僕らの日常
 mirin



  発熱@宇宙

『そろそろ起きる時間だろ?』

部屋にバイト帰りの兄の声が響く、そろそろの登校時間。

『・・・今、起きる・・から』

夕刻。いつも起き出して、学校へ行く時間の筈
でも、今日は体がだるくて何をする気にもならなかった。

"何か、動きにくい"

頭がぼうっとして、身体に少しの力も入ってくれなくて
薄れていく意識の中、また布団に顔を埋めてしまう・・・

住み馴れた筈の静寂が支配する夜の部屋
いつも、この時間は家にいないせいか
どこか別の場所のように感じてしまう…。

「起きた?大丈夫?」
「・・うん、平気。あの・・母さんに」
「電話?…してないよ。宇宙そういうの嫌がるから
本当なら知らせるべきなんだろうけど」

額の濡れタオルを変えに来たらしい、明兄は横に座って
心配そうに僕を見下ろして言う、最後の言葉は自分自身に
言い聞かせているようにも聞えた。

「宇宙!」ガコンッーーー

けたたましい騒音とともに開いた僕の部屋
そこには騒音を起こした張本人が立っている。

「もう少し静かに開けなよ、足使ったろ?今」
「あ・・・悪ぃ。勢いづいたから、つい」

足でドア蹴破るっていうのはどういう勢いなんだろう…
はぁ...と軽く息をついた明兄は今帰ってきたばかりの
卓兄を部屋の外に追いやって、

「おかゆ作ってるから、それまで寝てなね」

そう言うと、静かにそっとドアを閉めた。

"ほら!帰ってきたら、手ぇ洗う!"
"明兄…お前、だんだん○○化してきたな"
"何、何か言った?聞えなかったけど"

熱のせいで、静か過ぎる部屋で不安になった
でも、もう平気。これだけ、騒がしいと
独りじゃないことを痛感できるから・・・

扉の向こうで、繰り返される声を聞きながら目を閉じた。

2002年05月20日(月)



  その声が@晴臣

「晴、いけっ!ダンクッ!!」
「んなのっ、出来ないよっっっ」

標準より、身長の低い自分にそんなもの出来る筈もなく
ボクはいつものようにジャンプシュートを決めた。
と、同時に笛の音が響いて、ゲームはボクらの勝ち
仲間が駆けよって来る、一人はボクの肩に纏わりついて
もう一人、宇宙は片手を高く上げてボクの手と合わせた。

"パチン"

正直に楽しいと思う。今は夜だから、昼間ほど暑くなくて
少し冷えるくらいだけど、こうして体動かしていれば幾分
あたたまってもくるし

「晴臣ジャンプ力また上がったんじゃない?」
「え…。そ、かな?わかんない、そんな意識してないし」
「へー、無意識かぁ。スゲーじゃんか、ハル!」
「ありがとっ。このまま、明日も連勝するよっ」

ただ少し軽く誉められただけなのに、それがただ嬉しくて
調子に乗って、そんなことを言ったら、隣のクラスの生徒に
睨まれた。そういえば、明日はA組と対戦するんだっけ・・・。

「ま、ま。お互い、そんな挑発してないで、お手柔らかに」

そんな空気を読んだのか宇宙が間に入って仲裁してくれた。
キミの声はいつも不思議、少年特有の変声期前の高い声で
ボクらと何ら変わらないはずなのに、聞くと落ち付けて、
いつもすぐ近くに居る、ボクはなんか得してる気になる。

2002年05月21日(火)



  時間よ止まれ@鳥羽

"時間よ止まれ"

思ったこと、今まで何回あっただろう。
小さい時、以来かもしれない・・・
こんなに時間を貴重だと思ったのは・・・

廊下に響く、チャイムの音にぼくは足を止める。次の
授業は生物で「人体の構造」だとか。思い出したら、
なんとなくやる気をそがれ、元来た廊下を引き返した。

"身体を動かすには、脳からの指令を受けて〜"

黒板の1スペースも使わない、この授業はまるで抗議。
聞いていると欠伸の一つも出てしまうから、今日は
サボりと決め込んで、先程まで居た図書室に戻った。
読んだまま、机に置いておいたの筈の本が消えていた。

「サボり?」

どこからともなく聞えた声に疑問マークを一つつけて
周囲を見渡す、誰も居ない?じゃ、今の声は何?そう
思っていたら、"上"と声が聞こえて、少年がハシゴの
上から降りてきた。・・・あの金色をなびかせながら…

「・・・。」
「受け取ってよ。探してたのこれでしょ?」

彼は小脇に抱えた本をぼくに向かって差し出す、ぼくが
ただ呆然としているのを見て、彼はその本を押しやった。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして。でもさ、次来るからっていっても
読んだ後はちゃんと棚に戻さないと貸し出し禁止になるよ」
「・・・ごめん・・・今度から気をつけるから」
「"今日"から、気をつけてね」

彼は今日を強調して言うと少しくすりと笑う、憧れていた
人がすぐ近くにいて、自然と顔が火照るのがわかった。

2002年05月22日(水)



  フィルター@宇宙

透明な薄いレンズが白く曇る、僕から見る視界は世界に
1枚の白いフィルターをかけ、一線を引いていた。

「おはよー」
「おぉ。おは・・・」

たまにある、こんな朝も日常茶飯事だから、何も言わない。
驚き絶句で、互いの顔を見合わせるクラスメイトを背にして
僕は陽の当らない日陰側の廊下を突っ切った。

そこかしこにあるカーテンは化学実験の授業に使う暗幕で、
見事に日光を遮断している。ちょっと、つまらないなとか
思ったけど贅沢なことは言ってられない。
たまにカーテンを捲りたい衝動にかられるけど、ヘタに騒ぎ
を起こしたくないから、今日もただ裾を掴んでみただけ…

化学の授業にはまだ時間もあるし、そう思って僕は小走りに
美術室へと向かっている、日が射す方向とは逆で丁度、
四角となっている、あの場所は、前から結構好きだった。

「あ、あった。晴臣達の絵」

午前中の授業で描いて、乾かしている最中の絵を見渡して
僕は晴臣の絵を見つけた、郊外学習で出た時に描いたらしい
その絵の塗り方は彼の癖が出ていて、人一倍わかりやすい。

ガラッッッ__

絵の鑑賞なんかをはじめていると、美術室の扉が開き、
生徒が1人入ってきた。・・・顔見知りというか・・・
あの夜の奏者のお友達サン



2002年05月23日(木)



  フィルター2@暁生

げ。

ドアを開けた瞬間、そのまま速効で閉めて帰りたい衝動に
かられた。普通に出したはずの2歩目の右足が妙に重くて
一瞬、スローモーションでもかかったような気がした。

俺のすぐ目の前に見えるのは、いつも鳥羽が言っている。
月色の髪…なんで、昼間に居るんだ!?喉まで出かかった
声をなんとか飲み込んで俺はなるべく見ないようにした。

カタン...

席を立つ音がして、邪魔になるとか思ったのか、そいつは
俺を背にしてそのまま扉へと向かう。そのすれ違いざまに
夜いつも見る印象とどこか違う感じがするのに気づいた。
別に鳥羽じゃないけど、妙に気になった。だから・・・

「お前、あの時、何で怒らなかったんだ」
「・・?・・・ぁぁ...怒る理由ないでしょ?」

唐突に話しかけた俺を振りかえり、一瞬だけ、怪訝そうな
顔をすると、「ぁぁ」と思い出したように声を出し言った。

「今日みたいな例外がないと、僕本当に夜しか来ないし」
「例外?」
「そそ。自由参加の化学の実験、アレ夜はやらないから」

そういえば、今日は校内のいたる所に暗幕が貼られてたな
ふと思い出したら、自然とそいつから目をそらせていた。

「それとも、怒った方が良かった。かな」

クス...小さく笑った声が微かに聞え、俺の眉間にしわが寄る
人が他人のことを気にして言ってやったっていうのに、その
対応はないだろ?そう思って、キッとそいつの顔を直視して
気づく・・・銀色フレームの薄いレンズのメガネ。

「メガネ?」
「気づかなかったんだ」

レンズの向こうから見える目が明かに笑っていた。呆れとか
変だとか、そういうものじゃなくて、ただ面白がって笑った。

・・・でも、たしかこいつの視力は、2.5と馬鹿高い数字を
叩き出したことがあると、同級の生徒達が騒いでたような。

2002年05月24日(金)



  この存在@終司

暗い視界、漆黒色の獣がオレの手から溢れ出した。

『      』

・・・やめろ。
赤い液体をそこら中に撒き散らし獣は、人は食い荒す

『      』

オレのせいじゃない。オレがやったんじゃ
人が泣き喚き、お前のせいだ殺してしまえと叫びだす

『・・ゅ・・ぅ』

・・・一瞬、誰かに呼ばれた気がした。
この闇から、オレの救世主・・・また、あの時と同じ
あいつの声と手がまたここから救い出してくれるんだ。

「柊ッ!」

右の耳に衝撃。肩を揺すぶられて目を開けると、
そこはいつもの図書室だった、隣には呆れた様な不安
そうな、複雑な表情をしたあいつが立っていた。

「やっと起きた。もう5限目始まっちゃったよ」
「・・・・夢、か」
「柊、どんな夢だった?何か、うなされてたけど」

肩に置かれたままの手から伝わる体温にオレの意識は
覚醒していった。

「最初は、悪夢だったな。」
「最初だけ」
「あぁ...」
「ふーん...どうする、今から遅れてく?」
「冗談」
「だね。じゃ、また散策にでも行くとしますか」

宇宙は、あまり人に多くを聞かない。必要だろう情報
それだけを容易く選び出して、それが人にとって何か
重いものだろうと、自然に口に出す。

カタン...

オレは椅子から立ちあがると、いつもの様にあいつの
夜の学校散策に付合った。

2002年05月25日(土)



  PEACE@晴臣

バニラタイプの香料が使用されて独特な濃い
味わい、口当たりはクリーミーでまろやかである。

『ッ...ゲホッ、何コレ・・・キツっ』

そんな人を魅きつける宣伝文句とは裏腹に頭の中まで
くらくらする程キツイこの煙草は一時期生徒達の間で
流行ったことがある。咳き込みながら馴れぬ手つきで
煙草を吸う生徒達とその様を傍観してみつめる生徒達。

ちなみにボクはどちらかと言えば傍観方だ。だけど、
煙草の匂いと煙が鬱陶しく思えて、近くで見てるのも
嫌ですぐその場から、姿を消していた。だから・・・

"吸うのは嫌だけど、匂いは好き"

そう言って、笑うキミを見て同じじゃない事が寂しく
思えた。あの貴公子様でさえ煙草の存在自体が嫌い
だと言うのに、だから、意外だね。って言ったら

"明兄達がたまに吸ってるから"

すぐ傍に愛煙家が居たら、ボクも彼同様にこの匂いに
馴れていたかもしれない、少なくともあと何年後か、
彼も2人の兄同様に吸い始めるんだろう・・・
この先の未来でも、キミの隣を歩けるなら少しくらい
馴れてもいいと思えた。(かもしれない)

2002年05月26日(日)
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