ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 12
「さすがにもう卒業したいわ、ボク」
「そうよねえ、おめでとう、市丸君」
ギンとスミレがのんびりと言葉を交わす。そしてギンはリンドウに振り返った。リンドウは静かに笑った。
「おめでとう、市丸君」
「おめでとうなあ」
ギンを見つめるリンドウの眼はとても静かで柔らかく、乱菊は切なくなってそっと目をそらした。見てはいけない、と少し思った。リンドウと二人で話した夜から一年半くらい経ったが、乱菊はリンドウから新しい恋の相手は聞いていない。
「そして入隊おめでとう」
「おおきに」
「隊長さんから認められたんでしょう。いきなり席官なんだもの。すごいわ。おめでとう」
リンドウは両手を合わせて小首を傾げて微笑んだ。ギンはただ笑みを浮かべて、
「まあ、どうなるんやろうねえ」
とだけ呟いた。リンドウが首を傾げる。ギンもまた首を傾げ、一緒に微笑んで見せた。
そしてゆっくりとギンが乱菊を振り向いた。乱菊は眼を細めてギンを見つめる。ギンはどこか遠くを見るようにしてこちらを見ていて、おそらく自分も同じ眼をしているだろうと乱菊は思った。
「おめでと、ギン」
「おめでとうなあ、級長さん」
風が吹いて、二人の髪を揺らした。ギンが眩しそうに笑う。
「髪、伸びたなあ」
「そうね。切ってないだけなんだけどね」
「似合うてはるよ……ホンマ、ずっと見てみたい思うてた」
ギンの、本当に小さく小さく、ともすれば風の音に掻き消されそうな呟きに、乱菊は遠い昔にギンから言われたことを思い出す。笑みが口元からこぼれ、乱菊は艶やかに微笑んだ。
「これからもこんな髪型よ。残念ながらお別れでもないんだから、そんな神妙な顔で言わないでよ」
ギンがきょとんとして、そしてにやりと笑った。
「そうやねえ……級長さんも入隊しはったしなあ。ちょい離れとるけど、まあ会うこともあるやろねえ」
「そ。残念ながら会うこともあるでしょうよ」
目を合わせ、二人は微笑んだ。そのとき一陣の風が吹き、勢いよく通り過ぎていく。制服の裾や袖がはためき、髪が舞い踊った。桜の花びらが青い空へ巻き上げられた。
「ほら、見て」
スミレが見上げて嬉しそうに言った。皆、つられて空を見上げる。
舞い上げられた淡い桜の花びらが、はらはらとふってきた。
その向こうには高い深い青空が、ただそこにあった。
そして何年も過ぎた。
何十年も過ぎていった。
時間は残酷なくらいに正確に大河となって流れゆき、その大きな流れは何もかも飲み込んでいく。
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06月15日(木)
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