ケイケイの映画日記
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2007年03月17日(土) 「華麗なる恋の舞台で」

主演のアネット・ベニングが、2005年度にオスカーの主演女優賞候補になった作品。ベニングはその前にも作品も演技も素晴らしかった「アメリカン・ビューティー」で候補となるも、「ボーイズ・ドント・クライ」のヒラリー・スワンクに賞を奪われ、2005年度も「ミリオンダラー・ベイビー」のスワンクにまた負けています。「ミリオンダラー〜」のスワンクは、「ボーイズ・ドント・クライ」なんか目じゃないくらい良かったので、2005年度は順当なのかとずっと思っていましたが、演技のみに絞って言えば、やっぱりベニングが上だと思うよ、私は。こっ恥ずかしいタイトルのこの作品ですが、ベニングの惚れ惚れするような、堂々の大女優ぶりを堪能した後では、小粋なタイトルに感じるから不思議。監督はハンガリーの名匠イシュトヴァン・サボーです。

1938年のロンドン。ジュリア・ランバード(アネット・ベニング)は大女優としてロンドンの演劇界に君臨していました。夫の興行主でもあり舞台監督でもあるマイケル(ジェレミーアイアンズ)との間には、息子のロジャーにも恵まれ円満で満ち足りています。しかし毎日の舞台中心の生活は、心に充電する間もなく、最近のジュリアはイラついています。そんな時出会ったのが、アメリカ生まれの親子ほど違う若さのトム(ショーン・エバンス)。ジュリアの熱烈なファンであるトムと、たちまち恋に落ちてしまうジュリアですが、ほどなくトムは若い新進女優エイヴィスに乗り換えてしまいます。

大女優でござい、のジュリアの日常がユーモラスに、そしてエレガントに描かれています。タイトル通りの華麗な舞台、パーティ、日常でも手を抜かない素敵なファッションの表の顔に対し、我がまま気まま、気にいらないと当り散らすような、幼い子のような部分との落差が、40代後半という年齢に似つかわしくない愛らしさで描かれていて、とってもチャーミング!
いわゆる女優の業というものではなく、私生活も含めてひたすら女優であることのプライドが楽しく描かれています。

ちょこちょこジュリアの育ての親だった演出家ジミー(マイケル・ガンホン)の亡霊が出てくるのですが、事あるごとに彼女に演技指導する姿が、これまたユーモラス。「日常は虚像、舞台こそ全ての真実」と何回も彼女に言って聞かせます。さすれば彼女にとってこのアバンチュールは、絶好の若返りだったはず。今回の相手には少女を演じる大女優は、つまみ食いは初めてではなかったはずですが、こんなに若い男性に言い寄られたのは久しぶりでしょう。鏡を前に「まだまだいけるじゃない?」と、浮かれる様子は、女の定年がもう見えている我が身にも、とってもわかるのだなぁ。

この夫は女優の妻が大好きでとても大切なのですね。浮気はちゃんとわかっていたはず。しかしこれも芸の肥やしならばと、見てみぬふりだったのではないかと。女優の妻が大事というと、冷たい響きに聞こえますが、彼女は人生全てが女優の人なんですから、こんなありがたい旦那さんはいないはず。こんなわかりにくい愛情で結ばれた夫婦から生まれた息子は、災難です。しかし息子とは有難いもんですな。それでも母に向ける愛情は普通の母子のそれ。その辺の描き方のさりげなさもすごく上品です。

ジュリアは口ばしの黄色い分際で、自分を侮辱するようなまねをしたトムやエイヴィスにお仕置きするのですが、これが舞台女優ならではのお仕置きで、今作品最大の見せ場です。大女優はこれでなくっちゃ。でもそのきっかけは、息子ロジャーとの会話からなのですから、息子からの敬愛を取り戻す意味もあったかと思います。噂を耳にしただけならば、彼女も知らん顔したかな?

アネット・ベニングは大好きな女優さんです。確かに美人ですが個性に乏しい容姿を逆手に取り、どんな役でもこなしてしまう人で、今回も「芸と美貌があるんだから、何でも許されるのよ」のジュリアは、一歩間違えれば傲慢に映ってしまうはずですが、エレガントさと美しさと貫禄、カマトトではない中年女の可愛さとで魅了されます。低めのハリのある声が舞台映えし、舞台場面をもっと観たかったです。しわしわの首、ハリの失われた素顔、お化粧を落しかけのアイラインの滲んだ目元なども映し出すのですが、反って華麗な舞台姿が魔法のように思えて、女優の凄みを感じさせます。

脇役も、軽めに演じるジェレミー・アイアンズはとても楽しそうで、息子から「パパはロンドン一の美男子でいることしか興味がない」と言われるシーンでは、思わず一人で忍び笑いしてしまいました。メイド役のジュリエット・スティーブンソンとジュリアが憎まれ口を叩き合いながら、信頼し合っている様子が微笑ましかったです。女同士の気兼ねのなさを、毒舌と親愛を滲ませて描くのは、なかなかに知性の必要なものです。こんなのどっかで観たなぁと思い出したのは、大河ドラマの「毛利元就」の、松阪慶子の杉さまと侍女の松金よね子でありました。美人中の美人の松阪慶子が、「女は顔じゃ!」が口癖の杉さまを演じて全くいやみがなく、人ととしての器量は大物なれど、人間が出来ていない様子は、ジュリアと瓜二つ。ちなみに私は大河ドラマの登場人物では、この杉さまが一番好きです。

若いツバメはちっとも羨ましくなかったけど、私もブルース・グリーンウッドみたいな渋い中年の二枚目の、プラトニックラブの彼氏(ここ重要ポイント)なら欲しいなぁ。もし日本でリメイクするなら、ジュリアはやっぱり大地真央?彼女は皺々の首や素顔は見せてくれそうにないので、無理ですね。私は変化球で最近母性を感じさせるピーターを支持。面白いのが出来ると思います。


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