ケイケイの映画日記
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2007年10月28日(日) 「インベージョン」




あの大女優が、何故こんなB級バッタもん映画に?シリーズ、第一段。(次はジョディ主演の「ブレイブワン」の予定)。この作品は何度も映画化されているジャック・フィニィの「盗まれた街」が原作で、実に四度目の映画化。私は三作目の「ボディ・スナッチャーズ」しか観ていませんが、結構面白かった記憶があります(一番覚えているのは、感染していない人を見つけると、キャディさん真っ青の大声で「ファ〜〜〜〜!」と絶叫すんの。それもすごい形相で)。どの作品も、何者かに体を奪われて別人格になる、という骨格だけ取り入れて、あとは脚色しているようです。この作品も三作目からは、大幅に脚色していました。

シングルマザーの精神科医キャロル(ニコール・キッドマン)は、一人息子のオリバー(ジャクソン・ボンド)を第一に考えるよき母です。ある日謎の生命体が地球に入り込み、感染した人々は次々と感情を失っていきます。その細胞を偶然手に入れたキャロルは、友人の医師ベン(ダニエル・クレイグ)に分析を頼みます。折しも別れた夫のタッカー(ジェレミー・ノーサム)が、四年間会おうとはしなかったオリバーと、面会させて欲しいと電話してきます。不審に思いながら応じるキャロルでしたが・・・。

感想をまず書くと、良いところもあるし、ツッコミもあるし、とっても普通の作品で都合良かったです。いえね、最近立て続けに秀作ばっかり観ているのでね、ちょっとクールダウンしたかったのよね。全力疾走してゴールした後、ちょっと流してランニングしたりするでしょう?そういうのにぴったりの作品でした。あんまり感激ばっかりすると、しんどいもん。

良かったところは、ニコールの母親ぶり。もう感激するほど息子命なんですね。息子の危機には自分の命は省みず、髪振り乱し、必死の形相で子供を守ろうとするのですね。これがずっと続くとダメ母になりますが、私は子供が小さい頃は、女より人間より、まず母親として生きるべきと思っています。ベンとは愛し合っているのですが、まずは子供第一のキャロルなので、「いつまでも親友でいましょう」だって。この身持ちの堅さに感激する私。だってね、前にテレビで豹のドキュメンタリーを観たのですが、豹の母親って、出産後二年はフェロモンが出ないのだとか。要するに子どもがジャングルで一人立ち出来るまで、本能から雌の部分がなくなるわけですよ。日々ニュースで流される若い母親と同棲相手の幼児虐待に、母親なら男より子どもを選ばんかい!と、暗たんたる気持ちになる私なのですが、このニコールの姿は我が意を得たりという気になりました。こう言う役はあまり美に恵まれない女優さんより、ニコールのように完璧な美貌の人に演じてもらう方が、やはり説得力があろうかというものです。豹を見習え!というより数段効き目がありますね。

ニコールは美貌が先立つ人ですが、「アザース」なども非常に好演だったし、子どもへの愛が表現しにくい「毛皮のエロス」でも、複雑で表現しにくい子供たちへの詫びの気持ちなども、上手く演じていました。完璧な美と母性とを兼ね備えているという、稀な長所を持つ人だと、私はいつも感じています。

題材はSFなんですが、どちらかというと、この病原菌はこれからどうなるのか?行方不明の息子はわかるのか?などなど、サスペンスフルな展開の方が楽しめます。この病原菌に感染しても、眠らなければ変化しない設定ですが、その辺は上手く脚本に取り入れていました。

ただ楽しめるけど、すごく楽しめるかというと、そうでもないです。前半ちょっと観念めいた人類についての問答があるんですが、観ながら既に忘れていきます。それくらい絵空事というか、ハートのない会話です。これが前ふりの役目なんですが、感染前の体も保ち、思考も思い出も残るし、感情が抑制されるくらいなら、そんなに感染を怖がらんでもなぁという気もします。だって「この体なら地球上から戦争がなくなる」というのは、すごくそそられません?ゾンビみたいに、絶対こうなるのはいや!という特徴に欠ける、感染後のようすでした。

以下はネタバレに苦言を書きます。











それと感染すると、蚕みたいになるんですが、そのまま死ぬ人と首尾よく脱皮(?)する人といるんですが、あれはどういう分け方してるんでしょう?
問題の解決が早過ぎ。超スピードで世界中からアメリカの一大事のために、ノーベル賞クラスの学者が集まるって、あんた何様?ちゅー気がして、余り気分がよろしくないです。ニコールは息子を連れて逃亡の途中、バンバン感染者を殺しますが、それは切羽詰まった状況なんでOKです。感染したベンだけは足を撃って殺さなかったのも、まぁわかる。でもあのラスト、治療法が見つかり、回復したベンと結婚したみたいなんですが、あれも気分がよろしくない。そしたら感染者は、みんな足を撃ったら良かったんじゃないのん?あそこはハッピーエンドにしちゃね、怖さがただの喉元過ぎれば感に終わってしまいます。やっぱりベンには死んでもらって、感染の恐ろしさを教訓にすると共に、キャロルにはどうしようもなかったけど、悔恨の哀しさを漂わせた方が、深みのあるラストになっていたと思います。いかがでしょう?


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