にも見えるけど、心の中までは読めない。そんなライアンが役名もない、素顔も過去も得体の知れない役を演じて、これまたすんごく良いのです。今回もまた観た事がない役で、どんだけキャパが広いのか?

お話はシンプルで、愛してしまった隣人の人妻の幸せを願うべく、犯罪に手を染めた主人公が、陰謀に巻き込まれるお話。前半は叙情豊かにドライバーとアイリーン、息子の幸せな風景を映しロマンチック。手を握っただけでプラトニックなのは、アイリーンが人妻だからでしょうね。夫は刑務所に入っているような男なんだから、俺が幸せにしてやるぞと、押し倒しちゃえ!と、私なんか思ったんだけど。でも出来ないのは、彼の背景に何かあると感じます。

それを表現していたのが、エレベーターのシーン。たった一度のくちづけの後、それはそれは凄惨な場面が映ります。ドライバーの過去に何があったのかは、一切語られません。でもこのシーンを観れば、ただの逃がし屋だけではなく、彼が堅気ではないのは歴然です。彼はどこから来たのかもわからない。彼自身も逃げているのかも?普通の幸せは望めないのに、三人で過ごす日々は、彼に家庭という夢を見させてしまったのだと思いました。なのであのシーンは、アイリーンの目前で、と言うのに意味があると思いました。彼女にも自分の気持ちにも、引導を渡すために。

犯罪に巻き込まれてからは、一気にバイオレンスタッチに。一瞬の隙にバタバタ殺されていきます。それも血まみれ。顔一面に返り血が飛んだライアンの顔は鬼の形相で、観ている私の血も煮沸しそうでした。ライアンはこんな演技も出来るんだ〜と又感心しました。展開がスピーディーなのも良かったです。

音楽や夜の風景、車の使い方など、70年〜80年代の犯罪映画の雰囲気でした。キャリー・マリガンは、自分から出演を希望したと読みましたが、う〜ん、ちょっと違うかな?いや演技は上手なので観ていて違和感はないのですが、もう少し世帯窶れした、昔は清楚な美少女だったという風情の人が良かったかも。後はアルバート・ブルックが老けてしまって哀しかったけど、でも悪役も貫録あって上手かったから、良しとしよう。彼は「ブロード・キャスト・ニュース」が好きです。何となく続編作るような気がするのは、私だけ?血なまぐさい映画が大丈夫と言う向きには、お薦めの作品です。



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