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夢の図書館新館

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-- 2004年09月27日(月) --

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『エドワード・バーナードの転落』

☆子供なりに、人生を考えた頃。

中学三年生の時ではなかったかと、思う。 国語の教科書にモームの『エドワード・バーナードの転落』が 取り上げられていた。 短編とはいえ、全文は載っておらず、 教科書の掲載小説のために、初めて本を買った。

父親の事業の失敗のため、財産のすべてを失った エドワード・バーナードは、新しい事業で身を立てるために、 シカゴを離れ、タヒチへと旅立つ。 二年間という期限が過ぎてもいっこうに帰ってくる気配を 見せない彼を心配し、気遣う婚約者イザベル。 イザベルの意を汲んでエドワードのもとを訪ねる親友のベイトマン。 結局エドワードは、タヒチの自然の中で、 かつて都会で見いだそうとしたのとは別の幸福に気づくのだが、 それをベイトマンは理解する事ができない。 立身出世競争から脱落し、身を落としたエドワードに 「かわいそうなエドワード」とかつての婚約者はため息をつく。

短編ということもあって、 私には珍しく、何度か読み返している。 初めて読んだ中学生の頃。 ほんとうに、ただの子供だった。 タヒチを離れシカゴに戻ろうとしないエドワードに、 君は人生で何を重んじるのかと、 ベイトマンが問いただすところがある。 まだまだほんの子供だった私にとって、 その答えは、とても魅力的に映った。 エドワードは、 「君は笑うだろうが、真、善、美だ」と答える。 精一杯の背伸びをしたい、ちょうどそんな頃だったので、 「真善美」という人生の価値観は、 とても新鮮で、そして十分に刺激的であった。

別にその「真善美」についてじっくりと語られるわけではないが、 私にとっては、何かの扉が開くきっかけになったような気がする。 解説によると、"少々作為が見えすぎているきらい"もあるそうだが、 皮肉の効いたそのわかりやすさが、子供にとって、 人生を考える第一歩としては、良かったのだろうとも思う。 短編であるから、無駄が無く、多すぎも少なすぎもしない。 ちょうどのバランスで、それでいて、印象的な風景の美しさは、 いつまでも心に残り続けている。 非常に映像的な一編である。

「美そのものだ」とアーノルド・ジャクソンが呟くように言った。 「こうやってまともに美と向かいあえるというのは、 めったにないことです。 よく見ておいて下さい、ハンター君、 いま君が見ておられるこの光景は、もう二度と見られないのです、 瞬間というのは過ぎ去ってゆくものですからね。 しかしそれは君の心の中で、決して朽ちることのない想い出となって 残るでしょう。いま君は、永遠の存在にふれておられるのだ」(P99より)

こうやって、大人になって読み返してみると、 ラストの皮肉な落ちを笑いながら、 自分自身についても考える。 エドワードはある種のヒーローだけれど、 ベイトマンは、気の毒なくらいごくごく普通の人だ。 エドワードが見いだした幸福・安寧には強く惹かれるが、 私はせいぜいが、ベイトマンで、 エドワードのようにはなれないと、 残念なような、それでいいと思うような。 ほんの少し、エドワード的エッセンスが、 人生にあれば、それで足りるだろう。

この短編は後の長編『剃刀の刃』の原形をなすものということなので、 是非とも絶版となっているこの本を読みたい。 本は絶版だが、映画化された作品の方はDVDで市販されている。 それを見るのも楽しみである。 しかし、映像には、私が強く惹かれている、 アーノルド・ジャクソンの言うような瞬間の永遠の美しさは 映し出せないだろうけど。 (シィアル)


『太平洋〜モーム短篇集供拊者:サマセット・モーム / 出版社:新潮文庫1959

2002年09月27日(金) 『リサ ニューヨークへいく』
2001年09月27日(木) 『ぬいぐるみの小さな小さなわんこたち・まめぐるみ』
2000年09月27日(水) 『私のスタイルを探して』

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