デイドリーム ビリーバー
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2002年03月28日(木) ふたり乗り

つきあいだして4ヶ月。
私は彼に、未だにときめきっぱなしだ。


3ヶ月ぐらいで落ち着くのだろうと思っていたのだけれど

まあ、さすがに
最初の頃の、あのうわずった、感情の灰汁みたいな
わけのわからないごちゃごちゃは、だいぶおさまってきたけど

でも、未だに
会うたびにときめいている。
楽しくて楽しくてしょうがない。
そしてこれが、ずっと続くような気すら、最近はしている。



この間は二人で区役所に行った。
婚姻届じゃないっすよ(誰も聞いてない)。

私が転職したため、書類をととのえたり
登録内容を変える必要がでてきたものなど、小用がたくさんあって。

その用事を全部まとめて片付けようと思っていた日と
彼の休日がかさなって。


用事を全部済ませてから、晩ご飯デートしようか、とか、
珍しく二人そろってのオフなんだから、用事の方を後日にまわそう、とか、
話し合っているうちに

一緒にまわろうかということに。


区役所、警察、銀行、郵便局等、まわる件数が多いので
歩くのは大変だし、車も逆に不便だろうということで
自転車で、ということになった。


いやあ、しかし、いいっすねぇ。二人乗り。
ほんとに楽しかったです。
交代でハンドル握って。


暖かい陽気の中、小川に斜めに立つ桜。
長い橋の上の風。
公園で、缶ジュース飲みながら一休みして。

自転車は、同居人のサヤから借りた
いたってふつうのママチャリだったけど。
なんていうか、そのかっこ悪さが。なんとも、いい感じ。




区役所って
出生届出す人も、死亡届出す人も
婚姻届出す人も、離婚届出す人も
転出届も転入届も
住民票のうつしをもらうだけのひとも
みんな同じ待合室にいるって、すごいなあといつも思う。

人生の転機に、来るところでもあるんだよね。


私は、この季節に区役所に来ると
高校卒業して、一人暮らしをはじめた頃の気分が湧き上がって
妙に感傷的な気持ちになる。

これからのせいかつ
あたらしいにんげんかんけい
ぎんこうこうざしんせつ
こいんらんどりー
もうあのまちには
かえらない

あの頃の言葉が、断片的によみがえってきて
悲しいような切ないような、苦しいような
希望に満ちてもいるような。




「婚姻届、出しとこーか」
いたずらっぽく、彼がささやいて
「出しとく?出しとく?」
って、二人でくすくす笑って。


「出しにこような」
いつか、って
帰り際、ガラスの扉を出たところで、
腰にまわした手にぐって力をいれられたのが、嬉しかった。




帰り道、遠回りした川沿いの道は
歌をうたいながら。

「あー気持ちいいねー。なんか、うたいたいねー」
って言ったら

彼、さだまさしさんの『鐘楼流し』かなんか、うたいだして。
いや、いい歌だけどもさ。
笑い過ぎて、自転車から転げ落ちるかと思った。
いや、ほんとにいい歌なんだけど。

最後はふたりで、なぜかガンダムを熱唱して。




彼の背中は、春の光をいっぱいにあびて
ダークグレーのニットは、あたたかくてふかふか。
干したてのふとんみたいで

私はその背中に、頬をのせる。

「なんやなんや〜?甘えてきよったぞ〜?」

「ぐー」

「寝とんのか!」

「ぐー」

「こら!俺にばっかりこがせよって!起きろー!変われー!」

彼が笑いながら
ハンドルをぐにゃんぐにゃんと左右にふって

「ぎゃあー!落ちるー!いや、まじでまじで落ちるってば!」




楽しい休日。
春の休日。


こういう日が、また何年後かにも、何十年後かにも

なんどもなんども、きますように。


2002年03月27日(水) シミュレーション

人ごみのなか
ふと、彼の視線が遠くに移ったような気がして。

(前の彼女?)と、思ってしまった。

そんな偶然、なかなかないだろうけど。
でも、まったくないとも言い切れない。



もし今本当に、彼の視線の先に彼女がいたら、私はどうするんだろう。

多分「少し話してきたら?」って言うだろうな。
で、彼は
「宙ちゃんは、そんなこと気にせんでいいの」って
私の腰にまわした手を、おなかのあたりまでもってきて
ぎゅうって、抱きしめるみたいにするんだろう。
そんな気がする。


彼は、本音を言ったら、少しは話したいだろうと思う。
彼女が幸せかどうか、確かめたいだろうと思う。
別れたとはいえ、大切な人への愛情や心配は、あって当然だし。

だけど私が今の状態じゃ、彼は決して、彼女とは話せない。

「今の俺には宙ちゃんとのことの方が大事やの!」
とかなんとか、言ってくれちゃうんだ。

その言葉に、多分嘘はないけど。
私としては、自分が少し情けなくもあり。




彼いわく、
二人が別れた原因に、私のことはまったく関係なくて、
ただ二人の関係がダメになっていたからなんだそうだ。
価値観、結婚観、いろんなことが食い違ってきて、そのことについて
散々ふたりで話し合って、ふたりで決めた結論なんだそうだ。

たとえ、私と仲良くなっていなくても
結果的にはあの時期に別れていただろうって言っていた。
実際、彼女に私のことは、いっさい言ってないらしい。

つきあいはじめた頃、これを言われて
(なんだよぅ。私の方を好きになったからじゃなかったのかよぅ。)
なんて、少し思ったけど
最近になって、私はあのときの彼の言葉に、少し救われている。

あの頃、私は
彼女と争っているような気持ちだったのかもしれない。



でも恋は
そんなものじゃなくて
争うとか、そうものじゃなくて

多分、はじまるもので


それはかつて、彼と彼女の間にもはじまったように
あの時、彼と私の間にはじまっただけのことで

あの日、彼と彼女が終わったように
私達だっていつ終わってもおかしくないんだ。

もちろん終わらないように、できる限りの努力はするけど
気持ちが変わらないとは限らない。




だけど。
だからこそ。

私はしゃんと、立たなくちゃならない。
彼に守られるだけ、ではなく。
彼になぐさめられるだけ、ではなく。

考えてみたら
私のなかに巣食う、中途半端な不安が
彼を不自由にして
それが、逆に私をまた、更に不安に陥れているのかもしれない。


彼が彼女と話して
「じゃあね」って、何の迷いもなく、私のところに戻ってくる

そういうふうにまでなれたら、きっともっと自信がもてる。
自分自身に。二人の関係に。




それに、勝手な話だけど
道でばったり彼女に出会ったとき
「いい感じのふたりだな」って思われたい。

「なんだ、今はあの程度の女とつきあってるんだ。
 レベル低―い。別れてよかった」なんて思われたくない。

いや、「別れてよかった」とは、思われたいんだけど。

「やっぱり私達は、そういうめぐり合わせじゃなかったのね。
 私にはもうほかの人がいるし、あなたたちもお似合いよー」とか?
うーん…。


まあ、それはともかく、そのためには、彼女とばったり会った時に
不安で、彼の腕にしがみつくような女じゃだめってこと。



ちなみに、今の予想ではたぶんこうなる。情けないけど。

彼と彼女がばったり会う。
私は、強がって彼の背中をぽんとたたく。
「少し話しておいでよ。私あっち見てるから」

でも多分私は、結局、こわくて待っていられない。
妄想大暴走。涙ボロボロ。
携帯の電源切って行方くらまして、彼にめちゃくちゃ心配をかけさせて…。

…これはかなりガキっぽい。かっこわるい。情けない。
女がすたる。まぬけ。大アホ。




というわけで、あらためてひとりで、部屋でシミュレーションをした。


彼が、安心して彼女と話せるようなふたりの関係を
まずこの時までに築いておき、
しゃんとした笑顔で、彼の背中をぽんってたたく。

彼は安心して、私に「待ってて」って言って
彼女に「久しぶり」って言う。

二人が話している間、何を考えるだろう。

彼がやっぱり彼女を好きって思うなら、しょうがない、とか。
心は、とられたとか裏切られたとかじゃない、とか。
彼は、自分の心に正直になることを知っている人で、だからこそ
今まで彼と一緒にいられたってことは、本当に素敵なことなんだ、とか。
そして、私は、その奇跡みたいな時間を、ちゃんと大切に生きてきた、とか。

そんなことを考えているかもしれない。



そして、どれぐらいなのか時間が過ぎて、彼が戻ってくる。
「お待たせ。腹へらない?」
かなんか言って。笑う。



この時のリアクションが。
何度考えても考えても。

私は泣いてしまっていて。


30歳の私
70歳の私
いろんな私でシミュレーションしたけど
何度やっても、私は泣いてしまっていて。




情けないなあ。
どうしたらかっこいい女になれるんだろう。
ってさんざん考えたんだけど、わからなくて。

そのうち、ああ、って思いついた。



泣いて、いいのかもしれない。

こういう時は、泣いてもいいのかもしれない。


この時だけは、彼の胸におでこをくっつけて
すこしだけ泣かせてもらおう。
彼に、いいこいいこって、頭をなでてもらおう。甘えさせてもらおう。



もしかしたらそれだって、ある種、いい女かもしれない。


2002年03月24日(日) 狂い咲き

さくらは、儚い花だと思っていた。


私が通っていた小学校は、校庭がぐるりと桜に囲まれていて
満開の桜を見ると、なんとなくあの頃を思い出す。

小学校の頃のノートに、先生からの言葉が書いてあった。



あなたは、とても優しくて、落ち着いたしっかりした人です。

初めて会ったときは「おとなしそうな子だな」と思ったのですが
芯がしっかりしているのでしょう、
1年間、クラス委員としてよくクラスをまとめてくれました。

何人かが一人の子に嫌がらせをして、クラスがいやな雰囲気になっていったときも
宙さんは、流されることなく、みんなと普通に接しながら
クラスの空気を気持ちのいいものに戻してくれましたね。

時々おちゃめなことを言ってみんなを笑わせるあなたが
先生は大好きです。

中学生になったら、きっといろいろなことがあるでしょうが
小学校で学んだことを忘れずにいれば、だいたいのことは乗り越えられますよ。
小学校で学んだことは、大人になってからでも結構やくにたつんです。
(本当ですよ!)



まあ、
「褒めて育てる」が信条のような先生だったので、話半分にきくとしても。
それにしても。

絶対この頃のほうが、大人だった、などと思ったりして。




さくらは、あまい色をした、派手なくせに儚い花だと
ずっと思っていた。

だからあんまり好きじゃなかった。


だけど「桜の開花予報」がなんで天気予報で流されるのかといったら
それは、宴会の日時を決めるためなんかじゃなくて

桜の開花が、春の到来の、正しい目安になるからなんだそうだ。

ほかの花だったら「咲きました」っていう季節ニュースにはなっても
開花予報や開花宣言にまではならない。
ソメイヨシノは、ほかの花と違って、狂い咲きをすることが
少ないんだそうだ。


そして、なぜ、咲く順序が入れ替わって
あたたかい地方よりも先に、東京で開花したりするのかといえば

桜が咲くには、寒さも必要だからなんだそうだ。
ちゃんと冬の寒さを感じてからじゃないと咲かないという
なかなか頑固な花なんだそうだ。


すぐ散るイメージがあるけど、これも少し違っていて、

咲いたばかりの桜は、めったなことでは散らないらしい。
どんなに風が吹いても、雨が降っても、しつこくしつこく咲き続ける。

そして自分の寿命が終わったときに
その時になってようやく
自分から潔く、はらはらと散り始める。



ちょっとかっこいいと思った。
最近の私は、狂い咲きしまくりだから。

ちょっと暖かくなったら、ぱああっと咲いて
次の瞬間に冷たい風でも吹こうもんなら、一気に散って
すぐ笑って
すぐ泣いて
すごくたいせつなことを、見落としてしまうような気がする。
なんだかすごく大切な、真理、みたいなものを
つかめなくなっていくような気がする。

恋ってこわい。




「彼からの電話がない」
そういって落ち込む女友達が、私は大嫌いだった。

電話したいなら、すればいいじゃんって思っていた。
「きらわれるのがこわい」って無理するなら
つきあっている意味ないじゃんって思っていた。
女友達の愚痴が、大嫌いだった。

「じゃあ、別れれば?」が、口癖だった。


だけど、気がつけば、私は最近、
彼女達と同じようなことで泣いている。

きっかけは、ほんとささいなこと。
彼からのおやすみメールがなかったとか。
…なんじゃそりゃ。ガキか?

その前にどういうやり取りをしてたんだっけ、って
履歴を見てみると
なんの盛り上がりもない、淡々としたメールのやりとりだったりして



私に飽きてきたのかもしれない
最近のメールに、笑えるネタが少ないからかもしれない
この間、彼の話を途中でさえぎって、話題変えてしまったからかも
前会った時、眉毛がかたっぽ消えてたからかも
最近、腹筋さぼってて、おなかがたるんできたからかも

うざいっておもわれたくない
重い女になりたくない

だけど、ほかの人のこと、一瞬でも考えないで

うぇーん。


はっきりいって、思考回路がおかしいです。
多分、小学生の私にだって笑われます。

でも頭が働かない。
胸のあたりから、ぎゅうぎゅう音を立てて、苦しいのがのぼってきて。


もう、逃げちゃおうかな、とか。
逃げて、いっさい連絡しなかったら
彼は私のこと、いっぱい考えてくれるかな、とか。

愛情いっぱいもらって、まだ足りないのかと怒られそうだけど
たりない。
たりないです。

会いたいです。
会ってるんだけど。会いたい。

キスしたいです。
いや、してるけど。だって、今この瞬間は、できない。

だきしめて、だきしめられたい。
今。たった今。




私自身を、幸、不幸にするのは
いつでも私自身だけだと確信してきたのに

今の私は、彼の一挙一動によって
最高に幸福な気持ちにも、どん底の不幸にも落とされる。

こんなふうに思ってしまう私は

彼に恋をしてから、絶対確実に、バカになった。


2002年03月14日(木) ワシ

ショックです。

彼は、私にひとつ隠し事をしていていました。



デートの中、彼が用事を思い出して、実家に携帯をかけた。

となると、どうしても興味がわきます。家族とどんな話し方をするのか。
マザコンぽかったらどうしよう、とか、いろいろ想像膨らましたりして。

彼の背後で、ショウウィンドウに見入るフリしながら
聞いていないフリしながら

背中越し、いやらしいぐらいの、聞き耳。


「聞くな」って言われてるわけじゃないけど
いつも通りの自然な会話を、聞いてみたいじゃないですか。


電話に出たのは、お母さんだったもよう。

彼は携帯に向かって言った。
開口一番。



「あぁ、ワシやワシや!」



…鷲?



…和紙?





アナタいつも自分のこと「俺」って言ってませんでしたっけ?
違いましたっけ?

私は、関西弁きらいじゃないです。むしろ好き。
慣れている方だとも思います。おじいちゃん、関西人だったし。

だけど、ワシって、あんまり聞かないよ。

ポルノグラフィティの人が言っていたような気がするけど
あの人は島出身だったような気がするし…。
(このへんの記憶はあいまい。すいません)




別にいいのよ、ワシだって。ワシが悪いわけじゃないの。

ただ、
じゃあ彼は、今まで、私の前では、少なからずカッコつけて
「俺」って言っていたわけで。

別にいいんです、カッコつけていたって。
ああ、だけどやっぱり、こそばゆい…。




あの時以来の衝撃です。
私には、二つ違いの弟がいるんだけど。

弟は小さい頃から、私の後をついてまわって
女の子の遊びに加わりたがり
のけ者にされたらビービー泣いて鼻水たらして

「おねえちゃん、ボクも入れて〜ボクも入れて〜」
ってどこまでも、追いかけてきていた。

それが、小学校にあがった頃だったか、友達を家に連れてきて

私のことを、あろうことか
「おい」
と呼び

自分のことを
「俺」
と言った。

この子も大きくなったのねえ、なんて
小学校低学年だった私は、しみじみ思ったっけ。



彼も、こうだったんだろうか。

うちでは「ワシ」で
外では「俺」。



で、ここからは、お得意の妄想だけど


もし結婚したら、彼は自分のことを何て言うんだろう。

例えば今後、
私と、彼の両親が一緒に居合わせる機会があったとしたら、その時
彼は自分のことを何て言うんだろう。
「ワシ」?「オレ」?


そんなこと心配しなくたって、どうせ
彼の両親に紹介されるなんて、多分数年後のことなんだけど。

まあ、そのころには
私と彼が、もうつきあっていないのかもしれないし。

…いやーん。




彼が、私の前でも「ワシ」って言うようになっているかもしれないし。





…いやーーーん!!!


2002年03月13日(水) 忘れ物

「添乗員」が
「ツアーコンダクター」だの「ツアコン」だのと呼ばれて
カッコイイ仕事のように思う人が少しでもいたのは、ほんの一時のことで

今では、ほとんどみんな知っています。

「添乗員」が、
拘束時間だけがやたらと長い、肉体労働で
そのくせ給料は薄給で
体壊したら収入途絶えるのに、保険も保障も何にもない
という、とんでもない待遇だってこと。


今の世の中、完全に保障されている仕事なんてないよ、なんて
言われてしまえばそれまで。
そう言えば「最近はサラリーマンも国保」って、新聞にありましたが。

でもやっぱり
この給料で、国保と国民年金って、痛いです。かなり。



添乗員のイメージって言ったら、やっぱりアレでしょ。
あの、興ざめな旗を高々とあげて、中高年の団体をぞろぞろと連れてくる姿。

旅行雑誌に、よく投稿されてる。
「静けさを求めて行ったのに、団体客がいてがっかりだった」って。
その気持ち、すごくよくわかる。

私も、いやだった。つーか、今もいや。
もともと単なる旅好きの一人だったし。
学生時代は、添乗員になんて絶対ならないって思っていたし
客としてツアーに参加したこともない。

でも、この仕事にとりつかれてしまうと、もうだめ。
やめられないのです。楽しくて。

いまや、旗を持つのも平気です。
あれしないと、おじいちゃん、おばあちゃんがはぐれるんだもん。


でもこの旗を持つのも、実は今月で終わり。
先月から、仕事を減らして転職活動をしていたのです。
次の職場も決まった。楽しかったけど、そろそろ潮時です。
もともと次の仕事までのつなぎのつもりだったしね。




そういえば、お客様は
いつも、いろんなことをやらかしてくる。

添乗員にとって、とても面倒なのが「忘れ物」でした。

解散の直前、バスの中でマイク持って言うんです。
口をすっぱくして「絶対忘れ物をするな」って。
でも4〜50人いると、しかもそれが年配の人となると
忘れるんですよね、いろいろなものを。

今回は「毛布」でした。




バスが解散場所に到着すると
添乗員と、ドライバーさんとガイドさんは、
まずバスを降りて
下のトランクから、お客様の大荷物をバンバンと出しながら
「ありがとうございました」
「お気をつけて」
って、去っていくお客様にあいさつする。

全員がいなくなると、添乗員はもう一回バスに飛び乗る。
道路わきに停車中のバスの中
大急ぎで忘れ物チェックをするわけです。

で、それが終わると
ドライバーさんとガイドさんに
「ありがとうございました。またよろしくお願いします」
ってあいさつして、その場でバスを降りる。

忘れ物が大量の日は
ドライバーさんとガイドさんが
とても同情的なまなざしを送ってくれます。

でもバスで家までは絶対送ってくれない(当たり前)。


添乗員は、基本的に直帰。

そう。私は、この大量の荷物を持って
都内の地下鉄や電車を乗り継ぎ、アパートに帰るわけです。

ある日は、自分の分も含めて、傘を3本持って。
ある日は、発砲スチロールの箱(海産物入り)を2箱抱えて。

で、お客さんが家に着いた頃を見計らって電話して
連絡が取れたら、近所のコンビニから宅急便で送る。


まっすぐに帰る日はいいんです。
重かろうが、魚臭かろうが、頑張ります。

「忘れ物しないで」の言い方が悪かったんだ。きっと。
今度はもっと気合入れて言わなくちゃ。
あーそうですよ、全部私が悪いんですよーだ。

なんて思いながら。




でも最近は、仕事帰りにデートが控えていることが多く
しかも今回の忘れ物は。



毛布。



おいおいおいおい。
勘弁してくれよー。
おいらはこれからデートなんだよー。

ドライバーさんが、哀れみのまなざしで、紙袋を提供してくれて
それにむりやり毛布を押し込んで

彼との待ち合わせ場所に急ぐ私。
重いしカッコ悪いしで、ちょっと機嫌が悪い。




待ち合わせ場所にいた彼は
紙袋からあふれる毛布を見つめてひとこと。



「それはひそかに…えっちなお誘いなのだろうか…」

「違います!」

「外でしたいとかそういう…」

「だからちがうっつーの!」



エロじじいめ。


2002年03月09日(土) きらきらりん

最近の小田和正さんの歌の、前奏のはじまりに
「きらきらりん」って音がなるじゃないですか。

あれって、恋の瞬間の音だなあって、ちょっと思った。



片思いだった頃も
恋人になってからも
彼との待ち合わせは、仕事のあとが多い。

何時に終わるか、正確にわからない仕事をしている私は
いつも彼を待たせていて
待ち合わせ場所まで、いつも全速力で走ってしまう。


少し離れた場所から見る彼は、
コートのポケットに両手をつっこんで、駅の柱にもたれていたり。
カフェで、ぼんやり外をながめていたり。
本屋で、熱心に立ち読みしていたり。

早く会いたくて会いたくてたまらなくて、走って
まだ息が弾んでいる私の目に、
私に気付いていない、彼の姿がとびこんできたとき、いつも
ああいいう音が、なっていたような気がする。


恋が愛にかわるのだとか、いろいろ言うけれど
じつのところ、この年になってもまだよくわからない。

ただわかるのは
あの音を聞いただけで、泣いてしまいそうになる私は
今日も彼にやられっぱなしってこと。




でも最近は、彼の姿を遠くから確認するとき
「きらきらりん」よりも
「ほんわぁ」と胸が温かくなることの方が、増えてきた。

「きらきらりん」
は、片思いの頃の方が断然多かったと思う。



そういえば、あの頃。
私のことを好きになって欲しいと、願っていた頃。

雑誌に書いてあったんだか、何だったか。

“二の腕の内側の、くすぐったいところ
 あそこをさわられると、好きになりやすい”

という情報を手に入れて。

何の根拠もなさそうだけど
でも、ちょっとわかる気もする、と思った私は

「あっち行こうよ」って言うときに、
さりげなくさりげなく、そこにふれるようにしたりしていた。


“非常事態に隣り合わせた男女は、ドキドキを勘違いして
 恋に落ちやすい”

なんて言うから

じゃあドキドキさせればいいんじゃんって思って
でも一緒にバンジージャンプするわけにもいかないし

しょうがないから、彼が冗談を言うたびに

「もー、なにいってんの」って
彼の左胸、心臓があるところを、

手のひらで
ときどきグーで

バンって叩いていた。


ドキドキしろ、ドキドキしろって思いながら
叩いていた。




実は今でも叩いている。

彼が冗談を言うたび。
ドキドキしろ、ドキドキしろって思いながら。

「ドメスティックバイオレンス女やー」って言われながらも
叩き続けてる。
もちろんそんなに強くじゃないけど。


彼の心臓のドキドキは
もしかしたら、私の手動によるものなのかもしれない。



…いやっ
違います。違います。
彼の心臓のドキドキは、あくまでオートマなはずです。
多分。


でも、叩くのはやめられない。



そして今も、腕を組むとき、さりげなく
彼の二の腕の内側を、さわるようにしています。


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