ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 8
 その奇妙な集団に出会ったのは、地区の境目の傍にある集落の外れだった。
 基本的に住人が他の地区へ移動することは禁止されている。治安の差が大きいため、許可すれば人数のバランスが崩れてしまうからだ。しかし、そんな中でも移動する者がいる。一つは許可を受けた者。数少ない大道芸人や物品の運搬者などは許可をもって(許可証は体に刻まれる)それぞれの方角全ての地区を貫き中央まで伸びる路を通行できる。命の保証はされていないが、それぞれの意志で彼らは地区を巡る。
 もう一つは違法で動く者。地区の境目は特に見張られているわけではない。ただし、数字の大きい地区の境目は自然に存在する大きな森や河、崖などで区分けされており、霊力のあるなしにかかわらず移動にはかなりの危険を伴う。しかも問題は余所の地区に入った後にもある。中央に近い一桁の地区ならまだしも、八十から七十番台の地区で余所者とわかればほぼ確実に殺されるだろう。何かを奪うために、単なる暇つぶしに。もしくは管理者に密告されて、処分されるのを笑うために。それでも移動する者はいる。逃げるために生きるためにもしくは死ぬために。

 その集団は前者の集まりだった。変な格好をしていると思ったら大道芸人で、全員が額に奇妙な入れ墨をしていると思ったら、それが許可証だった。彼らは中央の方へ戻る途中だが、馬車が壊れたので数日間はここに滞在するという。人の多い集落の方へ行かずにいる彼らを警戒して、当初、ギンは乱菊を連れてどこかへ移動しようとした。しかし乱菊が彼らに興味を持ったうえ、話してみると人さらいでも略奪集団でもなく、単に騒がれるのが嫌で集落の外れにきたらギン達の住処の目の前で馬車が壊滅的に壊れたというだけだった。それでもギンはしばらく警戒していたが、大道芸人らしい妙な明るさに毒気を抜かれて、いざとなったらボクが乱菊抱えて逃げればええか、乱菊、楽しそうやし、と力を抜いた。
 踊り子の女性達にすっかり気に入られた乱菊が、両脇を囲まれて話をしている。乱菊の膝の上には拾われっ子だという幼い少女が乗っている。ギンは女性達の勢いに押されて少し離れてその光景を眺めていた。美人に囲まれても乱菊が一番きれいやなあ、とぼんやりしている。よく見ていると、直毛の二人は切れ長の一重の美人だが、微かに波打った黒髪をしている女は、乱菊が成長したらこんな風になるかもしれないと思わせる華やかな美人だ。それでも乱菊が一番綺麗や。ギンは自慢げに呟いた。

 乱菊は踊り子達にいろいろと尋ねている。
「どうしてこんな危ない地区までくるの? お金払う人もいないでしょ?」
「アタシ達、この地区の出身なのよ。ここの花街にいたの」
 踊り子の一人がウインクをしながら甘い声で話す。どうりでこんなに色っぽいはずだと、その色香に酔いそうになっていた乱菊は納得した。きわどい着物の裾からのぞく白いふくらはぎが眩しい。
「ただ辛くてね。あの頃は無愛想だったから人気がなかったし、そうすると酷い客しか買ってくれないからまたキッツイし」
「アンタはホントに無愛想だったわよねえ」
「アンタに言われたくありませんー」
 女達はそこで黄色い笑い声をあげた。乱菊はその明るさに驚く。自分はまだあの気色悪さを笑えない。でもそのうちにこんなに明るく笑い飛ばせるようになるのだろうか。
「しかも酷い客に付きまとわれて、毎日、金はマトモに払ってくれないのに殴る蹴るしかもやる、でさ。嗜好も最悪なのよ。縛る殴る蹴るいろいろ。毎日泣いていたら、見かねて女将さんが逃がしてくれたのよ」
「行商人に買われたって嘘ついて」
「あまり売れなかったアタシらも、仲良かったから一緒にさ」
「売れない三人娘だったからねえ」
 そして女達は笑いながら陽気に歌を歌う。乱菊はもう呆然としている。年を取ると言うことはこうやって辛いことを明るく話せるようになるということなのか。
「でも女だけで地区を移動するって、大変なんよ。うちら、力無いしね。お腹が空かないことが利点かな」
「七十七地区までなんとか移動できたけど、そこで襲われてもうだめーってときに、この大道芸人達に拾われたのよ」

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01月19日(水)
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