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夢の図書館新館

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-- 2003年08月22日(金) --

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☆宮崎アニメの中のゴーメンガースト。

作品が生まれてから半世紀、繰り返し物語の「型」が踏襲され、 幅広い裾野を持つ作品群の源流となった『指輪物語』と比較して、 『ゴーメンガースト』はいかなる追従も模倣も後継も不可能、 と言われて来ました。

ところが。『タイタス・グローン』を読み始めてほどなく、 私は見覚えのある場面に遭遇しました。 ごく小さな描写ですが、その印象は強烈です。 これは。あれではありませんか。あれ。ほら。 みなさんも御存じのあの場面。 その後も、次々と覚えのある描写が。 用いられる場面、状況、人物、心理はまるで異なっているというのに。

なんと。いたではありませんか、 『ゴーメンガースト』の衣鉢を継ぐ偉大な後継者。 日本人には好まれないと言われた作品の中のきらめくような描写を、 日本人が好む状況にはめ込んで、多くの人に愛される場面に蘇らせた 世界レベルの表現者、アニメーション作家・宮崎駿監督が。

作品のタッチは正反対と言えるほど異なっています。 緻密に描き込まれた線画や銅版画を思わせる(というより 実際ペン画イラストが本職の)ピークのシャープな作風と、 シンプルな線に明快な色彩が優しい宮崎セルアニメ。 しかし宮崎氏の直筆コミックスや詳細な絵コンテはスクリーントーンを ほとんど用いないペン画なので、共通点があるといえば言えます。

キャラクターも場面もあまりにも雰囲気がかけ離れているので、 ちょっと想像がつきにくいでしょうが、実際に読んでみたらすぐに 「あ!このシーンはあれ!」と思い至るはず。 ネタは明かせませんが、試しに宮崎アニメの中から、 ゴーメンガースト出身と思われるのものを少し挙げてみましょうか。 長たらしい小説は苦手という方でも、宮崎アニメファンならば ちょっと読んでみたくなるかもしれませんよ。

『未来少年コナン(TVシリーズ)』(1978) 「残された人々」という最終戦争後の世界を描いた原作がある作品ですが、 主人公の少年とヒロインの少女がそれぞれ持つ印象的な特技は、 『タイタス・グローン』の中のキャラA及びキャラBの特技です。 人間性を排した機械文明に対する嫌悪感は『タイタス・アローン』で ほのめかされたまま追及には至らなかった未完のイメージでしたが、 宮崎監督が引き継いで描いたと思えば、納得できる気分です。

『ルパン三世・カリオストロの城』(1979) 言うまでもないですね。当時は知る由もありませんでしたが、 舞台のカリオストロ城は、小さな仕掛から大きな見せ場まで元ネタを 彷佛とさせるのが楽しい小型ゴーメンガースト城になっていたのでした。 主要登場人物の名前も『タイタス・グローン』の某キャラ、中身は まるっきり違いますが。キャラAの行為をルパンが行っています。

『風の谷のナウシカ』(1984) ユパ様、ナウシカのある印象的な動作はまたもやキャラA・キャラBの ものです。宮崎監督って、キャラA・キャラBの「動き」だけが好きで 姿や性格は嫌いなの?本体の面影はかけらもありません。 少年タイタスが城を抜け出して入り浸るゴーメンガースト山の 森のイメージが舞台として登場。

『天空の城ラピュタ』(1986) 『未来少年コナン』とテイストが同じ作品なので、世界の雰囲気は 『タイタス・アローン』に近いです。 あれ、もしかして「あの人」ってキャラBの容姿と性格を少し継いで いるでしょうか。という事は宮崎監督、やっぱりキャラBは好きなのね。 主要登場人物の一人の名も『タイタス・アローン』がもとになっている ようです。 雲に閉ざされた天空の城ラピュタの、ある幻想的な風景は、 ゴーメンガースト城の驚くべき一部です。 すごいぞ、ゴーメンガーストは本当にあったんだ。

『紅の豚』(1992) なんと。『タイタス・アローン』のキャラCが実に理想的に映像化されている! 嬉しい、と勝手に思うのですが、どうでしょう。 飛行艇と過ぎ去りし青春。 彼等が『タイタス・アローン』の置き去りにされた脇役達の その後の姿だと思えば、とても幸せな気分になるのですが。

『もののけ姫』(1997) 宮崎監督の本命って、『ゴーメンガースト』のキャラDだったんですか。 そうか。それで「生きろ。そなたは美しい」なのか。 キャラDの衝撃的な「動き」と設定がまさに美しく再現されています。 己が身にかけられた呪縛を解くために異国を彷徨う若殿・アシタカは 性格も行動力もものすごく理想化したタイタスと言えなくもない(伯爵、許せ)。

『千と千尋の神隠し』(2001) 巨大な迷宮のようなお湯屋もまたゴーメンガースト城? 日々一心に自分の勤めを果たして城の底辺を支える従業員達の視点です。 主人公の千尋が正面から取り組んだような、こういった勤めを蹴って逃げ出したキャラAは、やっぱり宮崎監督からすれば受け入れられないんですね。

おそらく、宮崎監督は20年以上前に『タイタス・グローン』を読んで、 その行動には心から魅了されながら、パーソナリティーに問題のある キャラAを好ましくは思えなかったのでしょう。 子供は、素敵な行動をする人は素敵な人であって欲しいと思いますから、 子供達に見せる物語では、無垢な登場人物にこの行動をさせよう。 その他にも、子供達には読む事が出来ない物語の中の大好きな場面を、 宮崎監督はどうしても子供達にも見せてあげたいと思ったのではないでしょうか。

そして、他の表現手段全ての中で抜きん出て 「動き」の表現に優れているアニメーションという技法の中に、 宮崎監督は『ゴーメンガースト』の遺産をちりばめたのでした。 蜘蛛の巣に覆われ、梟に抱かれ、長い間人知れず闇に沈んでいた 宝石の数々は眠りから覚め、数多くの子供と大人が、 それと知らずその小さな宝石の輝きを心に刻んだのです。(ナルシア)


ゴーメンガースト三部作『タイタス・グローン』『ゴーメンガースト』『タイタス・アローン』 著者:マーヴィン・ピーク / 訳:浅羽莢子 / 出版社:創元推理文庫

2002年08月22日(木) 『幻の女』
2001年08月22日(水) 『黒と茶の幻想』

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