デイドリーム ビリーバー
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2002年09月17日(火)

ときどき奇妙な夢を見る。
奇妙、といっても、舞台は普段の日常生活だ。
まだ、彼に出会っていなかった頃の。
夢の中の私は
孤独で、その分とても自由な生活を、快適に幸福に送っている。

彼に出会っていなかった、あの頃のまま。
恋をしたことのなかった、あの頃のままに。



私って。今もたいがい、しょうもない奴だけど、
あの頃は、そのしょうもなく小さい人間性に、若さ特有の
痛々しい虚栄心みたいなものが、分厚く塗り固められていて
(いや、今もゴテゴテに塗りたくっているけど)

「いい女」に見られたくて
恋愛の悩み相談には、どこかで読んだか聞いたかした
もっともらしい意見を、えらそうに言っていた。

つきあうみたいなことになっても、次会う約束など一切せずに
いきなりふらっと一人旅に出たりして、相手に泣かれて
アホらしくなってさっさと別れた。

周りに、謎の女みたいに思われるのが、楽しかった。
「何考えているのかわからない」
そう言われるのが、好きだった。


夢の中の私は、あの頃のまま、
虚栄心にまみれ、変なことばかり言っている。変なことばかりしている。

男友達の態度が、微妙に変わる。私は、その人の気持ちに気付いているけど
親しく声をかけたり、逆にわざと目の前でほかの人と仲良くしたり
気まぐれに振り回して、その反応を見て、見下している。

気持ちが不安定だからって
好きでもない人の背中に腕をまわして、あとで
もっともらしい逃げ口上並べる。向こうに悪かったって思わせておいて
毅然としているふりをしながら、実は私の方が逃げている。

恋をできない理由を
いい男がいないからだ、と強がっていても
どこかでコンプレックスにも思っていて
恋にうつつをぬかしている人を、心の奥ではバカにしていた。

実際にしてきたことだから、リアリティもあって
夢から覚めると、私はいつも不安になる。
彼との、この1年近くのことは、全部夢だったんじゃないかと。

彼の家は、行ってみると空き地で
彼の電話番号は、現在使われていなくて
友達の誰に聞いても、そんな人知らないよって。

ドキドキする胸を抑えながら、携帯に残る彼からのメールを
ベッドの上で何度も何度も読み返して
ほんとうだったのだと、ようやく安堵する。


彼と私はキスをして。
彼は、私に恋をしたのだと言った。
(しかも実は“久しぶりに”と言いやがった。むかつくことに。)
私と幸せになりたいと言った。

待ち合わせ場所に走っていったら、いつも嬉しそうに笑ってくれるのも。
ヤキモチを妬いて欲しいって言うから、妬いたフリをしているうちに
ほんとにモヤモヤがとめられなくなってきて、私が子供みたいに泣きじゃくったのも。
そうして、抱きしめられてよしよしってされただけで、不覚にも
不思議なくらい落ち着いて、泣き笑いしてしまったのも。

全部夢じゃない。



「全部夢だったのかもしれない」という気持ちのとき
いやだいやだって、半泣きみたいになって、必死で履歴を確かめているけど
もう半分の私が「ほらね」って言っている。
「あきらめなよ」「しょうがないよ」「いい夢見てたんだよ」「それで満足しなよ」

私はずっと、誰のことも本気で好きになれなくて
これからも一人で生きていくもんだと、ずっと思っていたので

ある日突然、この幸福が消えてなくなってもおかしくないと
心のどこかで思っている。
眠っている彼の、前髪を撫でているときでさえも。

準備体操なのよね、多分。
万が一の時に、傷つきすぎないための。
ああ、格好悪い。小さい。自己防衛。


だけど最近、こんなふうにも思うんだ。
彼といられる一瞬一瞬が、今本当に幸せだから
最後のときに起こるかもしれない、一つの悲しい出来事だけで
全部を台無しにしたくないと。
幸せだった日々を、幸せだったと、ちゃんと認識したいって。

別れは必ず来るもの。
それは、今この瞬間かもしれないし、何十年先かもしれない。
きれいな別れかもしれないし、こじれる別れかもしれない。
大往生によるものかもしれない。
どんな別れだとしても、きっと悲しいだろうと思う。狂ってもおかしくないぐらいに。

そしてその別れの後も、私は生きていかなくちゃならない。
次の恋をするかどうかはわからないけど

幸せだったなあって思って、生きていきたい。
少なくとも以前みたいに、自分をごまかすようなことはしたくない。
今の幸せを、なかったことにしたくない。



そこまで考えたのは、一日たって落ちついた頃で、
夢から覚めたときは、そりゃもう、甘えたメール攻撃?でした。

今回なんぞは「チュウ」の一言。ほんと意味不明。
そしたら「おはよう!チュッ」って返ってきて嬉しかったから
その日一日は「ブチュー!」から「チュウ−…スポンッ」まで
バラエティに富んだキスのメールしか、やりとりしませんでした。
一日中この調子でした。
アホですねー。子供ですねー。
こんなの誰にも見せられません(だからここに書く)。

以前の方がずっと、大人っぽいかっこいいセリフ、いっぱい吐けていた。
そんなセリフの積み重ねで「いい女」ってやつになれると思っていた。



この頃は、彼によく
「あんた、わっかりやすいなー」って言われる。
関西弁で笑いながら言われる“あんた”って言葉も、最近は好き。


今この瞬間にこの恋が終わっても
多分私は、幸福です。


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