ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 9-2
 ギンの怒りをさらりと流し、団長は淡々と乾いた声で言った。
「わしが言うのは、こいつはこの世界に必要ない、なんてことは誰にも言えないじゃろってことなんじゃよ。言えるとしたら、どこにおわすのか分からない神様だけじゃ。そしてお前さんは神じゃない。わしらも神じゃない。わしらも、あの強盗も、同じ人間ってだけじゃ。同じ人同士で、そんな正義は振り回すもんじゃなかろうよ」
 団長は倒木に腰掛けると、懐から煙草を取り出して煙管に詰めた。携帯用の火打ち石で火を付けると、煙を吐き出す。独特の匂いがギンの鼻腔に入り、ギンの憤りを鎮めようとする。ギンの目の前で揺れる煙が、木々の間をすり抜けて薄れて消えてゆく。
「あんな奴らも人として存在しとる。それはつまり、神様はそうしたってことじゃ。人のことを、人じゃないって考えちゃあ、いかんと思うがの。殺すときには、ちゃんと人として殺してやらにゃあいかん。自分は人を殺していることを自覚しなきゃならん」
「……ようわからんわ。ボク、善悪なんぞ関係ない。善いことしよとも思わん。正義なんぞあっても腹も膨れんわ。ただ目の前の奴が邪魔なら潰すだけや」
「虫けらのようにか」
「あんな奴ら、虫や」
「でも嬢ちゃんはそう考えとらんよ」
「……知っとるわ」
 ギンは奥歯を噛みしめた。
「そやさかい、ボクやってなるたけ潰さんようにしてるんや。ボク浴びた血ぃ、半分こする言うさかいに……乱菊を汚すわけにいかんのに……ボクんせいで乱菊に潰させてしもうた」
「嬢ちゃんは、お前さんと違って『人を殺した』ことを知っとるよ。だから次からこれまで以上に殺さないようにするじゃろう。お前さんは違う。お前さんは虫を殺しているだけじゃろ。それだと、いつまで経っても人を殺さなくはならんじゃろうのう」
「…………」
「全て半分こ、か。なかなか言えんわ。かわいいのう。ええ子じゃのう。お前さんは果報者じゃの」
 ギンは何も言えなかった。口の中でぎりぎりと歯の軋む音がする。知っている。そんなことはよく知っている。乱菊と出会ってもうすぐ一年。自分の世界は乱菊が全てになった。きれいな優しい、柔らかい世界。ただ自分だけが変わらない。自分だけが血塗れのまま、腐臭がする。
 湿った、むっとする草いきれ。何か香草が入っているのだろう、胸に染み渡る煙。暗いくらい、星の光も届かない森の中。あまりにも研ぎ澄まされて、ギンは自分の体から立ち上る血の臭いに気づかされる。
「わしらがよけいに殺さないのは、人を殺すのが嫌なだけじゃ。世の中とか、会ったこともない知らん人のことは関係ない。善悪もどうでもいい。自分達が人の命をあまり背負いたくないだけじゃ。自分が奪われたくないから、奪わない。あまりに多くの血を流していると、その血に足を取られて転ぶことになるしの」
 団長は煙草の灰をぽんと落とすと、足で踏み潰して火を完全に消して、立ち上がる。
「嬢ちゃんを抱えたまま転んじゃいかんよ。奴らから話は聞いた。わしらと一緒に行くのは構わんよ。働いてもらえれば、わしらは構わない。……もう戻るか。嬢ちゃんが心配してるだろうしの」
 ギンはのろのろと立ち上がり、足取りの軽い団長の後をついていく。これまで自分が殺した死体から流れ出る血は、既に足を取られて転ぶくらいにはあるのではないかと思いつつ。




目次

02月01日(火)
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