ケイケイの映画日記
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2005年02月09日(水) 「きみに読む物語」

昨今純愛ブームの中、「セカチュー」も「今会い」も観ていませんが、この作品は若い人と老人と二つのパートで愛を謳いあげると聞き、是非観ようと思っていました。注目はもちろん老人パート。ジーナ・ローランズとジェームズ・ガーナーが演じるとあっては、早く観なくっちゃ。ということで、昨日観て来ました。今回はネタバレです。つーか、チラシや予告編を観ただけでも、勘の良い方はわかると思いますし、私も当りをつけて観ました。ネタバレしてからが真骨頂の作品ですので、読んでも可かと。でも責任は持てませんので、その節はどうか御容赦を。

とある老人用の療養施設、虚ろな表情の老婦人にデュークと名乗る老人が、毎日ある若い男女の物語を読み聞かせています。それは1940年代のアメリカの南部のある町で起こったお話。ひと夏を過ごしにやってきた富豪の一人娘アリーは、地元の材木場で働く青年・ノアと恋に落ちます。毎日の逢瀬が楽しくて仕方ない二人。しかし夏の終わりを待って、生きる場所の違う二人は、アリーの両親によって引き裂かれます。二人の行く末はどうなるのか?

若い二人のパートは、まだ17〜20歳前後なので、やたらキャーキャー騒ぐしキスしまくるしで、少々観ていて疲れますが、素直に若さっていいなぁとも思います。ノアを演じるライアン・ゴズリングは普通の好青年の誠実さを好演していました。のちの展開で、この普通さが生きてきます。アリーのレイチェル・マクアダムスは可愛いのですが、少々キャピキャピし過ぎでちょっと聡明さが足りない気がします。でも私は若い娘さんは憂いがあるより元気いっぱいが好きなので、許容範囲でした。

アリーのお母さんにジョアン・アレン。ノアのことを「彼は好青年よ。でもクズだわ。彼と結婚して薄汚い子をたくさん連れて歩くの?」というセリフが出てきて、ハイソ女性の裏側の本音を演じさせるのに、アレンを使うとはぜいたくだなぁと思っていたら、お母さんにもアリーと同じ経験があったのですね。現在の婚約者とノアの間で悩むアリーに、今も肉体労働をするかつての恋人を見せ、いかに自分が今幸せか、夫を愛しているか、娘に涙ながら語る彼女は、それが本心でないのが丸わかりです。ノアをなじられた時、「ママなんか恋したことないでしょう!パパとじゃれついているのを見たことがない!」と激怒したアリーですが、きっとその言葉を後悔したでしょうね。お母さんも安定した生活の中で、過去のほろ苦い恋との葛藤で切なくなったこともあったでしょう。この場面で今までの行動が全て合点がいくアリーの母を、アレンはさすがの深みを持って演じていました。

この辺で老婦人は現在痴呆症のアリー、デュークはノアで、二人は結ばれ子供達も立派に大人になったことがわかります。誰もわからなくなったアリーに、医者や子供達に無駄だと言われようと、昔の自分たちのことを語ることで、奇跡を呼ぼうするノア。子供達に家に帰るよう言われ、「お母さんがお父さんの家だ。」と静かにきっぱりと言い切るノア。そうなのか、妻とは夫の心の家なのか。「レイ」でも、幾人愛人がいようと妻のデラ・リーだけは別格でした。愛人に「私と過ごす時間の方が多いじゃない、奥さんと別れて。」と責められても、はねつけたレイ。家庭なら又子供を生んで作ればいい。家庭ではなく、妻がレイにとっての帰るべき「家」だったのですね。

ほんの一瞬ノアの気持ちが通じて夫を認識するアリー。「ダーリン」と呼び泣きながら抱き合う二人。そしてまたわからなくなる。ここから涙流しまくりの始まりです。連れ合いが記憶を失くしてしまうほど、夫婦にとって残酷な事はありません。何十年と二人で築きあった苦しかったこと楽しかったこと、いっぱいの思い出を共有出来るのは、妻や夫しかいません。決して新しい相手、子供では満たされるものではありません。たくさんの人が、妻に過去を思い出して欲しいと願うノアの心に、共感出来ると思います。

しかし夫婦すべてがお互いそんな存在になれるかというと、これはすごく難しいです。結婚すると言うのは、私は縁だと思っています。この物語のように、切ても切ってもお互いが引き合うこともあるし、何の障害がなくても結ばれない二人もいます。そんな結婚を維持するのは、式までこぎつけるよりもっと努力もエネルギーも要ります。それは片一方だけではダメですし。何年か前、近所の78歳の方が亡くなりお通夜に出向いた私に、娘さんは「あんなに母に苦労をかけた父が、すっと逝って初めて妻孝行しました。」と仰ったのに対し、奥様は「手のかからない人で、いい人でした。後5年は生きてくれると思っていたのに・・・」とお泣きになり、夫婦には他人はおろか、子供でもうかがい知れない歴史があるのだと思いました。そのことを、ノア夫婦の子供達やアリーのお母さんを見て思い出しました。

冒頭ノアの「私は何の自慢も取り得もない人間だが、一人の人を生涯愛したということだけは私の誇りだ。」と言うようなナレーションが入るのですが、これがこの物語の全てではないかと思います。普通の平凡な人が誠実に誰かを愛し晩年まで生きる、「真心」を描きたかったのだと感じました。ラストシーンは、仲良く暮した老夫婦は、きっと皆願うであろう出来事で終わります。

末期の痴呆症にしては、ローランズがちとエレガントで綺麗過ぎる気もしますが、あんなに素敵なガーナーに生涯愛される役ですもの、これは映画なんだから固いことは抜きということで。監督はローランズの息子のニック・カサベテス。息子から見て、彼の両親(父はジョン・カサベテス)はきっと素晴らしい夫婦だったのでしょう。出来ればちょっと甘口で観て欲しい作品です。日頃は夫のことを口うるさいオッチャンやとを思っている私ですが、大事にしなくちゃと節に感じた作品です。私の夫はノアのようになってくれるかな?




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