ケイケイの映画日記
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2009年06月07日(日) 「60歳のラブレター」




なるほど・・・。夫婦ものだし、私は楽しめそうだなと予告編で感じていたのですが、仲良くしていただいている同じ年の映画友達の方が、公開直後ダメ出しされていて、嫌な予感が。予告編の方が良かったです。あまり出来のよろしくない、大人の寓話でした。今回少々ネタばれです。

橘孝平(中村雅俊)とちひろ(原田美枝子)夫妻は結婚30年。仕事一筋で家庭を省みず、あげく愛人まで作る孝平と、専業主婦として結婚生活を耐え忍んできたちひろは、孝平の定年を機に離婚します。魚屋を営む正彦(イッセー尾形)と光江(綾戸智恵)夫婦は、口は悪いが仲の良い夫婦です。しかし光江に脳腫瘍が見つかり、二人はうろたえます。妻を五年前に亡くした医師の佐伯(井上順)と、独身で50代を迎えた翻訳家の麗子(戸田慶子)は、仕事を通じて知り合い、お互い魅かれあっていきます。

この三組のカップルが絡んでいくのですが、その辺はよどみなく無理がありません。上手い構成で、この辺はさすが秀作「キサラギ」の脚本家古沢良太だなぁと言う感じ(だから私は観にいったのだ)。でも彼の力量の片鱗も、今回はこれだけでした。

微妙な夫婦や熟年者の心の機微は表現出来ていますが、その手法は古臭く、リアリティも中途半端。孝平の造形は若々しいを通り越して、あれは幼稚ってもんです。60もなれば、自分が社会で活躍出来たのは、会社と言うバックがあってこそと、普通はわかっているもんでしょう?それを俺だけの力だと思い上がるのは、30代止まりじゃないの?あげく若い愛人とパトロンではなく、現場の共同経営者として新たなチャレンジなんて、バカじゃないの?と、私は口がぽか〜ん。

妻の方は原田美枝子の好演により、そこそこ納得出来ます。しかしいくら何でも、愛人の存在や子供が生まれても三週間も会いに来ない夫に、口応え一つしたことのない妻なんて、いるんですかね?麗子のてほどきで美しく生まれ変わったちひろ。「こんな原石をほったらかすなんて、それだけでもひどい夫だ」と麗子は言いますが、それって夫だけの罪?エリートで家庭を顧みないというのは、言い換えればお金には不自由せず自由な時間はたっぷりってことです。ならば発想の転換で、子供の手が離れれば働きに行くなり勉強するなり、自分磨きする時間はあったはず。このままのちひろを観客に受け入れるようにするには、長年親の介護で苦労したなど、別エピソードも挿入する方が良かったかも。でも原田美枝子の「小さな箱入り娘→世間知らずの貞淑な主婦」ぶりは、とても良かったですよ。

ちひろに興味を示す流行作家に石黒賢というのもなぁ。彼は40代半ばのはず。はぶりの良い有名人で独身である彼が、何故面白味なく、従順なだけの10才前後年上の彼女に興味を示すの?これも説得力がありません。ちひろと同じ年代か、それとももう少し上で、夫だった孝平より妻と言うものの存在に感謝し、認める男性はいくらでもいます。そんな釣り合った年齢の俳優、例えば長谷川初範などに演じてもらえば、素敵な展開を期待出来てたのにと、残念です。

他二組のカップルはそこそこの出来栄えです。特に魚屋夫婦の描き方は秀逸。病床の妻の元での夫の「ミッシェル」の弾き語りには泣かされました。しかしこのカップルも、子供がいません。その辺素通りはどうよ?という気がします。いらなかったのか、欲しかったのに恵まれなかったのか、その辺さらっとでも描けば、コクが増したと思いますが。

麗子のキャリアのある女性が、振り返れば一人きりの孤独を噛みしめるというのも、普遍的でしょうが、少々古臭い。私は彼女の様な立ち場の人には、もっと元気でいて欲しいです。だって仕事ができて自分の力だけで生きているのは、同じ女性として、立派なことだと思うからです。井上順の医師は、平凡ですが足るを知る善良さのにじみ出た人で、とても良かったです。

そして致命的なのは、全部がハッピーエンドなこと。そりゃその方が希望がわくでしょうが、この年代はそれぞれ山あり谷ありを踏み越えて来た人達のはず。安直に希望をもたらずだけではなく、現実を見据えて、苦くても一筋光明が見える描き方の方が、リアルに励まされると思うのですが。

以上、私には不満の残る作品でした。


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