ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 9-1
刀を振り下ろした男がもう一度ギンを斬ろうとしている。
ギンを。
もう一度ギンを。
男の刀を止めようと、距離も考えずに乱菊は腕を男に向かって伸ばす。
それは嫌。
「やめて!」
乱菊の全身が震え、それが腕に収束し、腕から火炎が放たれた。
ギンの横をごうと音をさせて飛んでいった炎が目の前の男の顔を包み込み、燃え上がる炎で瞬時に明るくなる。続けて絶叫が響き渡った。その異様さにその場にいた全員が炎に包まれる男を見、ギンは乱菊を振り返る。
乱菊は放心していた。
大きく見開かれた眼が燃える男を凝視している。
「……あかんわ」
ギンは燃える男に目をやる。そして地面をのたうち回って絶叫する男に近づくと、激しい炎を気にすることなく肩を押さえつけ首筋を斬り裂いた。鮮血が迸り、やがて男の動きは止まる。ただぱちぱちと燻るようにして男の体が燃え、嫌な臭いが立ち昇りはじめた。ギンは血を振り払って、刀を鞘に納める。
後ろの方で暴漢達の恐れるような叫び声がした。逃げる足音がばらばらとする。場がだんだんと静かになっていく。
「……奴をいなしてくれておおきに、乱菊」
ギンはゆっくりと乱菊に近づいた。死体の灯りに照らされた乱菊は、白い。
座り込んでいる乱菊の前で跪くと、ギンは乱菊の髪を手で梳いた。顔や手にかすり傷がある。左腕には打撲の痕がある。乱菊はそれを痛がる素振りもなく、ただ細かく震えている。ギンは歯噛みした。
「殺したんはボクやで」
乱菊は虚ろに首を横に振った。
「殺したんは、ボクや。乱菊」
ギンがゆっくりと繰り返すと、乱菊は顔をあげた。唇は細かく震え、肌は蒼白だが、涙が零れる眼の光はしっかりとしていてギンは驚く。
「あたし、ギンが斬られるのがいやだったの」
「……うん」
「止めようと思って、手を伸ばしたの」
「うん」
「力を飛ばそうとすら思う時間もなくて、ただやめてって思ったら、全身の力が腕から飛んでったのよ」
「うん」
「あの力で死なないはずがないわ」
「…………」
何も言えずにギンはただ乱菊の髪を梳く。髪はこの場に似つかわしくない、さらさらとした音をたてている。
「ありがとう、ギン。とどめを刺してくれて」
乱菊はじっと、揺らぐことなくギンを見つめている。伝わるだろうかと不安になりながら。
「でもね、あたしもギンを守るのよ。大丈夫よ。だって、ギンはそうやってあたしが殺した分を背負ってくれようとするじゃない。だからあたしは平気なのよ。ギンが死ぬくらいなら、相手を殺すわ」
「……うん」
ギンは細かく震え続ける乱菊の肩にそっと手を置いた。人を殺した衝撃に、まだ体は震えている。まだ涙は零れている。擦り傷だらけの腕に涙がこぼれ落ちても、洗いきるには傷が多すぎる。ギンは小さく呻いた。自分は、乱菊のこんな思いをさせたいわけではない。乱菊に傷を負わせたいわけではない。乱菊に守って欲しいわけではない。ただ乱菊に乱菊に。
そこに少し離れたところで転がっていた少女が乱菊にすがりつくようにしたかと思うと火がついたように泣き出した。泣きながら
「お姉ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい」
と謝っている。乱菊は少女の頭を撫でて、自分の方を向かせると、かろうじてではあるが微かに微笑んだ。
「おチビ、あんたが無事でよかった」
少女が少しだけ安心したように再び泣き出したのを見て、乱菊はその小さい頭を撫でた。そしてギンの方をそっと見る。
ギンの表情は何もかもを沈めてしまっていて何も読みとれない。ただ乱菊を見つめていて、目が合うと微笑むだけだ。乱菊は胸の内にいつかの不安がふつふつと沸き上がるのを止められない。ただ、自分の手で人を殺したという衝撃で、全ての力を出し切った疲労感で、その不安を突き止めることがどうしてもできなかった。
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01月27日(木)
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