デイドリーム ビリーバー
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2002年10月18日(金) オレンジ

平日の朝。仕事は、二人とも休み。

早く起きるつもりだったのに、結局、彼からの電話で目を覚ました。
起こされといて、なんなんだけど、できればもう少し早く起こして欲しかった。
なんで10時なのよ。

そりゃ、電話があるまでぐーすか寝ていた私が悪いんだけど。

しかも、何時に起きたの?ってきいたら「8時ぐらいかな」って、どういうこと!
新聞読んで、朝ごはん食べて、株式ニュース見る時間あるなら、電話しろよ!
計画がパーじゃん!

それに、そのまま寝ぼけたままで会話して、電話切ってしまったから、
デートの行き先、いつのまにか勝手に決められてしまっていた。
そりゃ、私の誕生日が近いから、プレゼント見に行きたいという気持ちは
嬉しいし、ありがたいけど
私は、プレゼントなんか、数週間遅れてもよかったのに。

平日フリータイムを、一番お得に使おうと思ったら10時じゃ遅い。
仲直りの後の平日デートは、絶対、平日フリータイム!
と思っていた私は、やらしいですか。

ああ、寝ぼけてさえいなかったら
「もっと早く起こしてよー!フリータイム間に合わないじゃん」
ぐらい、言ったのに。
で、「うわ、やらしー」とか、散々言われるの我慢したら
「じゃあ、これから急いで迎えにいくな」って言ってもらっていたのに!

待ち合わせがいつもの駅じゃ、ホテルデートは絶望的!
がーん!



一般人が働いている時間のデートは、街も店もすいていて、いい。
だからこそ、プレゼント選びで歩き回ることにもなったし。

でも私は、一日もんもんもんもん。
そうです。今日は、私、やらしいんです。

しかも「仲直りだね」みたいなことを、ちらっと言ってみたら、彼は
「へっ?ケンカなんかしたっけ?」

いや、ケンカっていうほどのことでもないけど。
ちょっと気まずかったじゃないですか。私達、今月始めあたり。

もちろん、前のデートの帰り際いろいろ話して、もやもやは消えたけど。
だけど、その後も、疲れて寝てしまって電話できなかったりっていうのが続いて
ほとんどしゃべってないじゃないですか。
私はそれが結構、せつなかったりしていたんだけど。
だから、今日のデートは、すっごくすっごく楽しみだったし。
(絶対、平日フリータイム!とも思っていたし)

彼は、「あんなん、ケンカに入らんやろ」と、さらっと
ほんとに、さらっと、言った。それで、もう次の話題にうつっていた。
ワザととかじゃなくて、ほんとに、たいした事ないって思っているのがわかった。

そりゃ、深刻になられても困るけど。

私は、とってもせつない気持ちなので
それを受け止めてくれないとさー。こうも軽く流されちゃうとさー。

妄想が、こう、むくむくむく…。



このとき、私が考えたことは

あっそー。そりゃあ、前の彼女とは、いっぱいケンカしたんだもんねえ!
どうせ、私はまだ、ケンカさえもしていませんよーだ。切ない思いとか
悲しい思いとかしたのよね!そんで、怒ったり泣いたりしてたのよね!
濃いー恋愛、してたのよね!ああ、そーですか!そーですか!くそ!

言いたいけど、彼女のこと思い出して欲しくないから言えないし

暴走した私は、彼の残り少ないアイスティーに
私が使わなかったガムシロを、全部入れてやりました。缶詰のシロップみたいな
すごい味になっていたようだけど、食べ物を残すことのできない人なので
ちゃんと最後まで飲んでいました。
そのあとも、むしゃくしゃするので、何かにつけて、彼の背中をたたいてみたり
鞄をぶんどってみたり。彼が私のプレゼントに、「これは?」って
手にとろうとした商品を、一瞬早くかすめとったり。

「どうしたん?」ってきくから
「ケンカ!売ってんの!」と言ったら
「ケンカしたいん?」って、おかしそうに、くすくす笑った。
くそー。わかってない、この男は。私がどんなにむしゃくしゃしてるか。



そのうち、「のど乾かん?」って、彼が自販機の前で立ち止まった。
私は、ざっと確認して「100%のオレンジがない!」って怒った。

「オレンジが飲みたいの?」
「絶対オレンジ!あ、あっちの自販機は?」って
地下街からつながる古いビルの中、廊下の突き当たりまで彼を引っ張っていった。
私が飲み物ごときで駄々をこねるなんて、多分はじめてだから
彼は、不思議半分、おもしろ半分みたいな顔でついてきた。

人気のない、薄暗いビルの、自販機のぼうっとした光のまえで
飲みたくもないオレンジジュースを一気飲みして
「おっ何だ?あの階段は!」
って、また近くの階段まで、また彼をひっぱってった。
「普通の階段やろ。そんなとこ、勝手に入っていいんか?」
「いーの!探検、探検」

薄暗い踊り場までひっぱっていったら、さすがに
「ミエミエ」って、笑われて
壁におさえつけられて、すごくやらしいキスをされた。

ていうか、してもらった?



途中、階段の下で人の気配がした。
彼の肩越しに、学生らしい男の子が覗いているのが見えたけど
それから時間の感覚がおかしくなってしまったので

「見るなら見ろよ」って思ったのが
キスの前半だったのか、後半だったのか

今となってはわからない。


2002年10月08日(火) 不安だったのは彼のほう

2日に1度の電話を、気まずいままに消化するだけの一週間。

彼から、定期的にきちんと電話が来ることが、救いだった。
私だったら、楽しく話せないのわかっていて、自分からかけたりできない。

最初のうちは、体に力が入らないし、
毎日、抜け殻みたいになったりしていたんだけど

そのうち、どうしてこんなに気まずいのか、だんだんわからなくなってきた。


そもそも私は、確かに働くの好きだけど、何が何でも共稼ぎとか
思っているわけでもないのだ。子供が生まれるとか、いろいろな事情によって
その時その時で、ベストな道を選べばいいと思っているし。
彼だって、何が何でも家にいろと、高圧的に言っているわけでもない。

ていうか、その前にまず、肝心の結婚の約束すらしてないし。
いったい何年後のことを想像して、今から落ち込んでたんだ?私。

理想どおりなんてつまらない。
未来は、これから二人で、つくっていくんじゃなかったの?
それこそが、私の大好きな「冒険」じゃないの?

強さだとか弱さだとか、安定だとか、たたかうだとか
うすっぺらなことを色々と言って、要するに
「あいつも、男とつきあうようになって、つまんねえやつになったなあ」
って思われたくないだけの話で。
で、誰に、そう思われたくないのか、と言ったら、特に誰の名前も
具体的に思い浮かんだりはしないのだ。

つまんない人間になるかどうか、つまんない未来になるかどうか
は、結局、自分次第。

…あれ?

失敗した→生きる価値がない とか
失恋した→もう誰も好きにならない とか、そう言う友達に
「それは違うでしょ」って思っていた私が、なんで

彼とちょっと気まずい→一人で生きていくべき
なんて、極論に行き着くんだ。

ネガティブな思考にはまるには、いくつかのパターンがあって
その代表的な一つが「極論に走る」ってやつだと、よーく理解していた
はずなのに、私はまたやらかしてしまったらしい。



しかし、どうして今回、こんなに気まずくなってしまったんだろう。
なんか、おかしい。
そう考えて、ふと、
今までは、私が多少落ちても、彼が冗談を言ったりして
笑って受け止めてくれていたことに気がついた。
今回はそれがなかったんだ。

友達だった頃は、彼も、いろいろな悩みを私に相談していたのに
つきあいだしてからは、あまりそういうことを言わなくなった。
いつだったか、それを彼に指摘したら
「俺は強くなったんや」とか、意味不明なことを言っていた。

「友達としての私」をなくしたのは、彼も一緒だったのかもしれない。
恋人だからこそ、言い辛くなってしまったこと
吐けなくなってしまった弱音が、きっといっぱいある。

そして、それは多分、彼の夢のことだと思う。



彼には夢がある。
そのために、8年付き合った彼女と別れてしまった。
彼の希望は簡単に叶うものでもないし、すぐに生活が安定するものでもない。
サラリーマンをこのまま続けて、実家に近いこの町で、結婚して欲しい
という彼女と、話し合いがつかなくて、途中別れたけどまたつきあって
それでもやっぱり最後の1年は、ケンカが絶えなかったという。
(これは、友達だった頃に聞いた話だから、あながちウソでもないと思う)

ちなみに、その最後の2週間ぐらいが、私とかぶっている。
まあ、実際につきあってくださいと言われたのは、別れた後だし、
とめられなくてキスしてしまってから、別れるまでの2週間も
何があったわけでもないんだけど。



一週間ぶりに会って、きりだしてみたら
やっぱり、不安だったのは彼のほうだった。

将来的に住む土地として、いくつか候補があがっていて
でも私が転職したばっかりだし、仕事楽しそうだし、更に転勤もありうるとかいっていて、
うまく言いだせなかったみたい。

どうりで、妙に、私を縛るみたいなことを言ってごねていたわけだ。
まわりくどいこと言ってないで、
ついてきてほしいならついてきてほしいって、言えばいいのに。

「広島」「北海道」「沖縄」「長崎」
私の顔色をうかがうように、ひとつひとつ地名を言うのがおかしくって
くすくす笑っていたら
「それに、国内とは限らんねんで」
って脅すように、また、いくつかの国名を言った。
「慣れへん土地で、友達もおらんねんで」
って、私、卒業してから、いくつの町を一人で転々としてきたと思ってんの。

「いいよ」って笑いながら言ったら、彼はますます真剣な顔をして
「それに俺なんかと一緒におったら、いつ結婚できるかわからんし
 収入安定せーへんし、将来テント暮らしかもしれんねんで!」
「ふたりだったらきっと楽しいよ。魚釣って焼いたりしようよ」
本当にそう思ったから、そう言ったら
「そんなことさせるわけないやろ!」って、逆に怒られた。

わあ、この人混乱してるって思ったら
しかもその混乱の原因が、私を必要としてくれているからだってわかったから
なんか、ほんとに、だんだんおかしくなってきた。
一緒にいる未来のことを、話してくれるのがこんなに嬉しいって
どうしてわからないんだろう。

そう思ったら、自然と言ってしまっていた。

「私は、あなたの行くところなら、どこへでもついて行く」



まさか私が、こんなベタなことを口にするなんて、一年前までは思いもしなかった。
だけど、ストンと当たり前のように、このとき、私は言っていた。

今までいっぱいしてきた失敗も、無駄じゃないと思った。
職を何度か変えたことも、何しても食べていける自信に繋がったし
いっぱい転んで、いっぱい傷つくって
「彼についていくことのできる強さ」を、手にしたんだと思った。

彼は、小さい声で「ごめん」と言って
私が笑いながら「どうしてあやまるの」って言ったら
私をぎゅっと抱きしめて、「ありがとう」って言った。そして少し泣いた。

そう言えば、つきあう、つきあわないの頃も
こんなふうに何度か泣いていたなあって思い出した。
本当は泣き虫な(私も負けてないけど)この人を
いつのまにか、随分と無理させてしまっていたかもしれない。



言いたい事を言ってしまった彼は、またいつもの、エロ関西人に戻ってしまった。
どれぐらい低レベルかと言うと、本屋に入るなり私にささやくのだ。
「おっぱいがいっぱいやな!」
「はぁ?」
「一人2個の五十人として、おっぱい百個はあるねんで。この本屋」
「はー?」

もうほんと、なんとかしてください。さっき泣いたカラスが、じゃないけど。
私のさっきの、あのセリフは、ちゃんと頭の中に留まっているんでしょうか。
心配です。


2002年10月02日(水) ダメ人間

私は、ダメ人間だ。本当に、ダメダメダメダメ人間だ。
きっと向いてないんだ。恋愛とか結婚とかそういう
一人の人と、密に関係をつむぎ合うことに。


彼を好きになって、はじめて
愛し愛される、あったかいふつうの幸せを、望んだりもした。
結婚したいとか、定住して、子供を生んで、老いても仲良く、とか。

だけど、私にはやっぱり無理なのかもしれない。向いてないのかもしれない。
私は、本当は、そんなの望んでないのかもしれない。


しばらく音信不通だった男友達から、スカイダイビングに誘われた。
以前なら、絶対飛びついたのに
「事故にあったら彼が悲しむだろう」とか「彼と離れるのいやだ」とか
「男友達を頼って外国に一人で行くなんて、彼はいやだろう」とか
そんなふうに思って、断ってしまった。そんな自分にびっくりした。

人って、大切な人がいると、安定を望むものなの?
大人になるってそういうこと?人を愛するってそういうこと?
わかんないよ。


夜、散歩した。
駅から出てきた大学生らしい男の子が、携帯に
「今、駅着いたんすけど、どっち行ったらいいんすかー?
 え?今っすかー?信号の前の、きれいなおね−サンの隣でーす」
なんて、一緒に信号待ちしていた私に、ニッて笑いながら言うから
思わず、プッって吹き出してしまって
(ちなみに私は決してきれいなおね−サンではないです。)
ふふふー、きれいなおね−サンだってーって
半分からかわれただけって、わかっていても、嬉しかった。

その帰り道、後ろからきた自転車の人に、おしり、ぺろんって触られて
私は別にいいけど(いやよくないけど)これが思春期の傷つきやすい
女の子だったりしたら、どうするつもりなんだ、そうだこれはやっぱり
社会のためにも、なんて思って
道端の空き缶、投げつけてやろうかと思ったのに、その瞬間
「刺されたりしたら彼が悲しむかも」って、これもできなかった。


私は、彼を好きになって、弱くなったのか?
いろんなことに、一人では立ち向かえなくなってるんじゃないのか?
「守られる女」になっちゃってるんじゃないのか?

私がなりたかった自分は、そんなんじゃなかったのに。



彼は怒っていた。
深夜に一人で散歩したこと。男の子に声かけられたこと。
痴漢におしりさわられたこと。空き缶投げつけようとしたこと。
男友達から来いと誘われたこと。誘われるような人間であること。
なんか他にもいっぱい。怒られたっていうより、悲しまれたっていうか。

彼に言われて、
彼が女の人に声をかけられるところを無理矢理想像したら、いやだった。
女友達に誘われて彼がスカイダイビングしに行くのもやっぱりいやだった。
でも、彼がいやがるほどには、いやじゃなかった。
スカイダイビング誘われたら、二人で行こうよって、思った。

彼だって、友達だった頃は
痴漢の足を踏んづけてやった話に「さすが!」って言ってたのに。
旅先のハプニングも、すごく楽しそうにきいてくれてたのに。

恋人になって、なくしてしまったものがある。
それは、私にとってはきっと、とても大切なものだった。

だって私の冒険心をわかってくれる友達は、彼ぐらいだった。
本当に、大切な友達だったんだ。
こんな人は二度と現れないだろうっていうぐらいの。

今も、私のこと、とてもわかってくれる。大切にしてくれる。
だけど、大切に思ってくれるからこそ、心配も増えて

今、彼の前で、私はとっても「女」だし
私の前での彼は、とっても「男」だ。
良くも悪くも。

いっぱいため息つかれた。
なんだか苦しそうだった。あんたは全然わかってない、って言われた。

門限は10時なんだって。門限なんて、一度も言われたことないよ。
夜の散歩もだめなんだって。
人に声かけられても、無視しなくちゃだめなんだって。
安全なところにいなくちゃだめなんだって。彼が守ってくれるんだって。
彼がいないときは、痴漢撃退スプレーとか持ち歩かなくちゃならないんだって。

もう、わけわかんないよ。
私は、安全なところにいるよりも、たたかえる自分になりたかった。

結婚したら、家にいてほしいんだって。
と言っても実際は、私も働くことになるんだけど
本当は、働いてほしくない、心のせまーい(自分で言ってた)男なんだって。



私は、彼の望むような彼女になれそうもない。
いい奥さんになんて、もっとなれない。
優しい人間じゃないし、変なところ頑固で意地っ張りだし。
夜の散歩も大好き。道きかれたりするのも好き。働くのも好き。
旅が好き。冒険が好き。ドキドキすることが好き。

彼は私のどこがいいんだろ。
専業主婦したい人なんていっぱいいる。守られたい人も
きっといっぱいいるじゃない。

だんだんわからなくなってきた。
なんで私がいいの?私でいいの?
私は彼を幸せにできるの?

私じゃなくてもいいんじゃないの?

私じゃない方が、いいんじゃないの?


そして、私は。

一人で生きていける人間なんじゃないの?
孤独も結構好きだったんじゃないの?
結婚とか家庭とか、そういうのうざいって、実は思ってるんじゃないの?

かといって、気ままで奔放なカルメンでもないんだ。
私はいったい、何を望んでるの?

彼が、理想の男じゃないからって、がっかりしてるの?最低。


もーやだ。
わかんない。
逃げたい。

消えちゃいたい。

彼の前から消えてしまいたい。
いなくなってしまいたい。


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