ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]

■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 14
 虚は全て消え、空間の歪みも消えて、広場には冷え冷えとした秋の風が吹き込んできた。



 乱菊の隊からは怪我人は数人出たものの、皆、命を失うことはなかった。乱菊は怪我人を先に帰らせ、残った数人で死体の検分を行う。斑の名簿と照らし合わせながら、人数を確認していた。この場で最高の地位を持つギンは全てを乱菊に任せ、一歩離れてその様子を眺めている。
 死体の確認は、顔を失った体ほど難しかった。乱菊はまず顔の残った死体を確認し、心中でそれが自分の友人でなかったことを複雑に思う。そして、頭部を失った死体を、名簿に記載されている特徴や、見知っている隊員の記憶から一人一人に選り分けていく。
「ここでは完全にできないのは仕方ないから」
 乱菊は眉をひそめて言う。
「とにかく、残っている全ての体を集めて。向こうに戻って四番隊に詳しい検死は任せることになるけど、全員を連れて帰らないとだめよ。人数だけは確実にして。全員を連れて帰るわよ」
 隊員は四方に散って、広場だけではなく茂みの奥や木立の向こうまで捜索に当たっている。死体は、おそらく握られて振り回されたのだろう。溶けて細くなった部分が千切れたようになって四方八方に散らばっていた。それを隊員がそっと拾い集めていく。
 目に見える範囲は全て探し、飛ばされたであろう範囲も探した。空はいつのまにか青く明るく、残酷なほどに爽やかな朝の光が赤黒く染まった地面を照らした。
 そして集められた死体は一人分足りなかった。
 乱菊は名簿を見て、無表情になった。ギンが音もなく背後に忍び寄り、名簿を覗き込んでも乱菊は微動だにしない。そしてギンは名簿を見てわずかに眉をひそめた。
「……他は全員いるのね」
「そう思われます」
 乱菊の問いに、隊員が頷く。乱菊は溜息をついて、逡巡する。その顔を見て、ギンがへらりと薄く笑った。
「……ボク残って探すさかい、皆はもう戻り」
「市丸副隊長?」
 乱菊は無表情のまま、問い返す。ギンは薄く薄く笑い、乱菊を見ることなく、隊員を振り返った。
「まだ見つかっとらん子はボクん同期やさかい、見つけてやりたいんよ。まあ、また虚が現れても大変やし、皆は戻って上に報告し。早うこの人らもあっちに帰してやりたいしなあ」
 ギンは布に包まれた死体に目を向ける。布には血が染み込み、赤黒く染まっていた。それを見て、乱菊は顔をしかめる。
「四席さんも、戻ってええんよ。君は班長やさかい、報告せなあかんのやし……探すの、辛いやろ」
「松本四席?」
 訝しげに尋ねる隊員に、代わりにギンが答えた。
「ボクと四席さんは同期なんよ」
 隊員達が黙り込む。乱菊は眉を寄せて、かすかな笑みを浮かべた。それを見て、隊員の一人が前に進み出る。
「松本班長」
「……何?」
「自分らは先にこいつら連れて帰って報告しますんで、班長はどうぞ事後調査をなさって下さい。上にもそう言います……いいなてめぇら! 先に帰ってこいつらに線香あげんぞ!」
 隊員達は皆、太い声で賛同を示す。乱菊は何も言わず、ただ微笑んで頭を下げた。隊員達は両手に死体を抱える。地獄蝶がどこからともなく黒い羽を朝の光に晒してひらひらと現れ、そして門が現れた。
「……よろしくね、あんた達」
「了解しやした」
 次々と死神が門の向こうに消えていき、門が閉じられた。
 そして門も消え、そこにはギンと乱菊だけが残された。





目次

06月17日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る