ケイケイの映画日記
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2012年04月11日(水) 「アーティスト」




本年度アカデミー賞・作品・監督(ミシェル・アザナヴィシウス)主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)受賞作品。チャーミングで素敵な作品です。なのに、劇場はガラガラ。これは他の地方もそうみたいです。確かになぁ。これはシネコン拡大公開よりミニシアターが似合う作品です。観る人を選ぶ作品で、私のように浴びるほど映画を観ている者には、ニコニコして観られますが、オスカー受賞作だ、どんなに面白いんだろう?と思って観た人は、イマイチかも。

サイレント映画の大スター、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)。民衆を虜にしている彼は、ある日彼に憧れる女優志願の若い女性ペピー・ミラーと出会います。偶然彼の作品のエキストラに出演することになったペピーは、ジョージからアドバイスを受けて有頂天です。そんな時、時代はサイレントからトーキー映画に移りだし、プロデューサーのジマー(ジョン・グッドマン)から、これからの作品は全てトーキーだと告げられます。しかし自分はアーティストだと信じ、トーキーを嫌うジョージは、ジマーと袂を分かち、サイレント映画を作ります。しかし時代に乗り遅れたジョージの作品は興行的に失敗し、彼は落ちぶれて行きます。その頃ペピーは順調にスターの階段を上り、今やハリウッドの恋人でした。

ハリウッドのサイレント時代を描いていますが、この作品はフランス映画。主役二人はフランス人ですが、グッドマンの他、ジョージの運転手にジェームズ・クロムウェル、妻にペネロープ・アン・ミラーと、要所の配役はベテランアメリカ人俳優で固めています。ちょこっとマルカム・マクダウェルも出演。すごいお爺さんになっていてびっくりしたけど、思えば彼も70近いんですよね。

作品は基本的にサイレントでモノクロ。ジョージの名前は、サイレント時代の大スター、ルドルフ・ヴァレンティノをもじっているのでしょう(違うか?)。撮影風景が続々映されて、おぉ、これはダグラス・フェアバンクスの冒険活劇風だな、ジョージとペピーの踊りのシーンはアステアとロジャースだ、落ちぶれたジョージの風情は、「サンセット大通り」のノーマ・デズモンドを彷彿させるわ(ノーマの方がもっと迫力あってゴージャスで妖怪風だけど)とか、観ていて色々想起させます。この監督さん、私たちみたいに映画大好きな人なんでしょうね。

お話の展開は、ほとんど鉄板。予想通りに進む中、主役二人の魅力が作品を引っ張って行くのに重要ですが、私は充分楽しませてもらいました。ジャンは隣にはいない、ゴージャスなハリウッドスターのオーラが感じられました。ベレニスはちょっとグラマラスさに欠けますが、色んな表情を見せる大きな目が印象的で、大好きになりました。ちなみに監督夫人だとか。

ペピーはジョージの大ファンだったはず。憧れの存在だった彼に近づきたくて、懸命に頑張ったのでしょう。タキシードのシーンの情感溢れる女心の様子は、今後名シーンとして語り継がれるかも?不遇の彼を見ていられず、手を差し伸べていくうちに、憧れがいつしか愛に変わって行く様子も、手に取るようにわかりました。

トーキー出現の折にジョージの見た夢は、いつか誰かにスターの座を追われる、その怖れが常に彼の心の底に染み付いているのだと思いました。スターの宿命ですね。スターとしてのプライドはズタボロでも、彼には人として、アーティストとしての誇りは残っているはず。再びその誇りを想い出させてくれたのが、ペピーの献身的な愛だった、と言う筋運びは、予想できても嬉しく感じました。

サイレントと言うことで、顔の表情の豊かさや、ややオーバーアクト気味の演技が要求されたかと思いますが、それが鼻に付くこともなく、自然な流れで観られました。ただ多少解りづらい箇所もあります。何故ジョージがあれほどトーキーを嫌ったのかが、イマイチ解りません。それとジョージと妻の不仲ですが、不仲になった原因がイマイチわからない。二人が段々遠ざかり、喧嘩も出来ないほど冷えきった仲を描くのには、あんなに心染み入るのに何故?ペピーとの仲を邪推と言う線は違うでしょうし、過去のジョージの女癖の悪さを感じさせるのにも弱いです。

そして素敵な作品で私も好きですが、ユニークな小品佳作であり、私的にはオスカー受賞もちょっと違う気が。こららの点を踏まえて、ご覧になる時の参考にして下されば幸いです。


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