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■ 「傭兵王と漂流王、どちらが強いのか?」最終夜
さて、傭兵王と漂流王、最後の決着をつけてもらう時が来たようだ。これまでの勝負は、三つのゲームシステムでアシュラムが三戦全勝である(SWは僅差だが…)。ストーリー上の勝者は傭兵王カシューだが、本当に彼は強かったのか…? という疑問が出たところで、前回は終わった。
しかし「本当はカシュー王は弱かったのです」という結論を出すのは、まだ早い。もう一度最初から考えてみよう。このロードス島の命運を決する世紀の一戦、火竜山での戦いにおいて、一番強かったのはアシュラム卿だったのか? いや、一番強いという表現はやめよう(虎と鮫はどちらが強いか、というのはよく提示されるテーゼだ)。本当にこの勝負の鍵を握っていたのはアシュラム卿だったのか?
前回までの話で、既に結果は明らかだ。この闘いの趨勢を決したのは、アシュラムでもカシューでもない。
それは、魔竜シューティングスターである。
ファーンとベルド亡きロードス島において最強クラスの戦士が二人、それもマジックアイテムで全身を固め、部下や仲間を引き連れて闘い、なお辛くも勝つのが精一杯という、ロードス島最凶最悪の魔竜。それがシューティングスターである。
ソードワールドRPGにおいて「彼」がどれほど強いかは既に述べたとおりである。ロードス島戦記TRPGではデータがないので確認しようがないのが残念だが…(ルールブックに記載されたドラゴンとは、明らかにデータが違う。GMはシューティングスターについて「防御力が高いのでクリティカルヒットでしかダメージは与えられない」と言っている…あのカシューやアシュラムでさえ、だ!)。
では、D&Dならどうだろうか? D&Dならカシューやアシュラムは余裕でシューティングスターを倒せるのか?
結論は「極めて困難」である。
シューティングスターは「ヒュージレッドドラゴン」相当の強さを持つ、とする(魔竜とまで言われた存在が、スモールドラゴンやラージドラゴンのはずがないので)。公正さを期すために全て期待値で計算しても、一ラウンド目の攻撃でカシューのHPは1/4、アシュラムでさえ(夢の「魔法のスーツアーマー」をもってしても)1/2。次のラウンドの竜の息吹(ドラゴンブレス)で二人の息の根が止まる。仮にそれを逃れられても、次には牙/爪×2/尾/翼/体当たりという、恐怖の1ラウンド6回攻撃が待っているのだ。
二人がシューティングスターを倒すには、まず幸運が必要である。サプライズドアタック(不意討ち)とイニシアチブ(先制権)、どちらかをシューティングスターに取られるだけで、恐らく全滅する。先制で一吹きされれば、その場で立っていられるのはカシューとアシュラムの二人だけになるだろう。
次に部下たちの助力。特にスレイン、セシル、グローダーのマジックユーザートリオをどれだけうまく活用できるかにかかっている。
実は、火竜山の戦いにおいて最も重要なことは、魔竜シューティングスターに対していかにうまく立ち回れるかという点にある。カシューにとってもアシュラムにとっても、お互い相手より遥かに強大な相手が目の前にいるのだ。この魔竜との戦いでいかに体力を温存するか。勝敗を決めるのはここだ。
では、改めて二人を見てみよう。カシューは傭兵王と呼ばれるほどの歴戦の傭兵で、しかもその前は傭兵→剣闘士奴隷→冒険者である(典型的なサクセスストーリーだ)。仲間をうまく使い、体力の消費を抑え、最少の労力で敵を倒すことに賭けてはプロ中のプロだ。
逆にアシュラムはどうか。彼は暗黒の島マーモにいながら(自分を邪悪な人間と言いつつ)、徹頭徹尾騎士である(盗賊のようなことをしていたこともあるが、仲間に裏切られて「卑怯者!」とか言ってた(笑))。
もうお分かりだろう。アシュラムがカシューに敗北した理由。それは、魔竜との戦いで消耗しすぎていたせいなのだ(付け加えると、D&Dにはドラゴンブレスによるマジックアイテムの破壊ルールがある。強力なマジックアイテムで身を固めていたはずのアシュラムだが、シューティングスターのプレスを2回も食らえばボロボロだろう)。対して力を温存していたカシューは、アシュラムを倒すことができた…卑怯と言うなかれ。双方とも、シューティングスターを倒せば次に戦わねばならないことは知っていたのだから。
力量ではカシューを上回りながら、立ち回りが下手だったために負けたアシュラム。己を恥じて火口に身を投じたのもむべなるかな、である。
この戦いの結末は、その後の二人の運命を象徴的に表している。
カシュー王はロードス島を統一した。だが現実主義者である彼は、ベルドやアシュラムのように理想論を振り回して自分が王になろうとはせず、ロードス島の諸王国による連合を唱えてまとめ役に就く。…そして、ロードス島は完結し、一つの閉じた世界となった。
ベルドの抱いた理想を最後まで捨てられなかったアシュラム卿。彼は統一されたロードス島を追われた逃亡者たちの王となる。自分たちを拒絶する神々の大地にたどり着いた彼は、そこで民を助けるために自分の身を代償とし、完結した閉じた世界であったはずのクリスタニアに一石を投じる…。
まさにこの一戦が、二つの世界の運命を決めたのだ。
今日の科白。あまりにも有名だね、うん(笑)。
「陛下を返せ!」
「ピロテース…! ピロテース…我が肉体を滅ぼせ…!」
「…! できません、そんな…」
「ピロテース…我が魂を救え…!」
〜クリスタニア劇場版「はじまりの冒険者たち」より〜
2001年10月22日(月)
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