ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 8
 姉の方は首を傾げて着物に眼を近づけていたが、
「空鶴様は気にしないと思うわ。洗えって言われたら、そこで脱いで洗えばいいんじゃないかな」
と言った。空鶴の口調を思い出して、乱菊も頷いた。
 荷物をまとめて部屋の角に片づけ、乱菊と姉妹は並んで志波家に向かった。道々、一地区のことや志波家のことを姉が説明してくれた。志波家がもとは貴族だったことをきいて、乱菊は心底驚いた。今は花火師をしているという空鶴は、本来ならば姫だという。あの口調あの身なり。そしてあの屋敷。目の前に見えてきた、微妙な造形の屋敷を眺めて、乱菊は、人ってわからないと呟いた。ただ、自分が攫われたことを隠すようにしてくれていた空鶴を思い出し、実は細やかで優しい人なのだろうと考えた。
 微妙な見た目の番人に連れられて屋敷の奥に入ると、そこは広い畳の部屋で、突き当たりに空鶴が座っていた。
「今日は本当にありがとうございました」
「おう。試験はどうだった」
「受かっていればいいなと思います。あの、それでこのお借りした着物を返そうと」
「それ、俺にはもう小さいからやるよ。気にすんな。単に俺のお下がりだ」
 空鶴はにやりと笑うと、姉妹の方に向き直った。
「お前らはもう元気だな。でも今日はもう暗いから、泊まっていくか?」
「ありがとうございます。でも、ちゃんと帰れます」
「そうか。あの抜け死神達は処分されたらしいから安心しろよ」
 空鶴の言葉に乱菊の眼が揺れた。空鶴は乱菊をちらりと見る。
「乱菊。俺に詳しい情報は入ってこないが、とりあえず、死神以外には死人もなければ怪我人もないって聞いてるぜ」
「……ありがとうございます」
 乱菊は深々と頭を下げた。多分、あの抜けた死神達を処分、殺したのはギンだろうと乱菊は確信していた。あの血の量は、そうとしか思えなかった。そのことについて、何か咎められたのだろうか。それとももっと他に何か、あったのだろうか。乱菊は思い悩む。自分があまりに何も知らないことが辛かった。
 目を伏せる乱菊を空鶴は横目で眺めていたが、すぐに手を伸ばして乱菊の頭を乱暴に撫でた。
「お前、泊まっていくか? 発表は明日だろ?」
 気を回してくれているその言葉が乱菊にはありがたかった。しかし、空き家を思い出して、乱菊は首を横に振る。
「ありがとうございます。でも、すみません。泊まっていた小屋に戻ります」
「こっちには布団もあるぜ。なんか不都合でもあんのか?」
 乱菊は無言で、申し訳なさそうに微笑んだ。自分では気づいていなかったが、乱菊はもともと感情や考えを胸にしまい込む質だった。ギンと出会う前の暮らしがそうさせたのかもしれない。ギンだけが、乱菊の感情を掬い取り、たどたどしい言葉に耳を傾けた。乱菊が感情を吐露できるようになったのは、ギンと出会ってからだった。
 空鶴は、乱菊の様子に、ただにやりと笑う。
「まあいいか。いろいろあるよな。合格したら、多分寮に入れるはずだから、安心しろよ。中に入るとしばらく出られないけど、そのうちに報告に来い」
「はい……本当にありがとうございます」
 言葉に尽くせないほど感謝して、頭を下げて乱菊は屋敷を後にした。


 けれど、闇に沈む空き家にギンは帰ってこなかった。




目次

04月16日(日)
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