ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]

■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 7
 刀を鞘に収め、ギンは血溜まりの中でその男を迎え入れた。
 優雅に壊れた戸から入ってきたその男は、黒い上下の袴姿で、上に白い羽織を羽織っていた。癖はあるが整えられた焦げ茶色の髪の毛と、黒縁の眼鏡。この男は血の臭いのするこの場に似合わない、とギンは眺めていたが、ふと顔を上げてこちらを見た男の眼と眼があった瞬間、自分の考えていたことが間違っていたことを感覚的に知った。そして即座に、脳髄まで駆け上ってきた悪寒が、これまで出会ったこともない、自分より強い存在への恐怖であることを知らせた。
 男の眼は、どこまでも暗く濁っていた。
 ギンは、目の前の存在が自分に近く、けれど更に深い暗さを持っていることを察知した。畏怖。嫌悪。降伏。そして逃れ得ない引力。直感でギンは全てを理解した。その理解は表層に浮かぶことなく、ただ奥の奥からギンに警鐘を鳴らす。
「やあ」
 ギンの警戒に気づいているのか、いないのか、男は優しげに微笑んだ。そう微笑むと、あの底知れない暗さが掻き消える。その微笑みにギンは恐怖し、あえて笑みを浮かべた。
「すまなかったね、手間を取らせて。彼らは僕の部下だったんだよ。彼らが抜けたのは僕の不始末だから、ちょっと探していたんだけどね」
「探すの遅いわ、おっさん」
「ははは、ごめんよ。君が片づけてくれたんだね。先程の霊圧は君かい?」
 そこへ複数の霊圧が近づいてきた。男が後ろを振り向く。その背には五の文字が染め抜かれていた。
 男は、真っ黒の装束の集団を小屋の中に引き入れた。
「藍染隊長、申し訳ありません」
「何を言っているんだ。元は僕の不始末だ。君たちに手間を取らせてしまって本当に申し訳なかった。夜一君にも詫びておこう」
「こちらは、隊長が」
「やったんはボクや」
 男に何も言わせてはいけないように感じ、ギンは、彼にしては大きな声で明朗に言った。ギンの言葉に集団の眼がギンに向かう。ギンは沸き立つ恐怖を押し隠すように、完璧に皮肉な笑みを口元に浮かべる。
「ボク、巻き込まれただけや。もう帰ってええ?」
「できれば事情を伺いたいのだが」
 集団の一人がそう口にする。ギンは軽く顔を顰めた。
「やめてえな。ボク、これから用事あるんや。そんなんしてたら間に合わんわ」
「後から我々が事情を説明するから、用事を反古にしてはもらえないか」
「無理や。間に合わんと困るわ。生活かかってんぞ」
 ギンと集団のやりとりを聞いていた男は唇に拳をあてて考え込んでいたが、顔を上げてギンを見た。
「もしかして、君は今日の真央霊術院の入学試験を受けるのかな」
 ギンは何も答えなかった。できればここで逃げてしまいたかったからだ。しかし、男はギンの無表情な笑みを見て納得したような表情をする。
「当たり、かな? あの霊圧を遠くで察知したとき、僕は死神かと思ったくらいだ。来てみたら子供だろう? 驚いたよ」
 男が口元に笑みを浮かべた。
「こんな有望な少年を死神にしないわけにはいかないね。今日を逃すとまた一年試験は行われないし、例外はないからな。僕が試験会場まで送ろう」
「結構や。一人で行かれるわ」
「間に合わないよ。それに僕が都合をつけてあげられるから僕と一緒に行った方がいい。君達。この事件のことは、送る道々、僕が彼にいろいろと聞いておくよ。君達はここをよろしく頼む。それで構わないかい?」
「了解致しました。よろしくお願いします。少年を連れて行かれるのでしたら、護送用の馬がおりますのでそちらをご利用下さい」
「さすがにずっと抱えていくわけにもいかないか。ありがとう。一頭、借りていくよ」
 集団が一斉に男に向かって礼をする。男……藍染は、ギンに向かって微笑んだ。
「さあ、試験会場まで急ごうか」
 ギンの肌が粟立った。

 血のような朝焼けの空に向かって馬が駆ける。
 どうにも拒みきれなかったギンはせめてその視線から外れようと、前に乗れと言う藍染の申し出を断って彼の背中側にいた。
「振り落とされないようにしてくれよ。本当は僕の前にいた方が安全なんだけど」
「なんでおっさんに抱きかかえられなあかんのや。べっぴんさんならともかく」

[5]続きを読む

04月10日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る