ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 15
しばらく、二人は何も言わず、動きもしなかった。乱菊は門が消えたあたりをぼんやりと眺めている。風が吹いた。ギンは、乱菊の腰まで伸びた山吹色の髪が背中で揺れるのを見ていた。血の染みた地面に光がこぼれ落ちる。
空は良く晴れていて、冬になる前の柔らかな日の光が降りそそいでいた。
「乱菊」
ギンは背中に声を掛けた。ゆるりと、やけにゆっくりと乱菊は振り向いて、そしてかすかに笑う。
「久しぶりね、そう呼ぶの…………ギン」
自分もまた久々に名を呼ばれ、ギンは柔らかく微笑んだ。
「もう、ここには誰もおらん」
「そうね。もう、誰もいないわ」
乱菊の笑みは日の光に消えてしまいそうで、ギンは眉を寄せる。
「探そ、乱菊。ボクこっち探すさかい、乱菊はあっちな」
あえて行動を示し、それでもギンは気遣わしげに手を伸ばすと、乱菊の頭を撫でた。乱菊は自分の中で何かが緩むのを感じて、俯いた。
「乱菊?」
ギンが背を屈めて覗き込む。乱菊は顔を上げて微笑んでみせた。
「大丈夫。探そう。もしかしたら怪我が酷くて動けないのかもしれない」
「……そうやね。探そ」
ギンはそっと乱菊の背中を押した。風に吹かれるように乱菊は前に進む。ギンは何度も振り返りながら、乱菊とは反対の方にある茂みにもぐっていった。
木立にはいると、枯葉が積み重なった土が軟らかく、草履がめり込んだ。秋も深まった林の中はどこか乾いていて、木々も草花も枯れた色をしている。かさかさと乾いた音をたててギンは茂みの間を覗き込んでいた。
背中ではずっと乱菊の霊圧を量りながら、ギンは真剣に探していた。ギンはあの友人が生きているとは思っていないし、できれば自分が彼女の遺体を見つけたいと思っていた。遺体が残されているならば、おそらく酷い損傷を受けているだろう。そんな友人の遺体が転がる様を、乱菊に見せたくはなかった。
しかし、長い時間が経って、乱菊の霊圧が乱れたのをギンは感じた。
舌打ちしてギンが駆け寄って見たものは、木の根本に座り込んで呆然とこちらを振り返る乱菊の姿だった。弱い風に山吹色の髪と唐紅のたすきがゆらゆらと揺れている。葉の殆ど落ちた枝々の間から射し込む光に、白い肌がますます白かった。
「乱菊?」
呼びかけても反応がない。近寄ると、乱菊が抱えている物が見えた。
二本の腕と、その先に握られた抜き身の刀だった。
ギンは乱菊の前に座り込む。乱菊がゆっくりとギンを見た。青い眼に自分の姿が映るのを見て、ギンは硝子玉のようだと思う。
「刀を、放さないのよ」
呟くように乱菊は言った。注意深く、ギンは先を促すように頷く。
「固く握っていて、どうしても刀を放してくれないの。必死だったのね。でももう、楽になってほしいのに」
ギンは二本の細い腕を見る。その先の小さな手は、おそらく死後硬直だけではない固さで斬魄刀の柄を握りしめていた。そして指先の爪を見てギンは溜息をついて顔をしかめた。一度、眼を閉じて、開ける。
歪んだ小さな爪は淡い紅色に染められていた。
ギンは手を伸ばしてその小さな歪んだ爪に触れる。表面ががたがたしたその爪は丁寧に磨かれていた。
ギンがその爪に指を伸ばしたのを見て、乱菊は微笑んだ。
「ギンも覚えていたのね」
「よう覚えとる」
「ギンは知ってた? あの子の、爪のこと」
「ちょろっと、弟の思い出やて」
「そう。やっぱり話してたわよね…………ギンのこと、好きだったから」
「……うん」
乱菊は俯いて、優しく血にまみれた腕を撫でた。俯いた拍子に肩から山吹色の髪が流れ落ちて、ギンはそれに手を伸ばしそうになり、止めた。乱菊はただ腕を撫でている。
「乱菊、手から刀外すで」
ギンは乱菊の両肩に手を置いた。
「外してやらんと、この子、いつまでも戦っとるままやないの」
乱菊が顔を上げた。その青い眼にようやく力が戻り、乱菊は抱えていた腕を地面に降ろす。
「そうね。早く外さないと」
ギンは頷くと、手が握っている刀を地面に横にして片膝で押さえた。乱菊が両手で腕を押さえる。それを確認して頷くと、ギンは固く握られた指に手を伸ばした。
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06月18日(日)
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